よくある転生モノを書きたかった!   作:卯月ゆう

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転入生はブロンド貴公子と最強の妹だよ!

 クラス対抗戦のゴタゴタを少しばかり引きずる6月の頭。被害としては全て丸く収まり、箒ちゃんは若干一夏くんへの依存度が上がったものの、普通にクラスで楽しくしているそうだ。良かった。

 あの後束を電話で問い詰めると全力で言い逃れをしたので箒ちゃんがPTSDかもよ、と言うと一瞬言葉に詰まった。多分これが答えだ。

 さて、転入生がまた来る、と言うのは一向に構わない事だが、事前に連絡を受けていたドイツからの転入生はいいとして、唐突に連絡が来たフランスからの子に問題があった。

 

 

「男の子……?」

「この証明写真を見る限り私には女の子に見えるのだけど?」

「ですよねぇ……」

 

 放課後の生徒会室で楯無と書類を眺めながらため息をつく。

 転入生の一人が書類上、男子なのだ。楯無と二人で戸籍やら何やらも洗ったが、本当に男の子。ただ、出生の記録は無かったが。

 それもご丁寧にISシェアヨーロッパNo.1のデュノア社のご子息。とても胡散臭い。正直この時点で真っ黒だが、動機がないし、証拠も所々かけた書類だけ。

 

 

「真っ黒なんだけどなんとも現時点では何も出来ないわね」

「とりあえず入れて様子見かな? 私のクラスだし」

「そうね。もう一人は?」

「私と千冬の秘蔵っ子。ドイツが生み出した生物兵器」

「はぁ?」

「まぁ、会えばわかるさ」

 

 そしてそれから数日、2組の教室には2人の転入生が立っていた。片や肩まで伸びる金髪を低い位置でまとめたTHE.王子様、片や少しだぼだぼ気味の制服に着られ、黒いウサギのぬいぐるみを片手に抱きしめながら少し上目遣いでキョロキョロする小動物。何このかわいい生き物。

 

 

「えーっと、こんな時期ではありますが、クラスに転入生が入る事になりました。じゃ、デュノア君から自己紹介を」

「はい。シャルル・デュノアと言います。フランスから来ました。この国では不慣れな事も多いと思いますが、みなさん、よろしくお願いします」

 

 もちろんクラスは黄色い歓声に包まれる。私はイヤープラグを彼を呼んでからすぐ装着し、小動物の耳を塞いでいた。彼女もまたお友達の長い耳を塞いでいる。

 

 

「次、ボーデヴィッヒさん」

「あ、うぅ…… ドイツより参りまし、た。ラウラ・ボーデヴィッヒです。よろしくお願いします、お姉ちゃん?」

 

 一瞬の間をおいてクラスの数人が血を吹き出しながら倒れ、多くが鼻を押さえて震えている。そしてトドメの一撃と言わんばかりに隣のデュノアにも向かって「お兄ちゃんも、よろしく」と言えばデュノア君まで鼻を押さえてうずくまる始末だ。廊下から覗いていた楯無も気がつくと見えなくなっていたから恐らくヤられたのだろう。このドイツが誇る最嬌の生物兵器に。

 

 

「ラウラ、お友達が気に入ってるのはわかるけど、流石にここまで連れてくるのはマズイっていうか、私が千冬に怒られるって言うか……」

「教官、ハンナは我が戦友であり、相棒です。片時も離れる事はできません」

「いや、それはわかるんだけど、ここ学校だし、少しは分別を。レアルシューレにも連れてってたの?」

「クラリッサがそうしろと。口うるさい教師は最高の成績で黙らせました」

 

 マジか。というか、最初のクッソかわいいあれはどうした。つき通せば学園の征服すら夢じゃないぞ。

 と、話がブレまくるのでとりあえず授業中のお喋りは禁止、と念を押してから2人(と1匹?)を席に着かせた。出席簿のラウラの備考欄に「相棒あり、授業中会話禁止令」と書いてから1限目に行くべく教室を出た。

 さて、2組は早くもラウラとデュノア君の狂信者となったようで、1限目の実技の時間は2人のところに大挙して押し寄せ、それが終われば2人を囲んで食堂に押し寄せ、あまりの事態に涙目になるラウラを20人で慰めたりよくわからない事態が発生したようだが、私は千冬に睨まれつつもそれを眺めているだけにした。ちなみにラウラの相棒、IS実技の時間はしっかりとISに乗っているのをご存知だろうか?

