よくある転生モノを書きたかった!   作:卯月ゆう

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残念だな、クラスメイトは全員女子だよ!

 とんでもないイレギュラーのおかげでIS界隈が騒がしくなった中で迎えたIS学園入学式。見事なキョドリっぷりを見せる彼を内心残念に思いつつ、新入生名簿をざっと流し読み。

 見知った名前は4つだけ。一夏くん、箒ちゃん、セシリア、簪ちゃんの4人だ。ラウラはレーゲン型の最終調整や一夏くん絡みのゴタゴタもあって遅れての転入になる。クラリッサから聞いた。

 そして、私はコネやゴネをいろいろ使って1年2組の担任の座を獲得した。そして、幸か不幸か、IS実技まで担任を任されてしまった。今年は専用機持ちが多いからとかなんとか。まぁ、その分他の教科の授業数減ってるからいいんですけど。

 

 

「以上で、入学式を終了致したます。生徒は各教室に移動し、待機してください。先生方は連絡事項がありますので一度アリーナ前方にお集まりください」

 

 おう、長ったらしいのは全カットだ。そのあとの話なんてホームルームで何してください、やら今日中にこれやってください。みたいな話ばかり。書くまでも無い。

 少し偉い先生。要は学年主任とか、そういう役職持ちの先生にはさらに長いお話が待っていた。話題の中心は一夏くん。仕方ないね。

 私はクラスを副担任のケイト先生にお任せし、数分遅れて教室に入った。一緒に戻ってきた千冬が入った隣のクラスでは早くも黄色い声が上がっているが、あいにく私が入ったところで2組では「あっ、先生だ」と言う緊張混じりの空気が支配するのみだった。

 

 

「遅れてすみません。どこまで進みましたか?」

「これから生徒の自己紹介を始めようとしていたところです。上坂先生のご紹介もしておいた方がいいですね」

 

 副担のケイト先生は語学の専任教諭で、英語、日本語、ロシア語、ドイツ語、イタリア語を操るペンタリンガルなのだ。すごい!

 ちょっと天然ボケが入ったぽわぽわした性格とプラチナブロンドの髪が素敵な長身美人だ。数値で言うと私と15cm違う。

 どうしても見上げる形になるが、彼女曰く、妹みたいでかわいいらしい。実際、彼女の方が2つ年上だ。

 何はともあれ、3度目のクラスへの挨拶だ。もう慣れっこ!

 

 

「遅れましたが、担任の上坂杏音です。担当科目は理系全般とIS関連全て。専門はIS開発です。皆さんと一緒に1年間頑張りますので、よろしくお願いします。それでは、出席番号順に自己紹介をお願いします」

 

 隣のクラスからまだ黄色い声が聞こえるが、それが鳴り止むまでにウチのクラスは半数の自己紹介を終えることができた。優秀優秀。

 1限のIS関連法規の授業は私の担当だし、と言うか3限までぶっ続けで私の担当なので次の時間も自己紹介に使ってしまおう。そして授業のイントロダクションをすればちょうど50分くらいで終わるはず。そう内心で算段をつけて教卓で寛いでいると、廊下から視線を感じた。一夏くん目当てでごった返す人の波のなかで、少し目立つ金髪に青いヘアバンド。セシリアか?

 立ち上がり、廊下に出ようとしたところでチャイムが鳴ったため、おとなしく授業に移ることにした。

 

 

「てな訳で、ISを取り巻く法律を理解した上で開発、運用していかなきゃいけないものなんだ。やたらと多い制約の中で最大限の性能であり、結果を出すことが君たちには求められる。それを理解するための授業になるから、暗記科目だなんて甘く見てると後悔するよ。あ、先に言っておくと、テストには必ず応用問題を出すから、覚悟しておいてね。3分早いけど終わりにしよう。隣のクラスの織斑君見てきな!」

 

