よくある転生モノを書きたかった!   作:卯月ゆう

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(駄姉が)待ちに待ったお食事会だよ

 そして週末。私が予約したレストランでテーブルを囲むのは私とヒカルノ、そして更識姉妹。ヒカルノが妹ちゃんを連れて来て、私が姉の方を連れて来た訳だが、妹ちゃんが楯無に凄い目を向けるなかでドリンクがやって来た。

 私と楯無がオレンジジュース、ヒカルノと妹ちゃんがりんごジュースの入ったグラスを目の前に置かれると一応形式的に私が一言言ってグラスを掲げると3人も同じようにグラスを掲げた。ただし、妹ちゃんの目が一切笑っておらず楯無が既に泣きそうになっているが。

 

 

「簪ちゃん、今日は来てもらってありがとね」

「いえ、いつもお世話になっている上にお食事にまで誘っていただいて嬉しいです。それで、どうしてお姉ちゃんが? まさか無理やりついてきた訳じゃないですよね?」

 

 いきなり核心を突く簪ちゃん。楯無のライフがガリガリ下がる。私のメンタルもゴリッと減った。ヒカルノも珍しく目を泳がせているし、この場に頼りになる味方はいないようだ。

 

 

「いや、私が誘ったんだよ。姉妹だって聞いてね。ただ……」

「先生、お姉ちゃんから姉妹仲が悪いからどうにかしてくれ、みたいなことを頼まれたのだとしたら、それはお姉ちゃんと私が解決すべき問題です」

「あ、いや、それは……」

「簪ちゃん」

 

 私がしどろもどろに言葉をつなごうとした所で既にメンタルフルボッコに近い楯無がこの場で初めて声を発した。

 

 

「今日は私がお願いして着いてきたのよ。こうでもしないと私は怖気付いて何も言えないだろうから。ただ謝りたかったの。私の言葉であなたを傷つけたから。ただ、一つだけわかってほしいのは、私は簪ちゃんに"こっち"側に来てほしくなかったからあんな事を言ったの。言葉選びを間違えたけれど、今も私は同じ様に簪ちゃんには汚い面に触れて欲しくない」

「今更そんな事言われても、困るよ…… 自分のことは自分で選びたいし、お姉ちゃんが私の事を思ってくれてるのも何となくわかってた。本音や虚さんも時々お姉ちゃんの事教えてくれてたし。でも、お姉ちゃんはどんどん遠くに行っちゃうし、私もお姉ちゃんと話すチャンスを逃してたし、避けてた。もしかしたら本当に嫌われちゃったのかも、と思うとーー」

「そんな訳ないじゃない! 私のただ一人の妹よ? 嫌いになれる訳ないでしょう……」

「2人とも、すれ違いが合流したのは結構だけど、一旦落ち着こうか」

 

 こうなるんじゃないか、と思って店の奥の個室を取って正解だった様だ。まぁ、ウェイターさんが前菜のサラダを持って苦笑いを浮かべているのは流石に避けようがないが、周囲の目は痛くない。

 テーブルに手をついて立ち上がった楯無を再度椅子に戻してからウェイターさんに合図をして入ってきてもらう。

 

 

「その、ごめんなさい。冷静さを欠いたわ」

「そう慌てなさんな。まだまだ時間はあるしね」

 

 いつものニヤけ顔ではなく、自然な笑みを浮かべて篝火さんが言うので私は少しばかり面食らってしまったが、確かに彼女の言う通りだ。更識姉妹には今は時間が無くとも来年以降は最低2年は同じ学び舎、隣の寮舎で過ごす事になるのだから今よりはずっと時間が取れるだろう。

 今は辛くとも後1年の辛抱だ。

 

 

「簪ちゃんは来年学園に入る訳だし、今よりずっと近くに居られるようになるんじゃない? ヒカルノも言ったけど、慌てないで、もっとゆっくりしなさいな」

「そうですね。お姉ちゃんがそれまで生徒会長でいられるのなら必然的に代表候補とはコンタクトを取りに行くだろうし、今は下地作りに専念します」

「簪ちゃんが辛辣……」

「普段の行いじゃないの?」

「うぐっ……!」

 

 淡々と経験に基づく予測で語る簪ちゃん。姉としては会ってくれないんじゃないかと言う不安がありありと言葉から読み取れた。

 まぁ、少し口元が笑っていたから本人は冗談のつもりでいるのかもしれないし、私がわかったのだから楯無にも見えたはずだ。

 いつも通りのニヤついた笑みを浮かべていつの間にかサラダの盛られていた小皿を空にしていたヒカルノを一睨みしてから私もようやく食事に手をつけた。

 

 その後もデザートが出てくるまで粛々と食事は進み、楯無が簪ちゃんをチラチラと見ては面倒くさそうな目を向けられる、ということも数回あったものの、胃がキリキリするような雰囲気とはかけ離れていたので私としては悪くない結果だったと思っている。もとより、一番大事なのは2人がどう思っているか、ではあるが。

 レストランを出て簪ちゃんはヒカルノの車に、私は楯無と学園に戻る。高速道路を走っていると楯無がいつになく大人しい事に気づいた。横目で見る限り寝ている訳ではなさそうだ。

 

 

「先生、その……今日はありがと」

「そんなか弱い女の子みたいな声出すな、気持ち悪い。でも、そう言ってくれるって事は妹ちゃんとは仲良くできそうな感じ?」

「そうね、後は私達次第。(気持ち悪いって何よ……)」

「さっきも言ったけど、ゆっくり長い目で見なよ。赤の他人との縁を戻すのは難しいけど、家族だしね」

「そうするわ。まずは家に帰る回数を増やすことから、かしら」

 

 街路灯のオレンジが彼女の横顔を照らし、少しばかり神妙な顔に影を作る。年不相応な艶めかしさを醸し出す彼女も今はただのティーンエイジャーだ。私も10年前はあんな感じだったのだろうか、と考えてから学園で巻き起こした数々の悪行を思い出して残念な気分になった。

 姉妹、といえば千冬の妹説濃厚なマドカだが、今はアメリカに居るらしい。流石に亡国機業とのコンタクトはまだ取れないが足取りは確実に追えている。原作に出てくるスコール派のほか、日本に拠点を置く派閥も追跡している。夏までには結果が出そうだ。

 

 

「先生、また何か企んでるでしょ?」

「そうだね。ちょっと裏に用があって」

「はぁ……そこまで正直に言われるとこっちも調子狂うわ。言うまでもないでしょうけど、不用意に足を踏み入れないことね。何が目的で裏に近づくのかは聞かないけど、先生は引く手数多なの。あまり目立つ事はしないようオススメするわ」

「ご忠告どーも。でも、一人でできる事にも限度はあるし、そろそろ更識の手を借りたいのよねぇ」

「はぁ……それで、大先生は一体何をお望みで?」

「亡国機業、それから織斑マドカ」

 

 楯無が驚きの顔を浮かべるのを横目で眺めながら私はさらにアクセルを踏み込んだ。

 

 


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