よくある転生モノを書きたかった!   作:卯月ゆう

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数年ぶりの学園生活だよ!

 やあ、諸君。今は年も明けた4月だ。ドイツから帰ってきて半年弱と言ったところだろうか。私と千冬は佐々野さんの助力もあって穏便に自衛隊を辞めることができた。そして千冬は学園長とのコネで、私は回り道をしたものの、学園の理事数人と何度か食事を重ねる事で無事にIS学園教員の肩書きを手に入れた。オマケで私には倉持技研特別研究員なんて役職もあったりする。いや、持つべきものは友人だね! 誰とは言わないが、彼女も利口な子だったから出世してるだろうな、とは思ってたけど、原作開始2年前にしてすでに主任研究員なんてポストに就いてるなんて驚いた。一緒にご飯食べたら「頼みますよかいちょ〜」と言われてしまったので給料も良いし、時々顔だしてくれれば良いと言われたので契約書にサインした。

 何はともあれ千冬と私というIS乗りの神様と弄りの神様(自分で言うのも癪だ)を手中に収めた学園は私達をいきなり重要ポストに据えた。千冬は学園防衛の最高責任者に。私はその際の補佐と整備科の顧問なんて訳のわからない仕事を任された。その他にも千冬は茶道部顧問、私は生徒会顧問とか色々。まだ寮長にはなってないし、学年主任でも無い。千冬は副担任だ。なぜか私が担任を持つことになったのが不思議でならないが、3年3組という整備科のクラスだから許そう。なにせ国語と社会以外の科目は私が担当教諭なのだから……

 幾ら私がIS開発が出来て、それに従って理系科目が出来るからって投げて良いものなのか……? 激しく抗議したいところだが、こちらも給料を貰って働く身だ、週に20コマくらいしっかり働こう。

 

 

「と言うわけで上坂、明日から1学期が始まるが、あまり気張るなよ?」

「はい、織田先生。指導要領もバッチリ暗記しましたし、クラスの子も粗方覚えました。多分大丈夫です」

「私も空いている時間は教室で見ているから安心しろ。しかしまぁ、まさか教員になるとは思わなかったな」

「その話は3度目ですよ、先生」

「それほどの驚きなんだ。自衛隊は合わなかったか?」

 

 そして今、職員室で私の隣に座るのは7年前の私の担任、織田先生だ。私が担任になった3組の副担任で、3年の学年主任でもある。変わらない長い黒髪とハスキーな声。性格は若干好戦的な面が抜けたような抜けていないような。

 私達が学園に着任した日に「一戦付き合ってくれないか? 教え子が世界最強になったことだしな」と言われた時には千冬も思わず苦笑いだった。今も変わらずIS関連の科目と体育を教えている。他の科目の免許を取らないのか聞くと「私は教えるのが下手だから今で手一杯だ」と言っていた。それでもIS学園で数少ない"ISで戦える"教員の一人だ。

 

 

「自衛隊も悪いところではありませんでしたよ。望んで入った訳ですし。ただ、千冬にあんなことも有りましたし、私ももう一度ISとの付き合い方を考えようかと」

「なるほど。お前は今のISのあり方は嫌か?」

「嫌ですね。束と私の望んだ方向ではありませんし」

「だがお前は、お前たちは、か? 兵器としてのISを受け入れているだろう? だから付き合い方を考える、と言う言い方をする。お前と篠ノ之なら世界を丸ごとひっくり返すことだって出来るのに」

「それは買い被り過ぎです。確かに私は兵器としてのISを受け入れ、それで生きてます。束もそうでしょう。ただ、私や束とそれ以外で決定的に違うのはISの本質を考えたことがあるかないかです。宇宙進出のためのスーツ。平和的利用が本来の姿だったはずなんですけどね。気がつくと私も束も、世界中がISを見失ってました」

 

 そもそもスタートから間違ってたんだ。千冬に大気圏突破させて月に旗を立てるとか(ミサイルを斬るのは無し)、そんなことをしておけばこんな方向に進むこともなかっただろう。ノリと勢いで来てしまった事が悔やまれる。が、私は原作通りに事が進んでくれないと色々と困るので束を唆して日本にミサイルを撃ち込ませたのだ。ある意味責任は私にあると言える。

