よくある転生モノを書きたかった!   作:卯月ゆう

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そろそろ原作の匂いを漂わせねばならないと思った。



一気に原作スタート直前だよ!

 騒がしかった夏もとうの昔に終わりを告げ、食欲の秋だと調子に乗って実家に高級食材詰め合わせを送りつけたのも2ヶ月前だ。

 クリスマスだなんだと盛り上がる学生たちに巻き込まれたパーティーから数日、正月休みを利用して私は実家に帰ってきていた。

 そしてもう1つ寝たらお正月だと言うのに少しボサボサの頭をかきながら唸る幼馴染の弟の家庭教師をしているのが今だ。

 

 

「一夏くん、国語や社会はできるのに理系科目が足引っ張ってるね。藍越って5教科でしょ? 大丈夫なの?」

「模試でB判定だったんで千冬姉に頼んで教えてもらおうと思ったんだ、冬休み明けの模試で結果出なかったらショックだしさ。だけど、千冬姉って、なぁ?」

「千冬って勉強は人並みだしね」

 

 1週間ほど前、年末年始は帰ると家に電話をすると、丁度その電話に出た一夏くんから家庭教師をお願いされたのだ。

 なので冬休みの課題を作るついでに一夏くんの課題を作って解かせたのが10分前。採点してみたら国語と社会は完璧。英語も優秀、だが数学はまずまず、理科がほぼダメだった。

 

 

「んじゃ、理科からなんとかしようか。数学と違って覚えればなんとかなるしね」

「よろしくお願いします! 杏音先生!」

「ではひたすら暗記の植物から行こうか」

 

 その場でネットから問題を引っ張ってきて、タブレットに映しながら私が解説を加えて解いていくと綺麗にノートにまとめていく。要点を色ペンでマーキングしたり、定番のまとめ方だが、それだけにわかりやすいノートだ。

 各単元の本当に最低限のポイントだけを絞り、1年次の単元大別4つを2時間で終わらせると昼食をとってから夕方までに3年分の総復習を終わらせた。

 

 

「問題はネットに転がってたりするからちょっとでも解いて記憶を再定着させな? 数学は…… 頑張れ」

「杏姉……」

「一夏、杏音。少し早いが夕飯にするぞ」

 

 ノックもせずにドアを開けて来たのは千冬。テーブルに広げられたノートを見てから「よくやってるみたいだな」と言って一夏を撫でた。

 思春期男子らしく抵抗を見せるかと思いきや、思いっきりデレデレする一夏少年。そろそろ姉離れしなよ?

 

 

「杏音も助かった。私は理系がどうもダメでな」

「相変わらずね。ほんと、よく似た姉弟で」

「それ以上言うな。下でおばさん達が待ってるぞ」

 

 我が家はちゃんと年越し蕎麦を食べるので寿司を少しつまむ程度の夕食をすませると、すっかり年末年始特番ばかりのテレビをぼけーっと眺める。

 何が面白いのかわからない芸人のネタを見つつ、スコールにメールを送ってみると、映画のワンシーンのような、砂壁の小さな建物が立ち並ぶ写真と、スカーフで顔を隠したスコールとオータムのセルフィーが送られてきた。後ろに小さくマドカも写っている。

 また食事に、とゴールデンウィーク辺りの予定を確認しつつ返信するとこっちの食事も美味しかったから行きましょう。と肉や何やらの写真が返ってきた。彼女達が中東の平和な場所にいるか甚だ疑問だが、それは飲み込んでおく。

 

「杏姉、蕎麦できたぜ」

「今いくよ」

 

 少なくとも、後2ヶ月後に起こる世界を震撼させる出来事よりも千冬の胃は痛まず、私も悩むことはないだろう。

 母と一夏くんが打った蕎麦を啜りながらそう思っていた。

 

 年が明けて正月気分も抜けきった2月の下旬、私も学園が世界中で行う入試に合わせてヨーロッパを駆け回っている時にそのニュースは飛び込んできた。一夏くんが間違えてISを触り、起動させてしまったのだ。その裏に束が噛んでいるのかは現時点ではわからない。少なくとも彼女から連絡や、それを匂わせることはなかった。

 もちろん、学園の技術面トップである私は日本に呼び戻され、安全の為に自宅(織斑宅)に軟禁されている一夏くんに会いに行くことになった。

 少しばかり物々しい雰囲気を感じながら車を走らせる。慣れ親しんだ道を抜けて織斑家前に車を止め、マッチョな黒服のお兄さんにIDを見せてからインターホンを押した。

 

 

「杏姉? どうして……?」

 

 その「どうして」がなぜISを動かしてしまったからなのか、なぜ私がここに居るのか、なのはわからないが、ひとまず家に上げてもらい、お茶を出された。

 

 

「なぁ、杏姉、どうして、俺……」

「昨日の今日の事で混乱してるかもしれない。一度深呼吸して」

「すぅ……」

「そこでストップ」

「……うっ!? ぷはっ! 杏姉!」

「どう? 落ち着いた?」

 

 私が混乱しては更に彼が混乱するだけ。というより私は知っていたから混乱するはずもないが、原作で彼が山田先生にしでかしたイタズラをここで仕掛けてやる。少しは緊張も解けるだろう。

 

 

「あぁ、さっきよりはマシになったかな? 杏姉、偶然、興味本位だったんだ…… 千冬姉が居る世界がどんなもんなのか、悪気は無かったんだよ」

「一夏くん、今君がこうして家に閉じ込められてるのはそんな事じゃない。ISに触った時にこう、頭に直接情報を流し込まれる感じがなかった?」

「あった、あったよ。訳のわからない数字とか色々流れていく感じだった。マト○ックスみたいにさ」

 

 見事な例えだ。事前に心構えや知識なくISに触るとどうなるか、頭に大量の情報が流れ込んで驚く事だろう。頭がパンクする程ではないが、訳も分からなくなってしばらく混乱する事は間違いない。今の彼のように。

 

 

「一夏くんが回りくどいの苦手なのは知ってるから短刀直入に言うと、君はISを動かした。そして、セットでIS学園へのチケットも手に入れた。理由は一夏くんの保護観察。なにせ世界でただ一人のISを動かせる男だからね。世界でモルモットになりたいなら拒否してくれて構わないよ」

「訳が分かんねぇ。いや、理屈はわかるんだ。だけど気持ちの理解が追いつかねぇ。杏姉、俺がわかった、と言ったらどうなるんだ? やめてくれと言ったら?」

 

 わかったと言ってくれればIS学園へ入学。ある程度、というより現時点でできる限りの身の安全を保障する。

 やめてくれと言うなら私達は引き上げ、君は自由だ。突然攫われてナノレベルに分解されても私達は救えない。

 その通り一夏くんに伝えると千冬姉に言われた、と言って答えをくれた。




少し飛ばしすぎた。

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