よくある転生モノを書きたかった!   作:卯月ゆう

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転入生を迎えてクラス対抗戦に挑むよ!

 クラス代表決めで一悶着あったものの、その熱も冷めて通常運転に移行しつつある4月の下旬。連絡のあった中国の代表候補がついに学園にやってきた。情報管制を取っていただけあって生徒に転入生情報が流れたのは昨日の夜か今朝。転入生の彼女が昨日の夜に着いたから誰かが見ていたのかもしれない。

 8時頃に彼女の部屋を伺った時にはすごい顔をされたが、一つ笑顔で「わかりましたか?」と聞いたら全力で頷いてくれたので良しとしよう。

 なんやかんやでホームルーム。テンプレ通りに「噂は流れているようですが、転入生を迎える事になりました。凰さん、入って」と流れるように彼女をクラスに招くと若干頬を引きつらせながら横目で私の様子を伺いつつ、ぎこちなく挨拶をしてくれた。

 

 

「ち、中国から来ました、凰 鈴音です。えーと、杏音さん……」

「凰さんは日本で数年間暮らしていた事もあるのでこっちでの生活も慣れたものと思います。候補生でもある彼女から多くを学びとってください。あと、ここでは上坂先生と呼びなさい」

「ハイ」

 

 猫被りやがって。おかげでヒソヒソと「杏音先生なんか怖くない?」とか「ドSな杏音先生、イイ……」とか色々聞こえるじゃん。

 なぜ私が彼女に恐れられているかというと、それは数年前まで遡る。

 学園から防衛省に鞍替えしようかという頃に少しばかり機嫌が悪い時期があった。

 ちょうどその時期に一夏くんと彼女の距離が急接近したのもあってちまちま家に来ることがあったのだ。それで、偶然自分の部屋を荒らしまわる瞬間を見られてしまい、以来このザマだ。

 

 

「んじゃ、早速授業に移ろう。続きからだから……47ページの2からだっけ?」

 

 授業が終わるとともに即座に教室から脱出した凰さん。もちろん目当ては一夏くんだろう。だが、御愁傷様。隣の担任は千冬だし、次の授業は千冬のIS武装入門だ。

 もちろん、転入生を逃すまいとぞろぞろと廊下に出て行く。そして残った数人が私の元にやってくる。

 

 

「ねぇ、杏音先生。なんか、嫌な事でもあった?」

「ん? なんで?」

「なんか、転入生にキツくない? あの子知り合いっぽいけど、普段と違いすぎでしょ」

「うーん? 知り合いっちゃ知り合いだけど…… なんと言うか、見られたくないものを見られて口封じをしたというか……」

 

 私を囲う数人の顔が引きつる。そんなに私の口封じが恐ろしいか。

 私のイメージの悪さを感じつつ、過去を振り返る。ドアの隙間から部屋を覗き見ていた彼女にやったことは、そのまま部屋に引きずり込んでベッドに座らせ、ただ一言「誰にも言うなよ。千冬と両親には特に」と一言言ってから部屋から出しただけだ。たぶんその時の顔がマズかったのだろうか? たぶんきっとそうだろう。

 

 

「そんなに私怖いかなぁ? あの子にただ「誰にも言うなよ」って言っただけなんだけど……」

「杏音先生は怖くないんだけど……」

「部活の先輩から時々整備棟の部屋で高笑いしてるとか、ヤバいIS作ってるとか、実はマッドサイエンティストとか、色々聞いちゃって」

「で、でも、先輩はみんな笑いながら言ってたから冗談、だよね?」

 

 思い当たる節がチラホラ。整備棟の部屋で高笑いしたことあるし、ファウストを弄ってて爆音を出す事もある。知り合い()に頼まれて生物研究をする事もあるし、情報収集の時には大量のウインドウを相手にする。

 傍目から見ればヤバい人だよなぁ、コレ。

 私が苦笑いしたのがマズかったが、引きつり気味の顔が固まる。

 

 

「い、いや、本当はIS弄ってて気分が乗ってくると笑いたくなるっていうか! そ、それに私だってそんなヤバい研究に手を染めてるつもりはないよ!?」

「杏音先生…… ごめん、ちょっと引いた」

「すごい人ってのは知ってたけど、ねぇ?」

「やっぱり天才ってどこかおかしいんだ……」

 

 先生悲しい! 泣くぞ!