 

 

「上坂、お前人を誤魔化す時には矢鱈と饒舌でキレイな言葉を使う癖があるのわかってたか? 今のお前の口調はそれだ。しかも嘘を言ってない分なおさらタチが悪い。お前たちはある意味初めから失敗してたともいえるが、それを失敗だと認識してるだけマシだ。世界はお前たちの失敗を成功だと喜んでるんだ。そんな奴らが居ないとIS関連の職につく人間は9割以上失職してしまうだろうがな。この学園含めて」

「でしょうね。武装を失ったISに価値はありませんし。本当、どうしてISは女の子しか受け付けないんでしょうね? そのせいで世の中ぐちゃぐちゃですよ。男の人なんて表も歩けないんじゃ無いですか?」

 

 織田先生は苦笑いしてコーヒーを啜ると「確かに、女尊男卑の風潮は強まりつつあるな」と言った。

 この前服を買いに行った時なんかも時々パシリの様に使われる男性を見かけたし、ISと言うものが世の中のあり方にすら変化をもたらしているのかと思うと残念になる。

 人間の心理の働きの一つに自己投影と言うものがある。簡単に言えば他者と自分を重ねて見る事を指すのだが、これが悪い様に働くと今の世の中みたく「ISを使える女性だから私偉い」みたいな考えに陥ってしまうのだ。ちなみに、いい様に働くと「千冬がブリュンヒルデになれるなら、同じ女である私も」というように自分のモチベーションアップにも繋がるのだが……

 

 

「ま、何はともあれ実技も理論も一般科目も全部こなせる先生が来てくれて私たちも大分楽になるんだ。期待してるぞ、上坂センセ」

 

 パン、と私の肩を叩くと織田先生はそのまま立ち上がって手をヒラヒラと振りながら職員室を後にした。私も仕事という仕事は特にないし、今日は久しぶりに自宅に帰ることにしよう。せっかく貯金叩いて駅前のタワーマンションの一室を買ったのにほぼ毎日職員寮の部屋で寝泊まりなのだからもったいないなんて次元じゃない。家と合わせて買った車も学園の駐車場に停めっぱなしだ。折角のイタリア製スポーツカーも乗らなければただのオブジェ。まぁ、オブジェとしての芸術性を備えてるだけマシともいえるが……

 そんな話はさておき、データ類を私が学生時代に作ったデータベースに保存してPCの電源を落とすと私も家路に就いた。

 

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 翌日、久しぶりに自宅の風呂に入りゆっくりと過ごした私はいつもより大分早起きして真新しい(と言うより買ってから殆ど着ずにクローゼットで眠っていた)スーツに袖を通すと襟にIS学園の校章バッジを付け、腕に普段はしないような上品な時計が嵌っているのを確認してからこれまた少し埃っぽいレザーバッグに最小限の荷物を詰め込んで家を出た。

 私はファッションにこだわりなんて無いので普段はYシャツにジーンズ、その上に白衣を羽織って過ごしている。今日みたいな機会でも無いとこんなキッチリとした格好なんてしない。その点自衛隊は制服があったから楽だった。

 自宅から30分ほど走れば学園に繋がる連絡橋が見えてくる。入り口のゲートでIDを見せてからもう5分も走れば到着だ。時刻は7時50分。ルームミラーでもう一度メイクを確認してから車を降り、トランクからバッグとパンプスを取り出し、職員室に向かった。

 

 

「おはようございます」

「おはよう、上坂。ふむ、スーツもちゃんと着こなせて、大人になったんだな……」

「自衛隊でも散々礼装は着ましたし、慣れましたよ。まぁ、ちっこいんで着られてる感は否めませんけど」

「お前は比較対象が織斑だからな。あいつは背も高いしスタイルもいいから何を着せても映えるだろ」

 

