よくある転生モノを書きたかった!   作:卯月ゆう

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またまた端折って卒業生を出すよ!

 こんなことを言ったのはどこの誰だか忘れたが、人間は年齢を重ねるたびに1年の長さが短くなるらしい。今年で23になるわたしの一年は1/23で、例えば生徒たちは1/18と言うわけだ。値に直すと0.01ほどの違いでしかないが、その0.01を意識するようになってきたあたり、わたしも歳をとったということか。

 さて、そんな与太話はさて置き、私の1年をざっと振り返ると、IS学園3年生は大いにその技術力に磨きをかけて次々と大手IS関連企業各社に就職を決めた。

 大学進学を目指す者も多くが志望校に合格を決めているようだ。その代わり、多くの生徒が軒並み国語と社会を捨てていると言う報告が私の元に上がってきている。それで進路担当の先生に呆れられてしまった(その進路担当は私の学園での同期だ…… あとは言わずともわかるだろう)。

 何はともあれ、3年生はその多くが無事に進路を決め、卒業制作の仕上げ作業に全力で取り組んでいる。

 そんな彼女らが作業する整備棟の家主は私なわけで、教員室(と言いつつ中身は他の整備室と同じだ)で倉持の仕事をしていた私の元に卒業制作に励む一人がやってきた。

 

 

「上坂先生。ウチの班のパッケージ仮完成したんで打鉄出してもらえますか?」

「ん、打鉄ね…… はい。3番に使用許諾出しておいたから。気をつけてね」

「ありがとうございます。完成したらまた報告に来ますね!」

「うん、楽しみにしてるよ」

 

 と、まぁ先生らしい事にも慣れた。今は倉持から頼まれた第2世代IS改修計画の口出しの仕事もあるからいつもより少し忙しい。

 更に言えば週末には学園に導入される新型機納入トライアルもあるし、そろそろ開発も最終段階に入ったであろう各国の第3世代も探りを入れなければならない。

 倉持のISは欠点箇条書きの報告書をまとめてヒカルノに送りつけ、旧生徒会メンバーしかわからない暗号化ファイルとして改修案も付けておいた。出血大サービスだ。

 その理由として、この計画が打鉄二式の事だからだ。最悪完成しなくてもどこぞの弟が一枚噛んで完成に漕ぎ着けてくれるが、流石にそれでは株が大暴落してもおかしくない。私が更識姉妹と仲良くなれば良いかもしれないが、春に入学する姉はともかく、妹との接点は今の所簡単には……作れる。

 彼女が今年中に代表候補生なら、私が職権乱用で彼女に近づく事など容易だ。よし、そうと決めたら即実行。ヒカルノと佐々野さんに連絡を取り、今の代表と候補生を見たいと適当な理由を付けて(文末に久々に隊のみんなにも顔を出したいとか書いておけば効果はあるだろう)メールを送っておけば来週辺りにはスケジュールが組めるはずだ。

 そして一つ伸びをしてからファウストを出してみる事にした。束とはちょくちょくコレ関連で連絡を取り合っている。何処にいるのかは知らないが、呼べば来るだろう。今は第3世代兵器のテスト中だ。具体的にはAIC(アクティブイナーシャルキャンセラー)と小型のビットが10機。正直なところこの2つは汎用性が高いからこの2つさえあれば大半の戦局はなんとかなる気がする。脳みそ30個を並列で動かせる私とこの2つは相性がこれ以上ない程にぴったりなのだ。

 白衣を脱いで椅子に掛けると部屋の真ん中にあるベンチの中心に立ち、少しばかり気合を入れると一瞬でファウストを展開した。部屋が広くないのでビットを10機も出すわけにいかないが、3機ほど出して部屋の中をクルクルと飛ばす。紙飛行機のようなシルエットの真っ白いビットは数周まわると私の肩口にホバリングした。低速飛行での安定性も良好だ。そしてファウスト本体のブースターやら何やらを一通りチェックすると30分ほどで貴重な私のISいじりタイムは終わった。

 

 私は細かいことが苦手なので掻い摘んで結果だけ述べていくと、トライアルの結果、学園に転がる第1世代の後継機として第2世代の最新鋭機、フランスのラファールが決まった。ドイツのGen.Zweiも悪く無かったけど、汎用性の高さと癖の少なさから教員の大多数がラファールを推した。

 そして更識簪とのファーストコンタクトにも成功。代表候補生の中でもトップの実力に相違ない。同行したヒカルノとも倉持の試験機を彼女に任せてもいいかも、という事で同意している。あとはお上様だけだが、彼女の実力ならばノーとは言わないだろう。

