よくある転生モノを書きたかった!   作:卯月ゆう

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学年別トーナメントだよ その2

「杏音! どうなってる!」

「見ただけじゃわかんないよ! とりあえず教員部隊は私に続いて!」

 

 モニタールームから粘土を固めたように現れた暮桜を見ていた千冬が苛立ちを抑えずに怒鳴る。

 だが、私だって見ただけでISの状態がわかるような神様じゃない(まぁ、少なくとも今回は何が起きてるか知ってるけど)。山田先生始め、ISでの戦闘経験が多い教員5人を引き連れて教員用のピットに駆け込むと40秒で支度してラファールに飛び乗った。

 

「クソッ! あの野郎千冬姉のっ!」

「一夏! ここで感情的になったらダメだよ。先生たちが来るからなんとかしてくれる。それに……」

「俺は弱いってか? なんだよ! 俺にだってプライドがある! 千冬姉を、俺を守ってくれたあの姿だけは穢されたくねぇんだよ!」

 

 

 フィールドに飛び込んだ教員5人は私を中心に散開。私は近距離戦用のエネルギーブレード。他の先生方にはアサルトライフルで中遠距離支援に当たってもらう。教員部隊の作戦はいつもシンプル。そのとき最善を行う事だ。だから今の最善、生徒及び来賓の避難まで時間を稼ぐために最善を尽くす。

 

 

「フィールド上の生徒は直ちに退避しなさい。織斑君、特に君は」

「杏姉! アレを見て何も思わねぇのかよ! なんで、なんでそんなに冷めたくいられるんだよ!」

「敵性IS、攻撃態勢への移行を確認。あれは仮にもブリュンヒルデです。私が囮になります。その隙に橋本先生は3人の避難誘導を。それ以外の先生は援護射撃をお願いします」

「「「「了解」」」」

 

 瞬時加速でレーゲンだった暮桜に迫ると居合の要領で一太刀。だが切り上げて弾かれ、そこから来るもう一太刀。機体片側半分のブースターで瞬時加速をかけて無理やり身体を捻るように回すと恐ろしい速度で刃が走った。

 その太刀の速さから確信した。アレは間違いなくブリュンヒルデ(千冬)だと。

 ブースターでの回転をそのままエネルギーブレードに乗せて横に刃を走らせるが、それまた上に弾かれ、再び袈裟のように振り下ろされる。弾かれた時点で反応しなければ間違いなく一太刀浴びてゲームオーバーだ。今度は脚部ブースターで頭を軸に前転すると動き出した腕に無理やり刃を当てる。

 

 

「上坂先生! 織斑君が!」

「うぉぉぉぉぉ!!」

 

 攻撃の姿勢を崩し、これから拘束しようかと言うところで彼は先生の指示に従わずにこっちに突っ込んでくる。ご丁寧に零落白夜まで添えて。

 流石にアレを私が喰らうわけにはいかないので、空から暮桜にヘッドロックをかまし、身体を無理やり彼の方向に向ければ、瞬時加速でさらに速度を乗せた彼の一撃は見事に黒い機体を一文字に切り裂いて止まった。

 再びドロリと溶けゆく機体からラウラの小さな身体が抜け落ると、地面に触れる前に抱きとめてから集まってきた先生に託し、私は既に白式を纏わず、ただ呆然とする織斑君の後ろにたった。

 

 

「杏姉、俺は間違ってたか? 大切な姉をあんな風にされて、紛い物を作られて。俺は……」

「"一夏くん"、確かに弟としてはその気持ちは正しいと思う。でも、IS学園の生徒としては間違ってる」

「そっか…… シャルにも止められたんだ。でも、やっぱり俺のプライドが、許さなかった」

「ごめんね、"織斑君"。非常時特別規定に基づき、君の身柄を拘束します」

 

 ISから降り、両手を上げた一夏君の手を結束バンドで軽く縛ると、彼の肩に手をかけ、モニタールームのあるメインタワーに向けて軽く手を上げた。

 誰も居なくなり、静まり返ったアリーナを彼を抱えて歩くように飛んでいると、一夏くんが口を開いた。

 

