よくある転生モノを書きたかった!   作:卯月ゆう

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こんなところにお前が居るのか……! クラスメイトがやばそうだよ

 ぼさっと聞いていた自己紹介の時にふと耳に覚えのある名前を聞いてしれっとその声の主を見てみると、同い年とは思えないおっぱ……ではなくて、とても流暢な日本語を放すパツキンのチャンネー(死語)が居た。名前はナターシャ・ファイルス。後々アメリカで銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)のテストパイロットを務める彼女だ。

 なぜここに居るかなんて野暮な疑問は浮かばず、原作より早いタイミングで生まれたこの学園に彼女が入ったことが驚きだった。

 その後は原作キャラは登場せず、セシなんとかさんみたいにいきなり喧嘩を売るアホも現れず(そりゃ喧嘩を売る相手が居ないから当然だが)、織田先生の一言で私と千冬が素っ頓狂な声をあげるまでクラスには自己紹介する人間と、先生の声しか無かった。

 

 

「それで、篠ノ之は休みか。初日から欠席とは、世紀の大天才様が呆れるね……」

「「はぁっ!?」」

「どうした、上坂、織斑」

「束はこのクラスなんですか? 教員ではなく?」

「ああ。名簿には彼女の名前がある。不思議でならないが、そんなことは私が気にすることではないしな」

 

 Need to know をよくわかっていらっしゃるお言葉だが、私達にはそれが最重要課題なのですよ、先生。

 と思っていた頃にやってくるのが束なのを私たちはよく知っている。反射的に私が右手を前に伸ばし、千冬がその斜めしたで左手を構えると扉を開けて入ってきた束が私の腕をくぐるべく身をかがめた。そこに千冬のアッパーが入ると「ぐふぉっ」とうめき声を上げて入ってきた扉に戻り、扉が閉まった。

 記念すべきIS学園での束の第一声は女の子の出してはいけないうめき声だ。やったね、束。

 

「先生、進めてください」

「あ、ああ。そうしよう。では、これから学園生活上の諸注意を説明する。生活ガイドの5ページを開け」

 

 最近わかったことだが、この時点での束はまだ細胞単位でオーバースペックなんてことはなく、せいぜいハイスペック止まりだ。だから千冬のアッパーをいくら左手でよわいからとは言え、まともに喰らえば1時間は寝ているだろう。

 そして先生から学園生活、寮生活の諸注意を受けると次に待っているのは委員決めだった。

 

 

「それではこれから委員を決めよう。中学校でもあっただろうが、現時点では生徒会、学級委員、保健委員の3つだ。一度前のモニターに一覧を出すから2分で決めて立候補しろ」

 

 教卓の端末を先生が操作して黒板代わりの大型スクリーンに委員会の系統図を表示した。トップにあるのが生徒会。そしてその下に学級委員保健委員がある。風紀委員やそんな委員会はない。残念

 私もそうだが、クラスの殆どが我関せずと言った様相で、あっという間に時間切れになった。

 

 

「時間だ。いい忘れていたが、生徒会は既に決まっている。後で連絡があるだろうが、入試の成績上位者だ。なのでひとまず学級委員が1人、保健委員は2人居ればいいだろう。まず学級委員だ、誰がやる?」

「ハイ! センセ!」

「よし。君は、ハイデマンか。わかった。他には? 居なければ彼女に任せよう」

 

 元気に返事をしたのはドイツからの留学生。なんで覚えてるかって? 私がドイツびいきだからだよ。だって、ご飯おいしいし女の子かわいいし、設定が厨二臭くてカッコいいから。原作でもブラックラビッ党だしね。

 現実では、おそらく工業国としてISに関わって置くために他にもドイツからの娘は居るはずだ。ぐへへ、今度連絡先交換しよっと。

 どうやら他の立候補は無かったようで、無事に学級委員が決まった。保健委員はいかにも"The 保健委員"のような優しそうな女の子が就き、すんなりと委員決めが終わるとISスーツの注文についてやら何やらもあったが、織田先生のカリスマか、クラスメイトが優秀なのか、スムーズに事が進んで時間が余ってしまった。

