よくある転生モノを書きたかった!   作:卯月ゆう

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ドイツでの集大成だよ

 ドイツに赴任して1年経とうかというある日。今日の黒うさぎ隊は心なしかそわそわしているように見える。それもそのはず、数週間前に行われた代表候補生選抜試験の結果が届くのだ。もちろん黒うさぎ隊は全員が受験、現候補の3人も含めて5人の枠に入るのが誰なのか、全員が自分である事を祈っている。

 その時の試験官を務めた身としては黒うさぎ隊に関しては世界的に見てもトップクラスの実力があることは違い無いが、そのなかでも上から順に選ぶのがこの試験だ。もちろん軍以外にも民間の研究機関や企業からの受験者もいたが、正直言って話にならないレベルだ。学園の卒業生も数人居たが、彼女らが黒うさぎ隊に次ぐポジションを次々と奪い、国内で育成されたパイロットは「ISに乗れるだけ」なんて次元の受験者もいたから驚きだ。

 

 

「結果が届いた。今回はシュヴァルツェハーゼで5人の枠を全て埋めることになった」

 

 隊舎のホールに集まった隊員たちがざわめく。その中心は手紙を持ったクラリッサだ。あぁ、半年も経つと私も何人かをファーストネームで呼ぶようになった。ふふ、私のコミュ力が故! スミマセン嘘です。

 

 

「では、読み上げるぞ。Sehr geehrte Damen und Herren……拝啓、ドイツ連邦軍IS運用隊シュヴァルツェハーゼ諸君。今回の選抜試験の結果、以下の5名を国家代表候補生として任命する」

 

 気を利かせたクラリッサが書き出しの文を読んだ後に日本語で読み直してくれた。その間にホールは静まり返り、唾を飲む音さえ聞こえてきそうだ。私と千冬は部屋の壁に寄りかかって腕を組んで黙って黒うさぎ隊の面々を見守っている。

 千冬は背が高いし、胸もあるからこういうポーズが様にサマになってて羨ま……カッコいいと思ったのは秘密だ。

 

 

「ニーナ・ラインプファルツ、アストリット・シュタルケ、リーゼロッテ・ブルーメンタール、クラリッサ・ハルフォーフ、ラウラ・ボーデヴィッヒ。以上5名」

 

 この手紙には成績順に下から名前が書かれている。クラリッサから聞いた。そして、最後の最後に発表されたのがラウラと言うことは、試験で最高得点を得たことになる。試験で採点をしたのは千冬と現ドイツ代表(名前は忘れた)、その他軍部の人が数人だ。千冬はこういう所で贔屓する人間では無いので、単純に彼女の実力と言うことだろう。

 もっとも、それに気づくべきは試験官だった私であるべきだったわけだけど……

 未だに静まったままのホールで最初に声を上げたのはラウラ。あいにくここから姿は見えないが、ひそひそと彼女の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 そのラウラだが、私との話がキッカケになったかどうかわからないが、今では隊のマスコット的立ち位置を確固たるものにしている。まぁ、ちっちゃくて可愛いから愛でられまくりと言うわけだ。

 そんな彼女が鼻をすすりながら泣いていれば庇護よくがそそられて当然。たとえそれが自分より圧倒的に強い子でも。

 

 

「まさか千冬の言う通りになるとはね」

「まさか、とは失礼だな。私は有言実行したまでだ。そういうお前も、だいぶボーデヴィッヒを可愛がっていたようだが?」

「いや、だってちっちゃかわいいし、このまま日本にお持ち帰りしたいくらい」

「はぁ……」

 

 私が真顔でラウラをちっちゃかわいい、お持ち帰りぃ〜と宣言したのがそんなにマズかったか、千冬にため息とやれやれ、の仕草を頂いた。

 誰に担がれたか、ラウラの頭が人だかりから飛び出すと、私たちの方を見て手を振ってきた。思わず私も手を振りかえす。そして千冬を睨むとまた呆れた顔をしてから千冬もラウラに手を振った。

 

 

「さて、残り何週間も無いけど、再就職先でも探す?」

「いきなり生々しい話をするな。だが、確かにそろそろ探さないとな。まぁ、当てが無いわけでも無いが」

「え、ちーちゃんそんなコネあったの?」

「国家代表ともなれば必然的にな。IS学園さ。山田君もいるらしい」

 

 私が先生をやる、と言えばノーとは言われないだろうしな。と自虐混じりに言う千冬に適当な相槌を打ってから、私もそれに乗ることにした。

 

 