 最後に整備科顧問としての一大イベント、卒業制作の審査だが、2クラス10班全てが実用に耐えうるレベルのパッケージを完成させていた。大学と違って絶対評価なのでほぼ全員が5段階評価の5だ。もちろん、詰めの甘いところもあるが、学生が5〜6人掛かりで半年しかない中で作るものと数十数百人掛かりで1年かけるプロの仕事を比べるのは酷というものだ。

 そして私の担当科目も合わせて生徒の評価をつけ、データを打ち込むと今年度の私の大きな仕事は終わり。あとは彼女達を送り出すだけだ。

 

 

「卒業生代表、3組宮崎遥」

「冬が明け、春の足音が聞こえる今日、3年間の長く短い学園生活を終えーー」

 

 私はいま、アリーナで行われる卒業式に、教員席の最前列で卒業生代表という大役を務める教え子を眺めている。流石に泣きはしていないが、私が卒業した時の事を思い出す。私も彼女と同じように卒業生代表を(半ば無理やり)任され、似たような事を言ったように覚えている。あの時は織田先生が泣いていたが、今年はそうでないようだ。

 良くも悪くも私たちの代は強烈なキャラクターが揃っていたから先生も大変だっただろうな、と教員を務めたいまならわかる。私が持った彼女らはとっても利口で、おしゃべりで、手のかからない(と言うと語弊があるが……)生徒達だった。おう、私たちと大違い。

 

 

「最後に、お世話になった先生方、一緒に過ごした仲間たち、そして両親に感謝を述べて挨拶に代えさせて頂きます。ありがとうございました」

 

 こっちこそ、君たちには大いに刺激を受け、私の学び直しの機会になった。ありがとう、と心の中で最後のHRに使えそうなクサいセリフを思いついてから生徒席に戻る背中を見つめた。

 校歌斉唱とその後の説明を司会の先生がしてから卒業生退場のアナウンスとともに3年生担任団が立ち上がり、各クラスを先導して教室に戻る。

 私はもちろん3番目。生徒と大差無い背丈をいつもより高めのヒールで誤魔化してアリーナを後にする。

 

 

「上坂先生、泣いた? ねぇ、泣いた?」

「うるっと来たけど泣いてないよ。多分」

 

 卒業生代表も仮面を剥がせばこんな感じだ。クラスのムードメーカーであり、学年1,2を争う名メカニック。アリーナを出てすぐに列が崩れて私を中心に固まって歩くようになると、しれっと私のすぐ脇をキープしているのだ。

 

 

「ちぇっ。織田先生に聞いて上坂先生の挨拶を真似したんだけどなぁ」

「どこかで聞いた覚えのある言葉だと思った。織田先生もよく覚えてたね」

「いろんな行事の記録は学園のオープンストレージを漁ると案外出てくるもんですよ。初代生徒会長サマ?」

「良くもまぁ……」

 

 私が生徒会長だったということは彼女以外知らなかったようで、口々に「上坂先生が生徒会長!?」「ってことは学園最強だったの?」とか聞こえてくる。残念だが私の代で最強なのは言うまでもなく千冬だ。私が少し思い出話でもしようかという時に宮崎さんはまた爆弾を落として行ってくれた。

 

 

「んで、織田先生に聞いたんだけど、上坂先生って織斑先生に何度かISバトルで勝ってるんでしょ? 第1世代のISでリボルバーイグニッションブースト(個別連続瞬時加速)してる映像も残ってるよ」

「…………」

「遥、その映像後で出せる?」

「もちろん。ホームルームは上坂先生の思い出話でもしてもらう?」

「お前ら、好き勝手言ってくれるな……」

 

 まさか映像が残ってるとは思わなかった。てっきり織田先生が気を利かせて消しておいてくれたとばかり思っていたが、想像してなかったところで見つかってしまった。彼女に見つかった通り、私は何回か公式戦で千冬に勝利を収めている。全て1年のころだが、千冬が苦手としていた飛び道具で何度か千冬を削り切ったことがあった。

 その後も質問攻めに遭いながら教室に辿り着くと即座に教室内全ての端末にロックを掛けた。

 

 

「あ、先生ズルい!」

「ふふん。これが先生の特け…… 誰ですか? 私の端末にハッキングを仕掛けてるのは?」

「バレた! だが手は止めない!」

「行け、沙都子!」

 

 システム系が得意な北条さんが教員端末にハッキングを仕掛けてくるが、まぁ、最後だし生徒たちが望むのなら仕方ない。

 

 

「ん、先生観念した?」

「最後だし、特別ね?」

「よっしゃ!」

 

