よくある転生モノを書きたかった!   作:卯月ゆう

34 / 71
新学期がはじまるよ

 やぁ、突然だが新学期早々、私は生徒会室で生徒"から"お説教を受けている。応接セットの3人掛けソファの真ん中で頭を下げて向かいの1人掛けソファに座る楯無から絶賛お説教中だ。ちなみに千冬も楯無の隣に座ってたりする。

 

 

「だから亡国機業との接触には細心の注意を払って前もってしっかりと準備をしてからと言いましたよね! それが何、幹部候補筆頭、スコール・ミューゼルとその右腕、オータムと寝たですって!? ISまでプレゼントなんて何考えてるんですか!」

「あ、あの、それ3回目……」

「黙らっしゃい! 先生は決定的に危機管理意識が欠けてるのよ! いい? 貴方の技術は世界を滅ぼしかねないの、わかってる? 貴方は篠ノ之束並みの重要人物でもあるのよ? それがノコノコと敵のアジトに丸腰で正面から入っていくなんて馬鹿以外の何物でもないわ!」

 

 チラッと千冬と布仏さんに横目で助けを求めたが2人揃って首を振られた。もう1時間近くこの姿勢なんだけど……

 そんな私に救いをくれたのは意外な人物だった。

 大きな音を立てて生徒会室に入ってきたのは2年生のダリル・ケイシー、本名をレイン・ミューゼルと言う。

 昨日スコールの毛髪と唾液をDNA解析にかけ、原作通りダリルとスコールには血縁があることがわかったし、ミューゼルと言う家系は辿るとヨーロッパの魔女の家系に繋がるともわかった。

 そんな彼女がどうしてここに来たのか。答えは単純。千冬は彼女の担任で、私は彼女の教科担任だ。

 

 

「織斑先生、上坂先生、探したぜ。あー、お取り込み中だったか?」

「いや、大丈夫だ。要件は?」

「織斑先生には欠席届けを出しに。上坂先生には課題を……」

 

 私の教える数学はもちろん夏休みの課題を出させてもらった。量はB5版で10ページ。そこまで多いわけでは無いはずだったが彼女含め数人は華麗にサボってくれたので明日までに出さなければ候補生は本国に連絡。一般生徒は保護者に電話する。と言う定番の脅しをかけたら放課後にちらほらと出しに来る生徒が出てきた。1時間で終わらせられるのに何故やらない? まぁ、理由は私にもわかるけどさ。嫌だもんね、宿題。

 何はともあれ、思わぬ来客で楯無の話は中断せざるを得なくなり、千冬は欠席届けに判を押さなければいけないし、私は提出された課題を職員室に置いてこなければ……

 

 

「わかった。印鑑を押すから職員室まで来い」

「私も課題の採点をしないといけないから〜」

「あっ、コラ! 逃げるな!」

 

 千冬が席を立つより早く生徒会室を飛び出して廊下を駆ける。廊下は走るな? ルールは破るためにあるのさ!

 そう遠くない職員室に逃げ込むと自分の机に置かれた課題の束にダリルのものを加えてから椅子に座った。

 

 

「上坂先生、お疲れみたいですね」

「んやぁ、生徒会長サマからお説教されててね。ありがと」

「また書類を押し付けたんですか? 休み明けからそんな事されたら怒りたくもなりますよ」

 

 私と千冬の後輩にして教師としての先輩、山田先生。代表候補時代には千冬がよく練習相手になっていた。そりゃあんな化け物相手にしてたらヴァルキリーに成れるとも言われますわ。

 年齢にそぐわない幼げな、というかふわふわとした雰囲気の彼女だが、IS乗りとしても、教師としても1人前だ。ただ、生徒になめられ気味なのが玉に瑕か……

 冷たいお茶を受け取って渇ききった喉に流し込む。

 

 

「上坂先生は担当科目も多いし、仕事が増えるのもわかりますけど、頼るなら生徒じゃなくて他の先生にしないとダメですよ?」

「ハイ……」

「もう、上坂さんは昔から大量の仕事を抱え込む癖があるんですから…… 気をつけてくださいね? 織斑先輩も心配してましたよ、夏休みの終わり頃とかは特に」

 