 ラウラの数年来の相棒である黒うさぎ(のぬいぐるみ)のハンナ、そんな彼女に去年私がISのスケールモデル(1/5スケール)をプレゼントしたのだ。レーゲン型ベースのオリジナルモデルで、グラウンドの片隅で授業に参加している。

 

 ところ変わって週末のアリーナ。自主練に励む生徒が見られるここで私もまた整備科の生徒とともに隣接するピットで実習教材のラファールを「元どおり」に戻す作業に追われていた。

 教材としてのISに個体差があってはならないので、あらかじめ決められたスペックに合わせる必要があるのだ。その作業を1ヶ月毎に行わなければならないから、いくら4週間に分散させているとはいえなかなか骨の折れる作業量。だから整備科の生徒に手伝ってもらい、3年にはある程度の仕事を任せて技量アップと作業効率化の両方を果たしてしまおうというわけ。ちゃんと偉い先生の許可は得てるよ?

 

 

「ねぇねぇ、あれって織斑君と噂の転校生じゃない?」

「本当だ、うわぁ、私もデュノア君に手取り足取り教わりたいなぁ」

 

 外を見ながら話す声が聞こえ、私も手を止めて外を見れば一夏くんがデュノア君にライフルの撃ち方を教わっているようだ。白式には射撃武器がないから銃に触れるのは初めてになるのかな?

 それにしても下手くそ過ぎる。ISなら基本的な射撃補助で100m離れても30cm×30cm位にグルーピングが収まるはずだ。なのに的は倒れる気配すら感じない。

 

 

「織斑君って……」

「下手?」

「さ、これ以上彼を見てない、彼を傷つけない! いくら下手くそでも練習でなんとでもなるよ。いまは君たちが練習する番だからなー!」

 

 これ以上ボロカスに言われるのは居た堪れないので彼女たちの意識をこちらに引き戻したところで再び誰かの声が響いた。

 

 

「ど、ドイツの第3世代!」

「えぇっ! まだトライアル段階じゃないの!?」

 

 整備科女子は新型に目がないのだ。うん。

 

 

「織斑一夏だな」

 

 ちょっといつもよりドスの効いたラウラの声がオープンチャンネルで響く。オープンチャンネルだとピットの中の設備で聞けるから面白いよね。

 

 

「そうだけど、どうかしたか?」

「貴様も専用機持ちだそうだな、私と戦え」

「嫌だね、理由がないだろ?」

「理由なら…… 教官方の強さの理由が知りたいからだ」

 

 いつの間にか自主練組が彼らから距離を置き始め、事の行く末を見守るようになった。

 ちなみに、ラウラの右肩上空にビットのようにハンナがいるが、恐らくAICで止めているのだろう。

 

 

「強さの理由? まさか、千冬姉の教え子か!」

「その通り。織斑教官と上坂教官は言っていた。守りたいものが強さになると。ならば姉を守ろうとするお前は強いはず、行くぞ!」

 

 あー、ラウラのダメなところが早くも発揮されてしまったようだ。ちょっと思い込みが激しい所がある。特に千冬と私絡みでは。

 確かに私と千冬はそういう事言ったけどさ、一夏くんが強いわけ無いじゃない。

 それに周りを見てないのも減点。軍人として一般人への被害を抑えるのは当然の事よ?

 

 

「ラファール出すよ。武装はブレードだけでいいからインストールなしで。スタートアップ!」

「「「はい!」」」

 

 白衣を脱いでワイシャツとジーンズでラファールに乗ると、「電位差検知にラグがある」なんて警告を出してくるが、それを無視して起動させて、ラックに置かれたブレードを1本持ってフィールドに出た。

 

 

「ボーデヴィッヒ! 直ちに戦闘を中止しなさい!」

「教官!」

 

 すでに1発ぶちかまし、デュノア君に防がれてたところで舌戦が始まる前に私が飛び込んだ。

 デュノア君はホッとした顔をしてるし、一夏くんは私がISに乗っているのが信じられない、みたいな顔をしている。実技の時間で乗ったこと……ないや。一夏くんの眼の前ではモンド・グロッソ以来かになるという事…… そして、ラウラ、君は…… はぁ。

 

 

「教官! これは……」

「いや、一通り聞いてたからわかるけどさ、もっと場所考えなよ。今回は周りが空気読んで距離置いてたから射線上に誰もいなかったけど、市街地でも同じ事するの?」

「…………」

「夕方、職員室に来なさい。2人とも怪我はない?」

「はい、僕は。一夏も大丈夫だよね?」

「ああ、シャルルのおかげでな。杏姉、あんまりあの子を責めないでくれよ。悪気があったわけじゃなさそうだしさ。気持ちわからないわけでもないし……」

「でも、ある程度のルールは必要なの。わかって」

 