 私が必死の弁解を試みる間に短い休み時間は終わり、生徒たちが戻ってきた。凰さんが頭を押さえて駆け込んでクラス勢ぞろい。アレは千冬の出席簿を喰らったな。そして見事に私と目が合い無事死亡、と。

 後から聞いた話では一夏くんに会いに行き、後からやってきた千冬に「なんで杏音さんが担任なんだ嫌だ」と泣きついたらしい。そんなに嫌か。候補生が泣きつくとマジでクラス替えとかに成りかねないからやめてほしい。1年の先生方の胃が痛む。

 無事にその日を乗り切り、翌日の朝、メールを見ると楊姐さんからメールが入っていて、「ウチの候補生に何をしてくれた」と怒られた。実際は候補生になる前からのトラウマみたいです。私に非はない!

 その日の凰さんは少しばかり元気を取り戻し、前田さんにクラス代表を代わってくれと頼んだらしいが、誰かが「杏音先生との連絡役もしなきゃいけないよ」と言ったのが効いたらしく、素直に引き下がったようだ。

 もちろんあの自己中大国から御達しが早速やってきて先生たちの間ではクラス替えの論議が始まるのだが、それはまた別の話。どうもお隣の国で(上坂杏音)を敵に回すべきではないとか、それなら候補生を変えるべきという意見も出たらしいが、候補生の中で唯一使える(一夏くんとのコネがある)凰さんを手放すのがよほど惜しかったらしい。

 千冬が凰さんと私に事情聴取に来て、私と凰さんが同じようなくだらない事を言ったために呆れられ、クラス替えなどするなと吠えたりもしたが、結局凰さんは転入生早々1組にクラス替えとなった。

 学園で私のよからぬ噂がさらに広まったりしたが、今の所支障は無いので黙っておく。

 

 

「それで、彼女との間に何があったの?」

「んー、黒歴史を見られてそれを口止めしただけだよ。数年前に」

「本当に? 彼女も同じ趣旨の証言をしたらしいけど、それだけであそこまで怯えるかしら?」

「こんな風に口止めされれば誰でもビビるさ」

 

 私が邪悪な笑み全開で楯無に詰め寄ると彼女も珍しく冷や汗を垂らしてぎこちなく笑っている。

 人間、危機にあると笑うらしい。だから私も笑っていたんだと思う。その笑い方はマズかったらしいが。

 何はともあれ、楯無に押し戻されると、応接椅子に雑に座り、テーブルをフットレスト代わりに足を組む。

 

 

「そういう態度をとるからどんどん印象が悪くなるんじゃないの?」

「普段からこうじゃないよ? 生徒の前じゃちゃんと先生だし、授業評価アンケートだっていい結果だったじゃん」

「そんな先生に急にこんな噂がたってるんだから先生方や整備科の生徒が困惑してるんでしょ」

「代表候補ってほんと使いにくくてキラーイ」

「先生がそういう事言うんじゃない!」

 

 楯無に一喝され、不承不承ながら凰さんのクラス替えと部屋替えの書類を片付けて行く。それらを5分で終わらせると今度は報告書だ。今回の騒動に当たってこんな事がありました、ってのを纏めないといけない。幸い、会話は一言一句覚えてるし、何をしたかも全て覚えてる。それを上手く纏めるのが面倒k……難しいのだ。

 学園としては私に辞められるのは困るわけだし、表側の人たちは総じて私や千冬を含めて学園という檻の中で飼い殺したいのが本心だろう。

 裏側の人たちはこの機をチャンスとばかりに私を引き抜きたい訳で、多分明日明後日辺りからラブコールが来るのではないかと踏んでいる。

 

 

「ホント、先生にはここにいてもらわないと困るのよ。生徒としても、ソッチの人間としてもね。現に情報の早い国は中国叩きの準備を始めているし……」

「んなもん知らんよ。私は私の居心地いい場所に居たい訳で。既に他の当てもあるしね」

「本当にそれだけ(亡国機業行き)だけはやめて頂戴。シャレにならないわ」

「なら頑張って私の居心地いい場所にしないとねー」

「貴方も仕事してよ。元はと言えば貴方が凰鈴音にトラウマを植え付けたのが悪いのよ?」

「まさか凰さんが候補生になるなんて思うわけないじゃん。それにまだ引きずってるなんてさ」

 