 教室の騒がしさが一層増すと、宮崎さんが自身の端末から教室前方のディスプレイにファイルエクスプローラが映る自身の端末の画面を送ると、今度は教室が静まり返った。

 

 

「さて、どこから行くか……」

「ホームルームは30分しかないから、20分くらいで終わらせてね」

「えぇ〜 仕方ない、じゃ、学園初のISバトルでも見てもらいますか」

 

 そして慣れた手つきでフォルダからフォルダへと飛び回り、学園のオープンストレージ内にある試合記録映像フォルダの一番初めのファイルを開いた。

 映し出されるのは今より幼い顔立ちの(そりゃそうだが)私と千冬。ライフルを手にぎこちない構えを見せる私と対照的に千冬は自然に中段の構えを取っている。

 聞き慣れた織田先生の声が響くが私も千冬も動かない。当時の私としてはそんなに長い時間では無かったような気がするが、今の彼女らにはもったい無い時間であるようで、少し早送りすると私がちょうどトリガーを引く瞬間だった。一発目でヘッドショット。続く二発目はヘッドギアを掠めて消える。

 

 

「先生、銃撃ったのってこの時が初めて?」

「そうだね。一発目でヘッドショット取れるなんて我ながらいいセンスしてるよ」

「でもリコイルコントロールが出来てないから二発目は外してるけどね」

「あの頃は今みたいな反動制御アシストなんて無かったんだよ?」

「ハイハイ、言い訳言い訳」

 

 クラスを失笑混じりの笑いで包んでから私の懐かし映像はさらに続く。次の映像は授業頭の模擬戦。日付を見る限り1年の終わりだ。

 その頃の私は大分銃にも慣れて構えがサマになっている、と思う。

 

 

「1年の終わりだととっくに千冬に負け越してるよ。千冬が銃に慣れたからなぁ」

「でもこの試合は先生の勝ちで終わりますよ」

「そんなことあったかな……」

 

 彼女の言う通り、この試合では私がなぜかハンドガンで格闘戦を行い千冬に勝利を収めていた。映像を見て思い出したが、何か古い映画に影響されて二丁拳銃で千冬の剣を捌きつつ打撃と銃撃で削る戦法を取って辛うじて勝利を収めた。

 

 

「んで、よく見るとハンドガンのリロードの時、グリップの中に直接マガジンを展開してるんだよね。こんな小技、代表でもやる人居ないんじゃないかな」

「まさか、私ができるんだからそこらの代表もできると思うよ?」

「「「「ないない」」」」

「えぇ……」

 

 マガジンハウジングに直接マガジンを展開する小技は銃を使う人なら誰でも思いつくと思うんだけどなぁ……? こんどモンドグロッソの映像を見返してみよう。ちなみに、これを応用するとシングルショットのライフルの薬室に直接薬莢を装填できるから普通のボルトアクション並みの速度で連射できるようになるメリットもある。

 映像はさらに続き、3年の1学期まで飛んだ。時間的にこれがラストかな。

 

 

「最後がコレ。今でいう学年別トーナメントの時の映像なんだけど、先生この時すでに専用機持ってるんだよ? 凄くない?」

「懐かしいね。自衛隊入るときに返したんだけど、束お手製だから当時最強だったんじゃないかな?」

「悪夢の世代……」

 

 誰かがボソリと失礼な事を言った気がしたが目線だけで探すと殆どの生徒が一斉に目を背けたため、誰が言ったかはわからない。

 懐かしのナイトメア(黒騎士)で千冬に対峙する私。思い返せば授業の模擬戦でも殆ど使わなかった記憶がある。まぁ、専ら各種装備のテストベンチみたいなものだったしなぁ。

 

 

「先生がブレード持ってるよ」

「織斑先生の目がマジだ……」

「あの時の千冬はマジで怖かったよ。確かこの試合が私にとっては学園最後だったからお互いに本気だったんだと思う」

「先生は当時から整備科だったんですか?」

「そうだね。だから2年の後半からは滅多にISには乗ってないよ」

 

 お陰で映像が少なくて、という言葉を続けた仕掛け人を置いて試合は進む。といっても開始から2分経った今も私と千冬は睨み合ったままだ。

 白銀の撃鉄を纏う千冬に対し、漆黒の悪夢を纏う私。物理刀の千冬とレーザーブレードの私。似ているようで決定的に違う二人はシークバーが2/3動くまで動かなかった。

 当事者である私とこの映像を探し出した宮崎さんは結果を知っているから何も言わないが、宮崎さんはどこかニヤついているようにも見える。

 そして映像が後30秒ほどとなった瞬間だった。一瞬にして私と千冬の立ち位置が入れ替わり、私が刀を捨てて両手を挙げた。

 生徒たちはあまりに早すぎる出来事に、頭の上に「?」を浮かべ、私は黙って当時の事を思い出していた。

 