 算段通り、自己紹介を全て終え、イントロダクションも上手いこと終わらせると一目散に廊下に飛び出す生徒がひと段落してから廊下に出た。既にそこそこの人混みの廊下で野次馬根性を発揮して遠巻きに一夏くんを眺める。おう、緊張してる緊張してる。周りはみんな女の子。廊下からも熱い視線を送られて大変だなぁ。

 

 

「上坂先生」

 

 ふと後ろから私を呼ぶ声。振り返ると青い内向きの癖っ毛。そして度のないメガネ。可愛い可愛い簪ちゃんだった。

 

「簪ちゃん、入学おめでとう。どしたの? 一夏くん見に来た?」

「あ、ありがとうございます。そんなことじゃないです。打鉄のこと……」

「あぁ、ごめんね。結局学園の整備科で作る事になっちゃって。最終確認と調整は倉持の人間でやるからさ。授業教材にするから私も監督するし、スペックは保証するよ」

 

 

 結局簪ちゃんの専用機、打鉄弐式は整備科の教材として3年のエキスパートチームを集めて作り上げる事になった。放課後を使った自由履修科目で、なおかつ私による筆記と実技試験があるにもかかわらず、整備科のほぼ全員から履修登録があり、その中から選ばれた上位10名により、4か月かけて組み立てる。夏に飛行試験を行い、秋にローンチ予定だ。

 原作と違い、既に柔らかい簪ちゃんはすんなりと了承してくれし、一夏くんに対する敵意のようなものも無いようでなによりだ。

 そして、倉持の研究所では突貫工事で一夏くんの専用機、白式を組み立てている。

 おっと、何やら動きが…… 廊下の人の波が見事に割れ、1組から2人出てきたぞ? おう、一夏少年と箒ちゃんではないか。うまく抜け出せたようだね。

 

 

「アレが、織斑一夏? なんか、不潔……」

「第一印象が不潔って…… 簪ちゃんもなかなか辛辣だねぇ」

「女の子に手を引かれてデレデレして、お姉ちゃんみたいでなんかイヤ」

 

 楯無、残念だったな。君のシスコンぶりは見事に裏目に出ているぞ。

 2人が何を話しているのかは聞こえないが、箒ちゃんが少し不機嫌そうにしていることから何か仕出かしたのだろう。一夏くんはそういう星の下に生まれてるから仕方ないね。

 10分の休み時間は実に短く、チャイムが鳴ると生徒たちは慌てて各クラスに戻っていく。私もさりげなく「はーい、男の子もいいけど単位も大切にねー!」と先生らしい事を言っておいた。

 2限目も無事平穏に終わり、一夏くんが見事に無知を晒してセシリアの琴線に触れたと思われる頃。我が居城、教卓で「ウチのクラスもクラス代表決めないと」と少しばかり焦る私。

 残念ながらというか素晴らしい事にというか、2組には代表候補が居ない。私が2週間特訓して良いと言うならそこらの代表候補といい勝負出来るぐらいに育てられる自信があるが、それはナシだろう。

 

 

「授業の前に決めなきゃいけない事を思い出したから今決めよう。クラス代表なんだけど。いわばクラス委員? 今度やるクラス対抗戦にでたり、普段はクラスの雑務やってもらう事になるんだけど、自薦でも他薦でもいいよ! はい、挙手!」

 

 ま、手が上がるわけ無いし、出会って3時間の他人を推薦なんて出来るわけがない。隣のクラスみたいにパンダがいたり、代表候補がいるなら話は別だが。

 仕方がないのでクラスの教員端末に入っているアプリを使おう。授業で誰かに当てたりするときに使うランダムで誰かを当ててくれる素敵アプリだ。しかも生徒の机とリンクして、名札のホログラムに「返答」や好きな文字を浮かべられるオマケ機能まで付いている。これを作ったのは天才だね。