 その後も延々と楯無と言い争いながらも書類は進み、無事に全て終わった頃には夕飯時を少しばかり過ぎた9時前だった。食堂のラストオーダーはとうに過ぎたし、カップラーメンで済ませるしかないようだ。

 同時進行で生徒たちの関心事はもう一つある。来月の半ばに行われるクラス対抗戦だ。すでに1組と4組からは代表候補生がクラス代表として名乗りを上げているので、一般生徒がクラス代表を務める2組と3組ではその2クラスにどう対処するかの作戦会議が行われていた。

 月末の放課後、なぜか灯りを落とした教室で集まる生徒たちの輪の中心には千冬と私。モンドグロッソの時みたいで不思議だが、私も千冬も真面目な顔をして、私に至っては普段のダサい適当な格好ではなく、スーツにジャケット代わりの白衣を羽織って千冬の向かいに座っている。

 

 

「なるほど。お前たちはこう言いたいわけだ。「1組と4組は代表候補生や専用機持ちだ、アドバンテージがある。だから私達の知恵を貸してくれ」と」

 

 生徒たちの頷きに千冬も顎に手を置いて悩んでいるようだ。確かに候補生とついこの前まで普通の中学生だった少女では戦闘経験値が圧倒的に違う。知識としての経験値は賄おうと思えばどうとでもなるが、実際に体を動かした経験というのは座学では手に入らない。

 だが、ここで彼女たちに手を貸せば機会の平等という点では不公平だ。

 

 

「でも実際実力の不均衡はあるよねぇ……」

「だが、ここで生徒に手を貸せば他のクラスも、となってしまう。それだけで済めばいいが……」

「だよねぇ。授業で少し融通しようにも実技は1,2と3,4だし。織斑君と更識さんに相談して決めようか? 2人の承諾があればいいと思うけど」

「それが最善か。前田、鳴瀬、明日までに2人に聞いて来るように。その結果次第で私達も動こう」

 

 そして、2組と3組の代表が簪ちゃんと一夏くんから私達の特訓を受ける承諾を得たところで実際に何をするかのプランニングが始まった。

 ちなみに、一夏くんは2つ返事でオーケーしてくれたそうだが、セシリアが苦そうな顔をしていたと前田さんから聞いた。

 まぁ、あと2週間ほどなのでやる事はあまり多くない。ドイツで行っていたのとほぼ同じ訓練内容で、ひたすらに時間の限り私と打ち合うだけ、というシンプルなものだ。そのデータから本人の秀でた点や癖、苦手を洗い出し、得意をひたすら伸ばす方針を打ち出した。

 その過程は省略しよう。彼女たちはよくやったと思うよ。軍人ですら音を上げる者も居たのに……

 待ちに待ったクラス対抗戦当日、第一試合は1組対2組。相手は最新鋭機を纏う男の子。その実力は天井知らずに上り続け、この瞬間ですら学習し、進化してるのではないかと思うほどだ。

 対する前田さん。彼女はくじ引きで選ばれた代表だが、しっかりとやる気を見せてくれた。今は候補生のテスト受けたらもしかしたら受かる? 位までには実力を伸ばしだと思う。彼女の持ち味は正確な射撃にある。動体視力が良いのか、元ソフトボール部が効いたか、優秀なスコアを残してくれたので私が自衛隊時代に組み上げた射撃補助システムを学園の打鉄に組み込んだスペシャル仕様を用意した。

 

 

「始まるよ」

「はい、先生」

 

 私が少し本気を出して、1年2組仕様の化粧板を張ったピットには私と前田さん、そしてサポートとして数人の生徒が数分後に迫った開戦の時を待っている。

 彼女の機体は基本的に学園の打鉄。射撃補助システムを変えた以外はただの打鉄だ。その装備は葵と呼ばれる物理刀と13mm口径のアサルトライフル(04式13mm自動小銃なんて味気ない正式名称だ)、その他少し。

 私が手を回して起動させるとところどころに青い光が見え、エネルギーが流れていることを意識させられる。

 モニターで異常がないことを確認し、前田さんからもシステムグリーンのサインをもらうと腕を伸ばして手先を振った。

 