 山田先生は千冬を「織斑先輩」と呼ぶのに私は「上坂さん」と呼ぶのだ。まぁ、十中八九学園での交流もあって「先輩」感があった千冬と常に纏め役としてしか彼女の前に現れなかった私の差なのだろうが。

 学園に赴任した時なんて「上坂一尉」なんて階級呼びされた事もあった。

 

 

「面目無い」

「お仕事もほどほどにしてくださいね? ほんとに身体こわしちゃいますよ?」

 

 背丈は私より少し低いだけのはずなのに何故ここまで上目遣いに見えるのか…… なにか、こう、グッと来るものがある。本当にいけないことしてるみたいで申し訳なくなってきた。

 山田先生が夏休みに旅行に行ったという長崎のお土産で、カステラくれたのでそれを摘まみつつ課題の採点を始める。3学年5クラス分で、3年は1クラス、後の2学年は2クラスずつが私の担任で、課題を出したクラスだ。

 同時進行で整備科の課題小論文に目を通し、講評を数行書き込んではなまるだ。

 数学のように出来不出来がわかりやすい物はともかく、小論文などの点数化しにくいものは要件を満たしているならば基本的にA評価を与えるようにしている。その中で特に私が気に入った物は後から+αの評価だ。

 そして夕方から紙の束とWordファイルの山を切り崩しにかかった結果、その日のうちに終わらせることに成功した、とだけ付け加えておく。

 翌朝、携帯のアラームで目を覚まし、メールチェック。新着は1通で差出人はスコール。私がお願いした家具を送ったとの事だ。船便で送ったから1〜2週間で着くだろうとの事。それまでにもう少し家のものを増やしたいところだ。

 外の暑さに辟易しつつ、職員室へ。今日の時間割を確認してさてホームルーム、と言うところで千冬に呼び止められた。

 

 

「杏音、放課後は空いてるか?」

「空けるよ。マドカのこと?」

「ああ。と言っても、私も大した事は知らないがな」

 

 わーった、と適当な返事をしてから1日の授業を乗り切り、楯無に「急用が入ったからお仕事頑張って!(≧∇≦)」とメールを送ってから生活指導室に千冬と2人だ。

 

 

「それで、この前はなにを話したの?」

「今まで済まなかった、とまた一緒に暮らせたらいい。とな。もっとも、マドカは受け止められなかったらしいが」

「彼女に何があったかはわからないけど、なんで千冬の妹なのに私が知らないの? 一夏くんと歳変わらないよね?」

「マドカが家にいた事が無いからな。私や一夏は夏休みに行った親戚の家で会える子だと言う認識しかなかったんだ。マドカが妹だとわかったのは数年前の事だった」

 

 聞いた話をまとめると、マドカの存在を知ったのは千冬が自分の両親について調べている最中だったという。もちろん、彼女は私みたいに自力でやっちまう程の手腕は無いので束に頼んでいたようだが。

 そして行き着いた先に待っていたのは消息不明の研究者2人とヤバそうな組織にさらわれた血縁者。そして、親戚の子だと思っていた少女が実の妹であったらしい。

 私はうまく返す言葉を持ち合わせず、「あー」とか「うー」とか言うしかなかった。

 

 

「気にするなとは言わない。お前はそういう奴だからな。手出しするなとも言わない、むしろマドカに近いのはお前だ。力を貸して欲しいとも思う。だが、最後は私が、私が落とし前をつける」

「わかった。千冬がそういうなら」

「本当に、束や杏音には世話になりっぱなしだな。どう返せばいいのやら……」

「簡単だよ」

 

 きっちりスーツを着て、もうすっかり大人になってしまった千冬に、私はワイシャツとジーンズと言う子供の頃から変わらないスタイルで簡単な答えを教える事にした。

 

 

「ずっと友達でいてね。ちーちゃん」

 

 我ながら、この時は10年前と同じ笑顔で笑えたのでは無いかと思う。

 だって千冬も、同じように笑ってくれたから。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。