春真っ盛りの爽やかな空気は何処へ行ったのか、雨やら曇りやら、じめっとした天気を繰り返して6月も終わりを迎えようとしていた。
全校生徒が心待ちにしていたイベントの一つ、学年別トーナメントは梅雨空の下、なんて事なく晴天の下で始まった。
心配要素だったタッグ選びも一夏シャルロット、ラウラ簪(無論私の差し金だ)、セシ鈴(なんか語呂が良い気がする)の1年専用機持ちを始め、無事に決まった。箒ちゃんはちゃんと同じクラスの子と組めたようだ。よかったね、ぼっちじゃないかと心配してたんだ。
私たち教員は来賓の相手やら何やら面倒事をこなしつつ、与えられた役割をこなさなければならない。毎度の事だが私と千冬には色んな所から「先生辞めてウチ来てよ」って類のアプローチが耳にタコができる程あるので殺気を放って強制的に口を閉じさせる事にしている。この際ばかりは千冬も苦笑いで許してくれるから彼女も辟易してるのだろう。
さてさて、原作と異なり、私が簪ちゃんとラウラを組ませた訳だが、コレには一応理由がある。第一にVTシステムの暴走が起こる事がほぼ確定しており、その被害を抑えられる可能性が上がること。それから打鉄弐式の稼働テストも兼ねてのことだ。操縦者の実力は確かだから原作の箒ちゃんのように早々ノックアウトからの蚊帳の外、なんて事にはならないはずだ。
さあ、1年生のトーナメント表が出る。もちろん、1回戦は一夏シャルロット組対、ラウラ簪組だ。
「まさか初戦の相手がお前だとはなぁ」
「この前はごめんなさい。その……」
「いや、良いよ。ケガも無いしさ。今回は正々堂々、勝負と行こうぜ」
アリーナの真ん中に立つ4人の内、白と黒の2人からは和気藹々では無いが、胃が痛くなるようなピリピリした雰囲気は無い。だが、その隣に立つ少女たちはどうだろう。互いに互いの力を見定めるように睨み合い、見ているこっちまで冷や汗をかきそうだ。
『一夏、相手の青髪の子、ただ者じゃ無いよ。ラウラはもちろんそうだけど、こっちの子も手強い相手だと思う』
『フランスの、事前情報に違わない実力と推測できる。気は抜けない』
隣の緩やかな雰囲気を持つ2人にプライベートチャンネルで報告をすると一夏は明らかに顔が強張った。ラウラは相手を知っているためにいつもの撫で回したくなる小動物的かわいさのままだ。
試合開始15秒前コールが響くと4人の顔つきが変わる。一夏くんもさっきまでまでの腑抜け面は何処へやら、イケメンの風体だ。ラウラもラウラで本当に人を殺しそうな顔つきに変わるから恐ろしい。
え、私? 私は彼女たちのコアネットワークに
試合開始のブザーが響くとこれまた何の学習もしなかったのか愚直に瞬時加速で突っ込んでいく一夏くん。当たり前のようにAICに捕らえられるとーーおや、ニヤリと笑うなんて余裕じゃないか。
そう見ていたら彼の後ろからシャルロットが飛び出して、あっさり叩き落とされた。
何が起こったのか一瞬理解に苦しんだが、簪ちゃんが大型レールカノン(レーゲンの肩に積んであるのとは別だよ? 倉持オリジナルモデルさね!)で飛び出したシャルロットを返り討ちにしただけの事だ。シャルロット程の速度ではないとはいえ、直ぐに装備を切り替え、サブマシンガンに持ち変えるとシャルロットとのドッグファイトに持ち込んだ。
一方の一夏くんは作戦がいとも簡単に崩れ去り、自身は動けず相方はもう1人の相手で手一杯。所詮詰みである。
「すまない、これが性能の差だ。人間の、機体のな」
「嘘だろ……」
一夏くんには無慈悲にも砲口から数十センチと離れずに大口径レールカノンの洗礼を受ける事になりそうだ。あれは痛いだろうなぁ
私がドイツでやったやり口そっくりだ。生身の部分に物理攻撃を叩き込むとやっぱり気持ち悪くて吐きそうになるほどの衝撃を受けるが、操縦者保護機能がそれを許してくれない。ISが起動している限り操縦者は死ねないのだ。