「んじゃ、私も行こうかな、IS学園」

「馬鹿な事を吐かせ。お前は人に教えることが大の苦手だろうに」

「ココで少しは成長したんだよ。私だって」

 

 そうこう話すうちに周囲はパーティーの準備が進み、食堂から持ってきた料理や飲み物がずらりと並ぶ。アルコールまであるからには無礼講ということか。そう思ってワインをグラスに注いでから食べ物を求めて視線を彷徨わせるとラウラのグラスにビールをついでる年少組が目に付いた。気配を消して彼女たちの背後を取ると首に手を回しながら微笑みかけた。

 

 

「やあやあ、諸君。上官の眼の前で未成年者に酒を注ごうとはいい度胸だねぇ」

「「う、上坂教官っ!?」」

「そんなに酒が飲みたいなら喜んで相手になろう。ラウラ、絶対に飲んじゃダメだからね。なんならクラリッサのそばにいな?」

 

 年少組(とはいえ16〜なのでドイツでは一部のアルコールが飲める)を引き連れて会場の一角に陣取ると通りがかりの整備隊の人に頼んでジョッキビールを持ってきてもらう(まさか彼女にジョッキを10個以上一度に持つ特技があるとは初めて知った。ドイツ人の必須技能なのかもしれない)と持っていたワインを一気に流し込んでから年少組にビールを勧めてじわじわと潰すと生き残っている年長者達でゆっくりと飲む時間になった。

 

 

「もうすぐ終わりか……」

「千冬が感傷的になるなんて珍しい。酔ってる?」

「これだけ飲めば酔いもする。お前はそうでもなさそうだな」

「アルコール分解を進める薬作ってそれ飲んできた。お酒弱いからね」

 

 千冬が笑うと手にしていたグラスを煽ってから中身のない事に気づくと横から伸びてきた手にあるグラスを受け取った。

 

 

「ありがとう。ん? 誰だ」

「お疲れ様です、織斑先輩」

「クラリッサ。候補生の座をキープできたな」

「ええ。ですが、代表候補筆頭の座は奪われましたがね」

 

 横目で見た先には誰かの膝の上で寝ているラウラが見えた。あんな幼けな女の子が今のところドイツ軍最強の戦力なり得るというのが信じがたい。私の考えが顔に出ていたか、クラリッサも「少し精神と環境の成長度合いにギャップがある感じはしますが、そこは私達でフォローします」と言ってくれたのでまずは安心できるかと思う。

 

 

「織斑先輩も上坂先輩もそろそろ帰国ですか……」

「そうだね。私達、日本に戻ったら自衛隊辞めようと思ってるんだよねぇ」

「何故ですか? 先輩たちはまだ第一線で活躍されてるではないですか」

「もう嫌なんだよ。私のせいで誰かが傷つくのが。同じ過ちを繰り返したくないんだ」

「織斑先輩……」

 

 酔いが回って饒舌なのか、千冬なら普段言わないであろう否定的なニュアンスの言葉が出た。クラリッサもこれには言葉が出ないようだ。

 

 

「疲れたんだ。ブリュンヒルデなんて持て囃されるのも、悲劇のヒロインにされるのも。殆どの人間は私を"最強"として見る。どんな場においても私はそういうフィルターを通して見られる。今の私を"織斑千冬"として見てくれる人なんて一握りしか居ないんだ。そんな世界に私は疲れた」

「でも千冬はISという呪縛から逃れられない。残念だけどね」

「言うな。今くらいは忘れされろ。"大天才"サマ?」

「……?」

 

 クラリッサが頭に「?」を浮かべるなかで私も千冬も今の話は忘れようと言うように手に持つグラスを煽った。

 時計の針が真上を通り過ぎて真横に向こうかという時間に自室に戻るとつけっぱなしのPCに届いていたメールを確認した。

 上司である佐々野さんには前々から自衛隊を辞める旨を伝えていたのでその手続きや根回しに協力をしてもらっていた。その経過報告と帰国する際の手続きやらの事が長々と書かれていた。端的にまとめてしまうならば、千冬は精神的疲労から退官。私はさらなるIS研究の進歩発展のために退官するような理由付けになった。まぁ嘘は言っていないし、変なこじつけのような理由を並べ立てるよりも波風立たないだろう。

 千冬は自身のコネで学園に連絡を取るだろうが、私だって一応学園理事の一人や二人くらい連絡先を交換している。が、その前に学園で教員として働く同級生に「自衛官辞めるから仕事探してるんだよねー(チラッチラッ」と言ったメールを送りつけることにした。

 明日(というより今日だ)は休みだし、あとはゆっくり寝ることにしよう。


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