 先生は廊下に出て気絶していた束を回収すると彼女の席に突っ伏させ、そのまま「少し待っていろ」と言ってどこかに行ってしまった。

 

 

「生徒会は入試の成績上位者とか……うわぁ……」

「お前と私は確定だな。3人目4人目は誰だろう。楽しみだ」

「すこしイイですか?」

「ほぇ?」

 

 先生がいなくなった間に千冬としゃべっていたらファイルスさんに声をかけられてしまった。それも変な声出たし。第一印象最悪だよぉ……

 

 

「生徒会について何か仰っていたので」

「あぁ、うん。誰だろうね、って。ファイルスさん、だっけ?」

「ハイ、アメリカから来ました。ナターシャ・ファイルスです。ナターシャで良いですよ」

「ナターシャが3人目?」

「多分、ですけどね」

 

 そんな話をしていた間に織田先生が戻ってきて開口一番こう言い放ちました。

 

 

「アリーナでISが4機取れた。5分で体育着に着替えて集合だ。ついでに言っておくとウチのクラスから生徒会に上坂、織斑、ファイルスの3人が出ることになった。頑張れよ。あとの人員は……放課後のお楽しみだな」

 

 笑ってから踵を返してアリーナ方面に綺麗に歩く先生をぼさっと眺めたクラスメイトたちは10秒ほどの間を置いて復活。さすがに先生の目がある中で走るのはマズいので各々の携帯で構内図を見ながら早足でアリーナに向かう。千冬は未だに気を失っている束を担ぐと(お姫様抱っこなんて生易しいものではない、肩に担ぐのだ)窓を開け、束を落としてから自分も飛び降りました。

 私はそんな千冬をナターシャと2人で見届けてから、顔を合わせ、走ってアリーナに向かうのでした。

 

 アリーナで待っていたのはスカイブルーのジャージを着て腕を組む織田先生。そしてその左右に2機の日本の第1世代IS撃鉄とアメリカの第1世代ISエクスペリメントが並んでいた。

 学校指定のジャージを着た私達を整列させると7人前後のグループに分けてからIS操縦に関する注意を説明すると自ら撃鉄を纏った。ISスーツではないため、操作に若干のラグが出るようだが、そもそもすべての動作がニブチンな第1世代だからISスーツでのアドバンテージなんてあってないようなものだろう。

 

 

「いいか、ISは車などの機械のように自らが何かを操作して動かすものではない。それこそ自分が「前に進みたい」という思いで動かすものだ。ブースターを吹かしたければ自分が前に出るイメージを作ること。すべての動作はイメージで形作られる。さて、ここには入試の主席と次席も居ることだ、まずは実演してもらう。上坂、織斑。好きな方に乗れ」

「「はい」」

 

 そうして千冬は撃鉄を、私はエクスペリメントに身を預け、起動させるとスッと重力の鎖から解き放たれる。その間に機体制御をオートからマニュアルに変更して軽く手を握ったり腕を振ったりして機体の感覚を掴んだ。やはりというべきか、黒騎士と比べるととても遅い。なんというか、筋肉痛で重くなった腕を振っているような感じだ。千冬も同じようで、剣の構えを取って腕を振ると首を傾げていた。

 

 

「ウォーミングアップはもういいか? まずブースターを使って向こうの壁まで行って、タッチして戻ってこい。急がなくていいから丁寧な操縦をしてみろ」

「「はい」」

 

 ISが完成してから丸1年、世界の誰よりもISに乗っているなんてことは口が裂けても言えないが少なくとも初心者ぶった動きで機体をPICを使って少し持ち上げると少しずつブースターの出力を上げていく。スッと前に出る感覚は他のどんな機械にもない感覚だろう。なんといっても空気抵抗以外の抵抗が無いのだから。そして千冬と横並びのまま余り速度を上げずに壁まで行ってタッチ、くるりとターンして元の位置に戻った。