 ええ、本当に。心の中で思ったけど、廊下から千冬の気配がしたから笑うだけで済ませた。千冬はカッコいいし、背高いし、胸おっきいし、無手でも武器持たせても強いし、なんだろうね? でも、家事スキル皆無なのは神様がステ振りをルックスとATK(攻撃力)に極振りしたからかな? そこは公平だ。うん。

 

 

「おはようございます」

「おう、織斑。やっぱりな。お前は何を着ても似合う」

「あ、ありがとうございます」

「ちょうど上坂と話してたところだ。上坂は学生の頃からあまり成長してないみたいだからな」

「はいはい、どうせちんちくりんですよ。スーツや制服に着られちまいますよー」

 

 拗ねた風にして千冬の傍を通る瞬間にこっそり「一夏くんに用意してもらったんでしょ?」と耳打ちすると千冬は少し顔を赤くして目を逸らした。やっぱり家事は一夏くん頼りらしい。

 ニヤニヤするのを押さえ込みながら入学式が行われるアリーナへ懐かしい道のりを歩いた。

 入学式の準備なんてのは演壇を出したり、新入生や教職員用のパイプ椅子を並べたり、クラス分けのボードを出したりする程度だ。在校生には事前にクラス分けをメールで送ってあるし、春休みにも帰らない子もある程度いる。事前にそんな子達に声をかけて手伝ってもらい、ものの数時間で全て終わってしまっていた。

 なので私はコントロールルームでセキュリティの再確認とピットでスクランブルに備えるISのファイナルチェック。ここら辺の技術的なところは私の領分だ。

 それらを終えると教職席に腰掛け、観客席に入ってくる在校生を眺めて過ごした。私の記憶が正しければ今年の新入生の中には原作キャラの一人、布仏姉妹の姉、虚が入ってくるはずだ。と言うより、新入生名簿に確認してるんだけどね。

 在校生の誘導を終えた先生方が教員席を埋めると、司会進行を務める先生が「新入生、入場」と声を上げ、入学式は始まった。

 内容に関しては長く詳細に述べるまでも無いだろう。みなさんが想像する通り、ごく普通の高校の入学式だ。新任の紹介の時に千冬が大歓声を浴びたりしたが、予想の範囲内だ。ちなみに私の名前が紹介された時には整備科の数人が目を見開いていたので私もある程度の知名度はありそうだ。やったね。

 そして式が終わればHRはお決まりだろう。織田先生に急かされるまま、私の教員人生の本編が始まった。

 

 

「おはようございまーー」

「博士!」

「上坂博士キタコレ!」

「神降臨! コレで就活勝つる!」

 

 無難に挨拶をしながら教室に入ると私も原作1巻の千冬ばりの歓迎を受けた。方向性が千冬ファンに負けず劣らず歪んでるが、現実的なのでまだマシだろう。

 手を打つと見事に静まりかえる教室。まるで良く訓練された兵士のようだ。

 

 

「改めて、おはようございます。今年度から教員としてみなさんと1年間過ごさせていただきます。上坂杏音です。どこぞの界隈ではいろんな二つ名を頂いてますが、皆さんとは教師と生徒。それ以上でも以下でもありませんから、私やその他の先生方を上手く使って学園生活最後の1年を充実したものにしてください。よろしくお願いします」

 

 ちらりと横目で織田先生を見ると笑いをかみ殺して居るのが見えたので目線に殺気を込めて送ると一瞬で真顔になってから更に厳しい顔になってからやっと普通の顔になった。ここまで1秒たらずだ。

 

 

「私は副担だ。ま、お前らなら上坂とも仲良くできるだろう。こいつは性格はともかくISに関することは篠ノ之と肩を並べられる。全く、お前と言い篠ノ之と言い、IS開発に回るヤツは性格に難があるのが多いのかね」

「さて、1限目はIS整備論、2限目は技術者倫理ですね。どちらも私の担当なのでイントロダクションから始めましょう。教科書はみなさんのオンラインストレージに配布してあるので手ぶらで良いですよ。それではホームルームを終わります」

 

 そして私の記念すべき教師としての1日目が幕を上げた。


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