よくある転生モノを書きたかった!   作:卯月ゆう

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面倒な新入生だよ……

 卒業式から数週間、早くも新入生を迎えたIS学園。私のクラスには間違いなく問題を起こしてくれるだろうロシア代表候補生、更識楯無がいる。

 彼女は入学から2日目で生徒会長を襲撃、あっさりとその座を自身の手に収めた。あまりにも早すぎる出来事に顧問である私はもちろん、その他先生方も呆気にとられてしまうほどだったのは言うまでも無い。

 彼女は既に更識家当主の座についている(名前からわかるが)ようで、入学早々私にすごい目を向けてきた。そんなに怪しげな経歴を持っているつもりはないが。

 そして、洞察力の高さもこの時点でかなりのもので、HRでARレンズを使っていた事をあっさりと見破られた。2年前の千冬以来だ。こんな子が今年の夏頃には国家代表にのし上がるのだ、末恐ろしい。

 

 

「上坂先生?」

「どうかしましたか、更識さん?」

「いや、もう少し仕事減らしてもらえないかなぁ、なんて」

「なら人を増やしてはどうでしょう? 今は布仏さんと2人だけですし、彼女も大変でしょうから」

「あらやだ、先生ったら目が笑ってませんよ?」

「ええ、笑い事では無いので」

 

 そんな彼女と生徒会室で一触即発の空気を醸し出すたびに布仏さんの胃が痛むようで、束がやらかした時の千冬とまるで同じように眉間を揉んでいる。

 私はどうも彼女のアンテナに引っかかってしまったようで、何かと探りを入れられている。

 

 

「そうだ、更識さん。私、この前面白い事を聞いたんですけど、気になりますか?」

 

 白々しく語りかける。ちなみに、更識姉に話しかけるときは大体こんな感じだ。それ以外の生徒とはもう少しフレンドリーだと思っている。

 そして、かわいいかわいい更識妹とはとても良い関係を築けており、この前は一緒にご飯を食べに行った。彼女も当然のようにIS学園を受けるそうだ。

 

「ええ。上坂先生が面白いと言うんですから、よほどの事なんでしょうね」

「とても興味深いですよ? 更識さんは家が"少し訳アリ"らしいですけど、お家ではダメダメなお姉さんらしいですね。とある妹さんから聞いたんですけど、家庭内での揉め事も有るみたいで、ダメ無なんて言われることもあるとか」

 

 明らかな宣戦布告。更識さんがギリリと嚙みしめる音がここまで聞こえた。そういうところはまだ甘いらしい。

 

 

「あら、先生も交友関係が広いんですね。そういえばこの前ウチの妹がどこかの高名な研究者さんとお食事に行ったとか。とてもよくしてくださったいるみたいでとても満足気でしたよ」

「でも、そんな可愛い妹さんと上手くいってないとかなんとか。そんな噂も聞きましたね」

 

 隣から布仏さんの「あっ……」という声が聞こえたのもつかの間、私の首筋には扇子が添えられており、目の前には今にも殺してやると言わんばかりの目で私を睨む更識さんがいた。

 

 

「教師を脅しますか? それに、無許可でのIS展開は禁じられているはずですが」

「ねぇ、真面目に聞くから真面目に答えて。貴方、何者?」

「ただのIS"開発者"ですよ。少しばかり目が良かったりしますがね」

 

 そう言ってわざとらしくARレンズを光らせる。すると楯無は扇子を下ろし、口元に当てた。その仕草はまだ15,6の少女なのに妙に様になっており、艶やかであった。

 

 

「貴方の事、家で散々調べたのよ。ごく普通の中流家庭に生まれ、幼少期から篠ノ之束、織斑千冬とともに過ごした。貴方の言うIS開発者が言葉通りの意味ならば"明らかにオーバースペック"な開発力にも納得できる。コネや名誉なんて結果について来るものにすぎないわ。違う?」

「最後の部分は同意しますけど、私の技術力が全部束の所為かと言われればそれは違うと思いたいですね。私の経歴も見たんでしょう?」

「ええ、もちろん。高校で博士号取得なんて頭おかしいとしか思えないわ。そこから自衛隊でIS整備に従事、となっているけどその実態は何でも屋だったと聞いてるし、織斑千冬が弟を誘拐された際にも現場空域を離脱した彼女に一撃浴びせてるとか。ドイツで特殊部隊の戦力を織斑千冬とともに250%向上させたとか。武勇伝には事欠かないみたいね」

 

 なんとまぁ、それって防衛省の機密情報だろうに。なんてところまでアクセスしてるんだろうね。ちらりと布仏さんを見ると目を逸らされた。彼女は駒にもなるのね。

 

 

「私より私にとって詳しいみたい。それで、私は危険人物なわけ?」

「あら、だいぶ口調が砕けたわね。嬉しい。今のところの貴方は無害よ。日本にも世界にも。ただ、その技術力が裏に向いた時にどうなるかは未知数ね。IS研究の第一人者として知られているけれど、貴方、教育や心理、その他多数の博士号を持っているみたいだし、その目を見る限り情報科学にも精通してるみたいだしね。具体的な称号や結果として残っていなくても出来ることがある方が恐ろしいわ」

「ふぅん、そんな風に見られてるんだ。それで、お姉さんとしてはどうなの、刀奈ちゃん?」

 

 更識さんは驚いた顔をした後にまた私を射殺すような目で見てきた。私はわざとらしい笑みを浮かべてやると負けを認めたようで、両手を上げて首を振った。

 

 

「どこでそれを知ったかは聞かない。ホント、摑みどころのない人ね。篠ノ之博士もこんな感じなのかしら?」

「束もっとおかしいよ。それで、簪ちゃんと私が仲良いのは気にくわない? 刀奈お姉ちゃん?」

「それ以上私をお姉ちゃん、って呼んだらいくら先生でも殺すわよ? まぁ、確かに簪ちゃんと上手くいってないし、先生が最近簪ちゃんを気にかけているって言うのもとっっっっても気になる」

「その心は?」

「だって簪ちゃんが大好きだから! あっ……」

「お嬢様……」

 

 私がこの日挨拶を抜いて初めて聞いたの布仏さんの声はダメ無に向けた呆れの声だった。

 やらかしたことに気づいて子供っぽく私の肩をぽこぽこと殴る更識さんを一頻り笑った後にそっと耳打ちしてあげた。

 

 

「ねぇ、今週末にまたご飯に行くんだけど、来る?」

 

 二つ返事で週末の予定を空けた駄姉に少し引きつつ、お客さんが来ることを簪に連絡。その夜には返事が来ていたので問題ないだろう。

 ついでにヒカルノも誘い、上手くいけば姉妹仲の修復、上手くいかなくても私とヒカルノは有意義だ。

 それから仕事の速度をあげたわかりやすい生徒会長に仕事を押し付けてから私は職員室に戻ることにした。


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