 クラスメイトからの拍手と織田先生の頷きを見てからISを降りようと腰をかがめると先生はそれを制した。

 

 

「さて、君たちも知っていると思うが、4年後、君たちが卒業した翌年か? ISを用いた競技会が開かれることになっている。そこで競われるのは単純なISの強さだ」

「先生、ISの軍事的利用は禁止されてるはずです」

「確かに、軍事利用は条約で禁止されている。だが、2機でミサイル2000発以上を片付け、戦闘機を30機もパイロットを殺さずに無力化するんだぞ? 最強の兵器になると考えないわけがないだろう? 少し長くなるが、私はあの時あの2機と対峙するべく基地を飛び立ったんだ。国会の上空に着くと飛んでいるのは人だったんだ。信じられないだろう? だが、その内の1機、黒い方が私の方を向くとあっという間に距離を詰め、次の瞬間には翼がなくなっていた。為す術が無かったのは事実だが、まさか一瞬で片を付けられるなんて思わなかったな。私はすぐさま機体を捨てた。そして篠ノ之博士がISを発表した時に思ったよ。アイツは最強の兵器だとね」

 

 私は覚えている。1機のF-35が私の左後方から迫っていたのを。そして、そっちを見た時にそのパイロットと目が合ったのを。確かに女性だった。まさか先生だったなんて……

 先生が私を見た気がした。私は恐れた。私が黒騎士であるとわかっているのではないかと。

 そして先生は続けた。

 

 

「だが、技術というのが戦争とともに進化してきたのも事実だ。コンピューターやロケット、何でもそうだ。その中にISを入れようという話だ。効率のいいブースターはロケットに転用できる。超周波で振動するブレードも災害救助で活躍することだろう。爆薬、火薬、エネルギーライフル、なんでもモノは使いようというやつだ。だから世界中でISを進化させようとやっ気になっているんだ。そこで、2人には模擬戦をやってもらおうと思う。嫌なら構わないが……、やるか?」

「どうする、杏音?」

「私は構わないけど……」

 

 言葉では少し迷っている様子を見せつつプライベートチャンネルでは超焦っているのだ。

 

 

 《ヤバいヤバい、今ここで模擬戦なんてやったら実力がバレちゃう》

 《だがここで避けるのも……》

 《でも千冬は勝負事で手を抜けないじゃん!》

 《それは失礼だから当然だろう》

 《んが-!》

 

 と言ったやり取りの末、千冬がやります。と言ったおかげで私は慣れないライフルを片手に千冬と相対している。

 千冬の手には一振りの長刀。それを中段にかまえている。私の手元にはM4ライフルをIS向けに改修したM4-ISというライフル。鉄砲なんて見たことしか無かった私は記憶を頼りにそれっぽく構えると銃口を千冬に向けた。

 

 

 《上坂、ライフルを構えるのは初めてか?》

 《はい》

 《もっと力を抜いて楽に構えろ。力むと反動で吹き飛んじまうぞ》

 

 生徒を客席に移した先生はコントロールルームから2人を見ている。オープンチャンネルで話す内容は客席にも聞こえてるはずだ。

 千冬は慣れ親しんだ長刀。対する私は初めて使うライフル。一応バススロットにタクティカルナイフとハンドガンが入っているがそれを使う間に入った時には斬られているだろう。

 剣術の腕前では私と千冬の差は歴然。機体コントロールでは私にアドバンテージがあるものの、彼女は才能型だからいきなり何かに目覚めたりしかねない。

 

 

 《よし、2人共いいようだな。制限時間は15分、先にシールドエネルギーを削りきった方の勝ちだ。時間切れの時は……、まぁわかるな。では、始めっ!》

 

 この時初めて私は千冬と直接刃を交えた。


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