 

「先生、みんなオチがわからないみたいなので解説してください」

「ん? 二人同時にイグニッションブーストかけて居合斬りしただけだよ。その結果私は刀をへし折られ、ハイパーセンサーも一緒に持って行かれたから降参」

「私もコマ単位で映像見返してやっとオチがわかったんだよね。これが第1世代だよ? 信じらんない」

 

 生徒たちが激しく同意、と言わんばかりに頷く中、私はこのクラスを終わらせるべく、椅子を立った。

 

 

「さてさて、私の黒歴史ももういいでしょ? 最後のホームルーム、始めるよ」

「ついに終わりかぁ」

「嫌だな」

「ほれ、つべこべ言うな。んじゃ、連絡事項から。寮に荷物置きっぱの人は来週までに持って帰るように。できれば今日中に持って帰りな? それからーー」

 

 5分ほどで全ての連絡事項を伝え終わるとついにHRも終わりだ。

 私は初めての生徒たちにプレゼントを用意してきた。

 

 

「さて。ついに終わりですか…… 最後に先生らしくカッコいい事を言わせてもらうと、私にとって初めての担当クラスだったみんなにはとっても感謝しています。みんな真面目で、物分りが良くて、おしゃべりで。それぞれ濃いキャラを持ち、実習なんかは特に真面目に取り組んでくれました。そんなみんなから私もいっぱい学ぶことができたし、同じようにみんなにもわたしの持てる技術を教えてきたつもりです」

 

 さっきまで散々騒いでいたのに今はみんな揃って黙っている。それに、気がつけば織田先生もいるし……

 

 

「これからISに関わる人には有意義な、そうでない人は宝の持ち腐れになってしまうかもしれませんが、皆さんが持つ知識、技術は世界に通ずる物だと思っています。皆さん、1年間ありがとうございました。そして、3年間お疲れ様でした。ささやかだけどプレゼントを作ってきたから、出席番号順に取りに来て。1番、秋山さんから」

 

 私が彼女たちに贈るプレゼント、それはISコアに使われる特殊合金で作ったIS学園の校章バッジだ。束経由で材料を仕入れ、夏頃からコツコツと作ってきた。

 一人一人に一言添えてチタンで作ったケースに入れたバッジを渡していく。泣きながら抱きついてくる子もいれば、何か言ったら泣いちゃう、と黙って物だけ受け取る子もいた。それにたっぷり時間をかけると、他のクラスが解散し始めたので我がクラスもお開きにしよう。

 

 

「みんな貰ってくれたかな? 暇な人はそのバッジを是非解析してみてほしい。本体はもちろん、ケースにも全て意味があるからね。じゃ、解散!」

 

 もちろん、みんな簡単には帰ってくれなかったが、私の時もそうだったし、いつの時代も卒業式の後はクラスメートや先生とお喋りに興じるものだろう。私もしばらく生徒たちと談笑し、気がつくと1時間が経とうとしていたので今度こそ解散させた。

 それからの仕事は数週間後に迫った入学式の準備だ。既に3割ほどは終わっているが、春休み期間が本番だ。

 来年度は1年生の担任だ。私が少しばかりバレない程度に人の心理を煽って私は更識楯無のいるクラスの担任になった。どうせすぐに生徒会長を襲いに行くのだろうから、何かとちょっかいを出すのに都合がいい。

 さらに、世界で進む第3世代機開発の監修というバイトもあるから来年はとても忙しくなる。夏までに機体を完成させ、トライアルに回さなければならない。今の所私の元に仕事の依頼が来たのはドイツとイタリア、そしてイギリスだ。

 原作の通り進ませることは諦めたので今後は無事平穏に原作のイベントを叩き潰す方向で動くことを私は脳内議会で可決、そのための第1歩としてまずはレーゲン型に搭載されるであろうVTシステムを潰す。そして、今年中になんとか亡国機業ともコンタクトを取りたいところだ。織斑マドカのこともある。彼女が千冬のクローンなのか、実妹なのかは原作では明らかにされていないが、クローン説は私が千冬のDNA流出を抑えることで潰した。なので彼女が現れればそれは実妹である事の証左となる。

 織斑姉弟の両親が原作では明記される機会がなかったが、二次創作でよくある亡国機業に行った、なんてことがあると少し困る。

 なにはともあれ、今は目の前にそびえる書類の束と、データの山を処理する事から始めよう。


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