 

「2組、前田未唯、行きます」

「行ってらっしゃい。まずは勝ち負けより楽しもう」

 

 彼女を送り出し、勝負の行く末を見守るだけにしておきたい所だが、クラス対抗戦には束お手製の真っ黒いアイツがやってくる。

 わかっていても止めるわけに行かないのが私の立場と言うもので、既に凰さんが1組に行くというイレギュラーが起こっている以上、何がどう綻んでいるかわからない。黒いあんちきしょうが来ないかもしれないし、化け物スペックに変わっているかもしれない。

 試合が始まると、飛び道具を持つ前田さんが良い具合に一夏くんと距離を保ってじわじわ削っている。だが、弾切れが来れば一発逆転だ。

 

 

「先生! 残弾が……」

「落ち着いて、一度そのマガジンを撃ち切ってから葵に変えて、一夏くんは絶対に真っ直ぐ突っ込んでくるから落ち着いて避けるんだ。そしたらグレネードを」

「わかりました!」

 

 前田さんが指示通りにマガジンを撃ち切るとそれを一夏くんに投げつけてから葵に持ち替えた。すると読み通り一夏くんが瞬時加速で真っ直ぐ突っ込んで行く。紙一重で零落白夜の青緑の光を交わすとその背中にグレネードを投げつけた。

 妙に大きな爆煙が上がり、それが晴れて中から現れたのは……

 

 

「やっぱり……」

 

 黒いあんちきしょう。またの名をゴーレム。てらてらと気持ち悪く黒光りするボディとおぞましく光る赤い目。

 私はすぐさまピットから出ようと生徒たちを集めて扉に向かうが案の定開くことはなく、コンソールと格闘する間にも向こうが大変なことになっていそうだ。

 

 

「なぁ、前田さんって言ったか?」

「ええ!」

「今の武装、何がある?」

「刀と弾がほとんどないライフル、グレネードが2つとハンドガン!」

 

 余裕はなさそうだ。モニター越しに黒と見える2人が少し心もとない。

 だが、ここでファウストを出したりは出来ないし……

 扉が開かないことに業を煮やし、ライフルを持ち出すとスタンドにかけたまま扉に向けてぶっ放した。

 

 

「先生!」

 

 生徒を壁際に纏めているとはいえ、IS用の武装を生身で扱う光景は衝撃的なようだ。たかが55口径ちょいだ。50口径が人間に撃てるんだからスタンドにかけて置いて撃てないわけがないだろう。

 万が一跳弾したときのためにアーマーを彼女たちの前に置いているとはいえ肝が冷えた。無事にコンソールをぶち抜き、ロック部分も破壊すると力強くで扉を開け、生徒を引き連れてコントロールルームに向かう。

 この間にもアリーナの制御システムへのハッキングを始め、束と格闘する。フィールドの様子が見られない事も気がかりだ。

 

 

「先生、みーちゃん大丈夫だよね?」

「なんとも言えないけど、私と千冬が鍛えたんだから、最悪にはならないさ」

 

 私が言う最悪とは操縦者死亡を意味する。アリーナの防御バリアを貫通するほどのレーザーを放つのだから、それもあり得る。

 怪我で済めば御の字、無傷なら奇跡といえる。

 だが、そんな時だ、突然、館内全体に響くハウリングを伴って箒ちゃんの声が聞こえたのは。

 

 

「なにこれ」

「1組の篠ノ之さん?」

「全員落ち着いて私について来なさい。このままコントロールルームに向かいます」

 

 わざと厳格な口調で生徒を率いる。こういう時にはあえていつもの曖昧な物言いではなく、ハッキリと正確に、分かりやすく伝える事が最優先だと考えているから。

 そのまま廊下を進む。幸い隔壁は降りておらず、フィールドと客席を隔てる防御壁が強度最高レベルで固定されているらしいというのはわかったが、どうもそれが解除できない。解除しようにも、ファイヤウォールを駆け巡る兎が鬱陶しくて仕方がない。束は今度会った時〆る。