 普段の授業からお世話になって、使い慣れたそれを使う事を決め、「このままだとランダムで当てるよ〜」と発破をかけつつ、それでも反応が無いので「Choose」ボタンをタップした。

 

 

「って訳で、おめでとう。出席番号27番、前田さん!」

 

 無事(強制的)にクラス代表を選出し、3限のIS装備概論の授業を終えると4限目は3年の整備科でIS整備理論の授業だ。それが終われば待ちに待ったお昼。私は5限は空きなのでしばらく休憩となる。

 食堂の2人席で日替わりランチ(ちなみに焼き鯖定食だ。美味しい)をつついていると、箒ちゃんを引き連れて一夏くんがやってきた。衆目に晒された事で箒ちゃんの抵抗が増し、それがさらに人目をひくと言う負の連鎖に陥っているが、目をつぶってあげよう。お姉さん優しい!

 そして見事に私の隣の空席に着いた。パーテーションがあるのでバレていないようだが、これがなかなか面白い。

 一夏くんが恥も見聞もかなぐり捨てて箒ちゃんに教えを乞うまでは良かった。箒ちゃんはなんだかんだツンデレだから求められれば嫌だとかなんとか表面では拒否しつつ、最終的には「仕方ないな」とかなんとか言って応えてくれるだろう。事実、後ろで上級生に一夏くんが持っていかれそうだとわかると、あまり好いていないはずの束の名前まで出してその子を追い払っていた。

 

 

「放課後、剣道場に来い」

「いや、俺はISの事をだなーー」

「来い」

「はい……」

 

 一夏くん、陥落。ごり押しで一夏くんは箒ちゃんの(キリングフィールド)、剣道場へのチケットを手に入れた。おそらく片道切符だ。

 少し面白そうなので楯無を誘って見に行くことにしよう。早速メールを送ると暇人生徒会長は即レスで行くとの事だった。

 定食を綺麗に完食すると束の間の休息のお供となっているコーヒーを頼みに再びカウンターの列に並んだ。

 

 そして時間は放課後、ギャラリーもそこそこ入った剣道場で一夏くんは華麗にフルボッコにされていた。ウォーミングアップ含め10分足らずで一本取られるのはどうなんだい? 剣道場に入ってから15分経ってないだろ、きっと。キレ気味の箒ちゃんが更衣室に戻っていったタイミングで座り込む一夏くんに声をかけてみた。

 

 

「素晴らしい負けっぷりだったね」

「ん? あ、杏姉!? なんでここに」

「言ってなかった? 先生だし、私」

「杏姉はまだ自衛隊に居るもんだとばっかり…… ってことは……」

「ここでは上坂先生だよ? 放課後だから良いけどさ。どうよ、私と軽く一試合」

「杏姉と? 箒に負けたばっかだしな……」

「ま、私は箒ちゃんみたいに鬼じゃないから加減はしてあげるよ」

 

 面倒なので竹刀だけ拾うと一夏くんに対して中段の構えを取った。竹刀を持つのは篠ノ之道場で千冬に無理やり付き合わされて以来だ。しかし自衛隊で銃剣道をやっていたのでまぁ負けはしないだろう。竹刀だけに。つまんないか。ごめんね。

 

 

「なぁ、流石に防具くらいはつけないか?」

「大丈夫だよ。一撃ももらわないから」

「ちっ……」

 

 防具を一式キチンと着けた一夏くんが私の向かいに立って下段の構えを取った。私の少し変な構えにも気づいていないらしい。

 若干右手を引いて、剣と身体がとても近いスタンス。これは銃剣道の唯一と言って良い攻撃、刺突を素早く繰り出すのに必要な事。右手をバネのようにして突くのだから伸びしろが必要だろう? そういうことだ。

 

 

「いつでもどうぞ」

「行くぜ。いくら帰宅部皆勤賞でも、これくらいっ!」

 