「ラウラっ! 後ろ!」
AICには多大な集中力を必要とする、と言うのを知ってか知らずかシャルロットが少しばかりの弾丸をラウラに放つ。まともなダメージにはならないが、気を散らすには十分。そのはずだったが……
「おいおい、何でもありかよ……」
「訓練の賜物だ。数発貰ってしまったがな」
ラウラの背後では鉛玉が空中で静止しており、彼女が少し横に逸れてから手を振ればその鉛玉は本来ラウラがいたところを通り過ぎ、その先の一夏くんへと向かう。
ラウラのチートっぷりをまざまざと見せつけられたところで試合は再び動き出す。
アリーナ中心の2人を避けるようにドッグファイトを繰り広げ、最初の一撃分、簪のリードで進んでいたところ、恐れていた事態の一つが起こってしまった。
機体トラブルだ。
やはりプロトタイプな上に、稼働時間も確保できていないため、こうした戦闘機動を実際に行った際にどんな不具合が出るのかわからなかったのだ。シミュレーションはしたが、本来の打鉄の得意とする近距離戦ではないレンジでの戦闘、それも空中戦と言う3次元方向への負荷が大きい場面で肝心なブースターが逝ってしまった。
『簪、無事か?』
『ブースター以外は。プランDに移行』
『了解した』
不安定に飛ぶ機体を無理やり押さえ込みながらシャルロットからの攻撃も凌ぐと、一夏くんを磔にするラウラからの援護射撃もあって、無事に地上に降り立った。
そこからが彼女らのプランだ。機動力を失った簪ちゃんが大口径火砲をメインにした固定砲台になる代わりに、ラウラが一夏くんとシャルロットの相手をしようと言うらしい。
第二ラウンド開始の合図はワイヤーブレードに引きずられたシャルロットが一夏くんに叩きつけられた瞬間からだった。
「うぉっ!?」
「わぁぁっ!?」
地面を転がる2人にレールカノンはもちろん、榴弾砲やらなにやら、撃てるものはぜんぶ撃てと言わんはわかりに榴弾フレシェット弾何でもかんでも降り注ぐ。
一夏くんが先行して飛び出し、動けない的となった簪ちゃんを狙うが、ラウラのAICに止められ、逆にレールカノンでフルボッコ。シャルロットはラウラへ瞬時加速で迫り、ショットガンで一気にシールドエネルギーを削って行った。
コレにはラウラも堪らずAICの拘束を解いてしまい、簪ちゃんは一夏くんとの地上戦にもつれ込むも、長くは持たないだろう。
逆に勝負がわからなくなってきたのはラウラとシャルロット。
エネルギー残量で言えば、間違いなくシャルロットが不利だが、今のショットガン連撃で主武装のレールカノンが破壊されてしまった。こうなると予備のアサルトライフルやプラズマブレードで戦うしかない。
「少しはお眼鏡に叶ったかな?」
「もちろん、これ以上ないくらいに素晴らしい……なんだ? いや、何っ! クソっ、 嫌だ、やめろ! 嫌だぁぁぁぁぁぁぁ!」
シャルロットと相対するように姿勢を立て直したところでラウラの機体を紫電が包み、装甲を溶かしていく。
少女の悲しい叫びに思わず一夏くんも簪ちゃんも目を向け、そして信じられないものを見た様な顔をしている。
教員専用のモニタールームで眺めていた私始め千冬や他の教員も一気に慌しく動き出す。
千冬は即座に現状を先日の黒いあんちきしょうと同じ、危険度レベルDと判定、教員部隊を編成し鎮圧を図ることを決定した。
その間にもレーゲンだったなにかは姿を変え、腕、脚、腰と形作っていく。
そして最後に見たシルエットは
「「暮桜……」」
そう、私と千冬が一番良く知る嘗ての千冬だったのだから。
少し短い(それでも3,000字)けどここで一旦切らせていただきますね。
最近が調子良すぎて1話平均4000字とか書いちゃうからボリューム感あるように見えたけど、こっちが普通ですので。