 なんとかコントロールルームの前まで到達すると、全力で扉をノック。それと同時に激しい爆発音が聞こえ、建物が少し揺れた。

 生徒を抱き寄せ、全力で「千冬」と叫べば扉が開き、扉の前で困惑気味の千冬と奥で狼狽える山田先生が見えた。

 

 

「杏音、佐々木たちも無事か」

「なんとか。みんな怪我とかしてないよね?」

 

 口々に大丈夫と返されるととりあえず全員部屋に入れてから現状の確認だ。少なくとも千冬は学園防衛の責任者だし、私はその補佐には入らねばならない。

 アリーナの被害は私がぶっ壊した扉と放送室周辺、シールドジェネレーター、フィールド外壁と地面のみ。人的被害は一夏くんと前田さんが軽い打撲やらだけで済んだ。ただ、原作と違い、放送室に居た箒ちゃんに突っ込むようにあんちきしょうが吹っ飛んだせいで箒ちゃんが少しばかり精神的にキテいるようだった。

 そりゃ真っ黒いのが自分に向かって飛んできたら怖いわ。仕方ないね。

 2人を保健室、箒ちゃんはカウンセリングルーム送りにしてから何があったのかを映像で確認することにした。

 端的に言ってしまうのなら、グレネードの爆風を背中で受けて瞬時加速という自殺行為に及んだ一夏くんがあんちきしょうの背中から一文字に零落白夜を見舞い、上下に分断されたISは見事に放送室上下に激突。その勢いでフィールドの防御壁すら叩き切った所でセシリアがコアを撃ち抜いた。

 

 

「上坂先生、教員機をつかって不明機の停止を確認してください。防衛部の先生方はいつでも出撃できるように準備。その他の先生方は生徒の避難誘導を。全生徒を各教室に移動させて担任か副担任の先生が点呼を取り私に報告を」

 

 

 館内放送でハキハキと指示を飛ばす千冬。私はひとまずここまで連れてきた生徒たちを山田先生に任せてあんちきしょうを見に行かねばならない。駆け足で緊急用ゲートと呼ばれるフィールドに一番近いゲートに隣接するピットに飛び込むと、藍色に白い模様が入ったISスーツに着替えて教員用のラファールに身体を滑り込ませた。

 ブレードを片手に断面から火花を散らすあんちきしょうを眺め、コアを取り出す。高エネルギービームに撃ち抜かれたとはいえ、そんな簡単に溶けたりするほどヤワな素材でできてはいない。ブレードでバキッとやると鈍い光を返す片手で収まる大きさのキューブが出てきた。これこそがISコアだ。

 

 

「こちら上坂。不明機のコアを取り出しました。念のためビームライフル部を切り落としてから残骸の回収に移ります」

 

 千冬が人を寄越すというので応援の先生方と一緒に残骸を回収し、そのままフィールドの整地と外壁をこれ以上崩れないよう応急処置し、校舎に戻った頃には日が沈もうかとしていた。

 学生と違い、ロッカールームで着替える先生方は皆無言だ。あんな体力が羨ましいと時々笑う先生がいる程度。それくらい疲れた。

 こんなこともあったためにクラス対抗戦は中止。ひとまず残っていた第1試合のみを翌日行い、一応記録を取ることでなんとか体裁を保った。

 

 

「織斑先生、不明機の解析結果が届いてます」

「上坂先生はなんと?」

「無人機であることは確実。ただし、完全な自立稼働(スタンドアローン)ではないようです。これ以上は上坂先生も無理か激しく時間がかかると……」

 

 学園の地下深く。千冬含め十数人しか居ない高レベル権限を持つ人間のみが入れるここには戦闘要塞とも言えるだけの設備が整い、非常事態時の司令所としての機能を有している。

 つい数時間前から始まった上坂先生による解析でも分かったのはこれだけ。篠ノ之博士と肩を並べる天才を以ってしてもこれしかわからなかった。

 

 

「コアは?」

「未登録の物でした」

「そうか…… やはりな」

「心当たりでも?」

「いや、ない。今は、な」

 

 疑問を浮かべる山田先生をよそに、千冬はもう何回繰り返したかわからない先の戦闘映像を再びリピートしながらコーヒーを啜った。




先週の投稿日PVが1200超えました
最近は900〜1000あたりをふらふらしていたのですが突然ですコレです。ありがとうございます。

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