 ハンナを抱きしめるラウラをもう一度見てからピットに戻ると再び作業を始めた。

 約束通り、夕方の職員室にラウラはやってきた。ハンナは留守番なようだ。

 

 

「ボーデヴィッヒ、入ります。上坂教官」

「いまは上坂先生。ねぇ、聞くまでもないけど、なんで一夏くんを撃ったの?」

「彼が強者である、と思ったためです」

「はぁ…… 彼、強いと思う?」

「実力的にはただの的でしょう」

「でしょ? もうこう言うのはやめてよ? 軍でやらかしたら始末書だよ? 今回は大きな被害もないし、初めてだから口頭注意だけで済ませるけど、次は反省文だからね」

「申し訳ありません」

「よし、じゃ、ご飯に行こうか」

 

 一度部屋によってハンナを連れてきたラウラと共に食堂に向かうとちょうど夕食時なのか、多くの席が埋まっていた。

 ラウラを肩車して辺りを見回して空席を探しているとちょうど2組の子がこちらに向かって手を振っているのが見えた。

 

 

「教官、10時の方向距離15、未唯達が」

「よし来た、前進!」

「Ja!」

 

 高校生と教師のやり取りでは無いが、上手いことテーブルの合間を縫って彼女達の占拠するテーブルにたどり着くと、ラウラを下ろした。

 ハンナもテーブルの上でお座りだ。

 

 

「聞いたよ、ラウラ〜 杏音先生からお説教だったんだって?」

「うぅ〜 あれは私が悪いから……」

「よしよし、織斑君が悪いね〜」

 

 どこをどう解釈したらそうなる。そして、お前ら私を睨むな。千冬なら初っ端から反省文10枚課してるぞ。

 心なしかテーブルの上のハンナも項垂れているように見える(頭が重いから、なんで無粋なこと言うなよ?)。2人は確固たる絆で結ばれているようだ。

 

 

「杏音先生も夜ご飯? 何食べるの〜?」

「私はいつも日替わりだよ。選ぶの面倒だしね」

「え〜せっかくこんなにメニューがあるんだからもったいないよ〜 ラウラは何食べる?」

「わ、私は…… オムライスが食べたい……」

「か、かわいい!」

 

 ちょっと恥ずかしそうに「オムライス」と言うラウラにテーブルの一同デレデレとしただらしない笑みを浮かべてしまう。今ならお姉さんがオムライスでもなんでも食べさせちゃいたい。ついでにデザートまでつけて嬉しそうに頬張るのを見たい。ラウラは天使。うん。

 

 

「教官、食事をお持ちします。日替わりセットでよろしいですか?」

「いや、ここは軍じゃないし、自分で取りに行くよ。あと、先生だよ。今日は休みだから良いけど」

 

 ラウラと2人で食券を買うと、トレーを持ってカウンターに並ぶ。いつものおばちゃんから日替わりセットの野菜炒めと味噌汁、少し多めのご飯を受け取ると漬物を小皿に盛って席に戻った。

 学食で1番の悩みはカウンターに並んでいるときに他の美味しそうな匂いが漂ってくる事だろう。並んでいる時にはすでに自分のメニューは決まっているために変える事は出来ないが、非常に強力な誘惑だと思う。

 

 

「1日の終わりに学食で日替わりセットを食べる。もはや儀式だね」

「そういえば、先生って休みとかあるの? 杏音先生いつも学園にいる気がするんだけど」

「たまには家に帰ってるよ。ーー掃除しに……」

 

 そう、たまには。休日出勤の代わりに少しばかり休みを融通してもらったりしている。その結果が昨年の夏休み。

 他にも学校で論文いたり倉敷に頼まれた研究を理論だけでも進めたり、なんだかんだでお仕事はしてる。そのお仕事が私の場合、趣味と同義だったりするだけで。

 

 

「最後は何も聞いてない、聞いてないからね杏音先生」

 

 今日一日で私の印象が大きく変わった気がしなくもないが、まあ、悪い印象を与えたわけではないのでまだいいだろう。

 次は確か全校生徒のリーグ戦。ただし、黒いあんちきしょうのせいでタッグ戦になる事が決まっているのでこれからそのタッグ決めだ。また忙しくなりそうだ。




気がつけば評価5超え…
これでも"普通"ですが、それでも評価が数値で出るほどにみなさまに読まれていることに感謝。ありがとうございます。
これからもよろしくお願い致します。

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