 流石に一般人上位レベルの体力を持つ10代男子、小さな振り上げからの小手も中々の速さ。相手が箒ちゃんでも無ければ十分な有効打になり得るスピードが出ている。だが、私はチートなしでそれを見切って喉元に寸止めの突き。一夏くんの顔が引き攣ったのが見えた。

 千冬もそうだが、気をだだ漏れにする瞬間は本当に次に何がしたいか手に取るようにわかるレベルでだだ漏れなのだ。だから剣先が上がった瞬間にすぐさま手元に飛んでくるのがわかったからそれ以上の速さを持って突きに行く。

 

 

「杏音さん! 何をしているんですか!」

 

 そして、着替え終わってちょうど更衣室を出てきた箒ちゃんに目撃され、剣道で突き技を使って良いのは高校生以上だということを初めて聞かされた。

 

 

「杏音さんは自衛隊にお勤めでしたから、銃剣道をされていたのであのようになったのだとは思いますが、剣道において突き技は相手への威嚇などの意味合いもあるので良いものでは無いのです」

「ハイ、スミマセン」

「一夏も一夏だ。私との一本で身の程がわかったはずだ。なのにまた懲りずに身の丈に合わない相手へ挑むなど愚行がすぎる」

「いや、それは杏姉がだな」

「言い訳などするな! 杏音さんからの誘いであれ、一太刀で終わるなど論外だ!」

 

 正座で怒られる教師と少年。向かいに立つ箒ちゃんの背後には修羅が見える。ちょっと短いスカートの裾からチラリと白いパンツが見えたり見えなかったり。一夏くんはそれを見てしまったのか本当に申し訳なさがあるのか、背中を丸めて俯いている。あ、顔が少し赤いから見たな。このエロガキめ。

 ギャラリーはいつの間にか激減しており、楯無が壁に寄りかかって呆れた顔でこちらを眺めているのが見えた。

 

 

「何はともあれ、これから私が鍛え直してやる。いいな、わかったな?」

「ハイ、ホウキサン」

「杏音さん、見ての通り一夏は軟弱になってしまってます。ですが、私が1週間でこの腐りきった性根叩き直してみせますので」

「あぁ、うん。頑張れ。一夏くん、無事でね。きっと役に立つからさ」

「杏姉がそういうなら……」

 

 どうしてこの少年はそういう所で地雷を踏みに行くのかが理解できない。ここでの正解は「箒の期待に応えてみせる」とかその類の箒ちゃんを立てる答えのはずだ。そこで別の人間の名前を出すなど赤点で補習だ。

 

 

「一夏、貴様ぁ……」

 

 ほらみろ。また痴話喧嘩が始まる予感がしたのでその混乱に紛れて私は離脱。楯無の隣に並んだ。

 

 

「先生、意外と強いのね」

「これでも自衛官だったんだよ? あれくらい当然」

「剣道にしてはおかしな構えだと思ってたけど、銃剣道なら納得ね。剣道の経験はないの?」

「殆どないよ。子供の頃に千冬に付き合わされて地元の道場で少し遊んだくらい」

 

 各種武道の知識はある程度あるが、まともに習った武道はそれこそ銃剣道くらいだ。あと実際にやったのは独学の西洋剣術を学生時代に試したりした程度。ISは操縦者のスペックに依存する面が大きいとは言え、人間の武道が使えるかと言われるとなんとも言い難い。無手の武道はそもそも論外として、剣や槍を使うとしても相手に飛び道具が含まれる時点で戦い方は型に当てはまらなくなる。

 バトルセンスを磨くという意味では有用だが、ISバトルに技術は半分ほどしか生きないだろう。

 

 

「ま、なんだかんだで先生は初代生徒会長だし、弱いとは思っていないけど。先生が口以外で戦ってるのは初めて見たもの」

「去年まではISに乗らなかったしね。今年からはIS操縦の担任にもなったから私の戦闘シーンが見せられると思うよ」

「楽しみにしておくわ」


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