よくある転生モノを書きたかった!   作:卯月ゆう

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先生と仕事の話をするわよ

 まさか上坂先生からどストレートに仕事の話をされるとは思わなかった。前々からきな臭い人だとは思っていたけれど、頭がキレるから裏で手をまわすのが得意なタイプかと思っていたのに。

 先生にそれを言ったら「私は机上の空論よりも実際に起きたことを重視するんだ」って。科学者らしくない行動派ね。

 簪ちゃんと食事をしてから数日経って、3人しか居ない放課後の生徒会室で詳しく話を聞くと先生は私たちと同程度の情報量を持っていることがわかったし、暗部の人間ではない故の、先生のネームバリューを活かしたダイレクトな接触を考えているという事がわかった。本当に恐ろしい人だと思う。

 

 

亡国機業(ファントムタスク)については私もある程度知っているから省略するとして、その織斑マドカって、誰なの?」

「織斑千冬の血縁、もしくはーー」

 

 先生は少し困った顔をして、私と虚ちゃんを見るといつになく真面目に(それこそ、実技なんかよりずっとずっと)こう言った。

 

 

「ーークローン」

 

 その言葉に思わず私も息を飲んだ。隣で虚ちゃんも目を丸くしている。ブリュンヒルデのDNAは誰もが欲しがる物の一つである事は確かだが、表立って手を出したら社会的に追放される事を免れない代物でもある。

 だから裏でその手の研究をする事は悲しい事だが無くはない。ただ、無くはないだけであって、実験の絶対数が少ない上に、技術自体も不完全なものだと予想できる。

 

 

「多分お利口な君の事だから『クローン技術なんて不完全で危ない事を何故』とか考えているんだろうけど、私としてはその可能性は限りなくゼロに近いと考えてる。だって千冬のDNAは私と束が厳重に管理してたからね」

「そ、それでも髪の毛一本からでも採取は可能でしょ? 完全に管理するなんて不可能よね、いくら世紀の大天才が2人掛かりでも」

「ま、それもそうなんだけどね。だから限りなくゼロ、って言い方をした。一応オンライン監視をして、DNAがデータ化されてネットワークに一度でも繋がった瞬間にアラートを発するシステムもあったけど、一度も作動しなかった」

「それに、先生は織斑先生と小さい頃から関わりがあったはず。妹がいるならどこかで見かけているはずよ」

 

 そう、上坂先生は織斑先生と幼少期、それこそ生後数ヶ月の頃から何らかの形でつながりがあったのだ。ならば妹の存在も知っているはず。

 そこを突くと上坂先生はまた困った顔をしてから私にとあるデータを見せてきた。

 

 

「出生記録が消されてる? 誰が……」

「織斑夫妻だ、と私は考えてるよ。だって、2人はーー」

 

 そう言って先生がタブレットの画面をフリックすると英語で書かれた論文らしきものが出てきた。タイトルをざっくりと訳すと『人間環境融合型ゲノムのデザイン』執筆者は…H.OrimuraとA.Orimura?

 

 

「ーー遺伝子工学の専門家だからね」

「この二人が……?」

「ええ、千冬のご両親。織斑春彦さんと秋葉さん。小さい頃にはよくおばさんがクッキーを焼いてくれたんだよね」

 

 先生曰く、この論文にはヒトのDNAに手を加え、自意識と言うものを抑制し、意図的に周囲の環境に溶け込みやすい。言い方を変えれば使いやすい人間を作れるという事が書いてあるらしい。

 私がさらにゾッとしたのはその後に先生がさらりと「試してみたんだけど、どれも失敗した」と続けた事だった。

 

 

「試した、ですって?」

「もちろん人間じゃないよ。さすがにそこまでマッドサイエンスに手を染めてるとは思ってない。マウスで試したんだ」

 

 実験の初期は普通の振る舞いをした。だが、ある時を境に性格が極端に二分したらしい。凶暴化か、抑うつのどちらかに。

 先生の推測では、心の蓋が開かれた時に溜めこまれたものが放出されると凶暴化、逆に溜め込む事に慣れすぎていると抑うつ傾向が強まるようだ。

 

 

「それで、織斑マドカがその実験台だと……?」

「その可能性は否定できないね。個人的にはあんなに優しいおじさんとおばさんがそんな事をするとは考えられないけど」

「他に先生はどんな可能性を?」

「可能性なんて考えればいくらでも出てくるさ。ただ、私が提示したのは最悪のケースだよ」

 

 あとは夫妻が何か裏に手を突っ込んでしまった人質か。これならいくらか救われるね。と先生は言うがどちらにせよ非人道的である事に変わりはない。私としては後者だと思っているが、その当事者たる織斑夫妻は既に消息を絶っているため、真実の追求は困難だ。

 

 

「この件を篠ノ之博士は?」

「もちろん知ってるよ。束と私じゃさすがに手に負えなくなってきてね。規模が大きすぎるんだ」

「でしょうね。一個人を追うために世界規模の組織を漁るのは国家規模でも難しいし」

「それでも私と束がそこそこ気合い入れて探してるんだけど彼女に関してはなんの手がかりも無くてね」

 

 たはは、と先生は笑うが、実際はそんな笑い事では済まないのだろう。特に上坂先生と篠ノ之博士は織斑先生絡みになると歯止めが利かなくなるという話を風の噂で聞いたこともあるし、大天才(大天災)2人が"そこそこ気合いを入れて"探した末に私たちですら辿り着けていない恐ろしい事実の一片を垣間見ているのだ。

 

 

「今はアメリカに居るらしいんだけど、ニューヨークだのマイアミだのって目撃情報が多すぎてアテにならないし、どうも千冬そっくりな見た目ってのはわかってもそれ以上詳細がわからないから監視カメラで検索をかける訳にもいかなくてさ。夏頃には亡国機業にコンタクトを取りたいとは思ってるんだけどね」

「はぁ……先生達に敵うとは思わないけど、私も探してみるわ。織斑マドカ。亡国機業はもともと目をつけていたし、いい機会だわ」

「んじゃ、報酬は出来高で。どっちが早いか競争だね」

「そんなピクニックに行くんじゃないのよ?」

「ふふっ、私は"世界最強"だよ?」

 

 先生は冗談っぽく笑って左目を光らせた。

 

 

「ホント、食えない人ね」




まさかの楯無視点
これからもいろんなキャラで時々やるかもです

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