 

「モンドグロッソで千冬姉を捕まえたとき、杏姉は何を思ってた?」

「同情と、責任だよ。今もね」

「そっか……」

 

 ただでさえ広いフィールドがいつも以上に広く感じ、私が教員ピットに機体を戻してからモニタールームに一夏くんを連れて行くと、真っ先に千冬が出席簿を振り下ろした。

 思わず周りにいた先生たちが一瞬、首を竦めるほどの音を伴ったそれはやっぱり強烈な一撃だったようで、本人は頭の上に星を輝かせている。

 

 

「なぜ拘束されてるのかわかるか?」

「先生の指示を聞かずに飛び出したからです」

「はぁ、どうしてこうなるんだ。織斑、来週までに反省文15枚、それから上坂先生にどういう理由で捕まったのか聞いておけ」

 

 400字詰め作文用紙15枚とかレポートかよ。と内心思いつつ、私の方を不思議そうな目で見る彼に少し厳しい顔をしてやると、捨てられた子犬みたいな顔をするから面白い。

 結束バンドを切ってから教室に戻らせると大人の時間が始まる。

 

 

「それで、直接交戦してわかったことはあるか?」

「ありゃVTシステムだね。太刀筋と動き方がまるで千冬だ」

「どうしてそんなものが…… それは今考えても仕方ない。それで、ボーデヴィッヒや他の生徒は?」

「ボーデヴィッヒさんは意識を失っていますが、身体機能に問題はありませんでした。他の2人も怪我はありません。避難した生徒たちの中には混乱で転んだりした生徒も居ましたが、何も軽症です」

 

 

 

 夢を見ていた。私が上坂教官、いや、上坂先生と戦う夢だ。その私は妙に身体が軽く、太刀筋も織斑先生に褒めてもらえるのではないか、と思えるほどに美しく振れていた。

 なのに、どうしてこんなにも寂しいのだろう。見えるのは私が数々の相手を刀一振でなぎ倒していく記憶。まるで織斑先生の現役時代のようだ。

 その中にあるのは罪悪感。歓声を浴び、手を振って返す姿。これはもはや私ではないのではないか?

 ピットに戻ると上坂先生始め、数人に取り囲まれ、機体の整備が始まる。その間、織斑先生はただ、椅子に座って頭を抱えていた。"その様子が見える"

 上坂先生が駆け寄って何かを話しているが、それは聞こえない。ただ、織斑先生は何か複雑な表情を浮かべているのが見えた。

 時間が進んだのだろう。織斑先生が鋭い目で私の周りを1周すると、鋭く息を吐いてから再び歓声の中に飛び出した。

 相手は織斑先生と同じく剣技の使い手、だが、そこからが問題だった。相手の剣を切り上げるとなぜかアリーナを飛び出し、どこかへ向かうのだ。後ろから追ってくるのは上坂先生。

 何かあったのか、追ってくる先生が消え、織斑先生は港湾地帯の倉庫へと飛び込んで行った。

 そこで見たものに私は目を疑った。中央の柱に縛り付けられた少年を庇うように、周囲にいた人間を物言わぬ肉片に変えていったのだ。

 これが織斑先生の記憶だというのなら……

 そして視界が真っ暗になったと思うと突然、光を浴びせられた。

 

 

「気がついたか」

「ん……にゃ?」

「おぉ、意識戻ったね。良かったよ」

「織斑、教官? 上坂教官……」

 

 目を覚ましたラウラは少し呂律が回らない感じだが、寝ぼけているようなものだと判断。軽く頭を撫でると子猫のように目を細めて可愛い。ではなく、ちゃんと意識が戻ってきたようだ。

 

 

「どこか痛むところや感覚が無いところは?」

「ん、つぅ…… 手も足も動きます、けど……」

「まぁ、無理やり身体動かされちゃ仕方ないね。痛いなら神経も無事って事だ」

「先生、夢を、見たのです。私が妙に上手い、と言うより、織斑教官のように太刀を振るい、上坂教官と相見える夢を」

「その話、聞かせてもらおうか」

 

 


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