よくある転生モノを書きたかった!   作:卯月ゆう

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再び原作キャラとの邂逅だよ!

 ドイツに来て2週間。黒うさぎ隊の面々が私に向ける目線から多少なりとも畏怖の色が抜けてきてから私はふと今足りない存在を思い出した。

 

 

「ラウラがいない…?」

 

 そんなわけはない。私は初日に千冬にぶっ飛ばされてから翌日に隊員のテスト結果を見ている。その中にちゃんとラウラのデータはあった。ーーまぁ、結果は散々たるものだったが、原作通りだ。

 ならばなぜ訓練担当の私の元に居ない?

 

 

「ボーデヴィッヒ少尉は?」

 

 黒うさぎ隊を5〜6人の班に分けて行う訓練。年長組の1人、私と学園で同期のオットー中尉に聞けば彼女は少しバツの悪い顔をしてから後ろの隊員をチラリと見て、こう言った。

 

 

「少尉はちふ…織斑中尉の元で特訓と聞いています。大尉は聞いておられないのですか?」

「聞いてないね。あとそんなにかしこまらなくていいよ。タメだし」

「親しき中にも礼儀あり、ですよ。今は仕事中ですし」

 

 私は頑張って後ろに控える年少組からの視線を変えたいんだよ。ここ(ドイツ軍)では私の居場所は格納庫と整備棟くらいしか今のところない。整備隊の人々からは尊敬やら正の感情を向けられるから悪い気はしない。彼女達はとても知識に貪欲で仕事に正直だ。それに対して黒うさぎ隊の子達からは恐怖、畏敬、その他負の感情を向けられるんだから私のメンタルはマイナスに振れてしまう。束のように他人を気にせず生きられるほどの鋼メンタルはあいにく持ち合わせていないのだ。

 

 

「わかった。今日の訓練を始めよう。昨日の復習からだね。瞬時加速(イグニッション・ブースト)で500m直進、そのあと三次元躍動旋回(クロスグリッドターン)で180度旋回。再び瞬時加速でここまで戻ってきて。旋回中の高度差は15mまで。停止位置の誤差は2mまで。それを3回。超えたらその誤差分グラウンドランニングで。じゃ、2組に分かれて始め!」

 

 私が声をかければすぐに動き始める。この辺の行動の早さは学生とは比べものにならない。流石訓練されているだけある。ちなみに、黒うさぎ隊の中には年長組から2人、年少組から1人代表候補になっている子がいる。今日の班にはその中から年少組の1人、ラインプファルツ中尉も参加している。彼女は年少組の中でも希少な私に負の感情を向けない子だ。冷めた性格とかそういう訳でもなく、純粋に「悪い人ではなさそう」だと思ったから私に大した感情を抱かないそうだ。前に食堂で聞いた。

 そんな与太話はともかく、一機あたり2〜3人なのだから往復1kmの訓練コースなんて数十秒で終わる。一人当たり2分もあれば乗り降りまで終わるのだから。

 彼らのウォーミングアップが終わるとお待ちかねの本番だ。

 訓練内容? 決まってる、私との対戦だ。あいにく私は学園の先生のようにものを教えるのが上手くない。教科書でもあれば別だけど、ないものを考えるのがとても苦手なのだ。だから私にゼロからISは作れないし、凝った訓練メニューも考えられない。

 イチからものを発展させるのは自分で言うのもアレだけどとても得意だと思ってる。だから生まれたのがファウストであり、魔改造撃鉄だ。

 

 

「それじゃ、始めよう。今日の目的は正確な予測射撃だね。全員使用火器は実弾銃に限定。ライフル、ハンドガンは問わない。制限時間は15分。その間に私に10発当てれば訓練終了、自由時間でいいよ。じゃ、始めよ」

 

 それから昼過ぎまで誰も課題をクリアできないままタイムアップ。だけども朝には1発も当てられなかった子が終わりには3発見舞うようになれば十二分。これを繰り返して少しずつスキルアップしていけばいい。天才肌は期待していないからね。もっとも、彼女らの目(ヴォーダン・オージェ)を使わせればもう少し話は変わったかもしれない。今日は誰も目を使わなかったのだから。

 昼食を済ませ、レーツェルのパッケージ制作のために整備棟に向かう途中、IS用のグラウンドを見れば誰かが模擬戦を行っているようだった。私の目(ARレンズ)を通して見れば飛んでいるのは千冬とラウラだと一目でわかる。千冬は私と違ってちゃんと人に教える才能を持ち合わせているため、もっと普通に教えられるものと思っていたが、そうでもないようだ。

 もっとも、千冬は人を見る目があるから、彼女にはこの方が向いてると思ったのかもしれない。私はしれっと2人の戦うグラウンドに入るとしばらく眺めることにした。

 千冬は相手に合わせているのか、持ち前の人外剣術で斬っては離れ、斬っては離れと綺麗なまでに相手を翻弄している。対するラウラはひたすらに斬られっぱなしだ。頑張って目で追おうとしているものの、それすらもままならないようだ。想像以上に重症だった。

 しばらく眺めていると案の定ラウラのISがエネルギー切れで地に足をつけた。千冬は一言二言言うとまっすぐこっちに向かってきた。

 

 

「どうだ、彼女は」

「ISに乗るのやめた方がいい」

 

 私は今の彼女を客観的に現実的に今の現状に見合った評価を下した。千冬は「お前ならそういうと思った」とカラカラと笑いながら言った。だけどそのあとに真面目な目で言うのだ。

 

 

「ラウラは化けるぞ。今はああだが、1年、いや、半年だな。半年で代表候補になれる」

「その根拠は?」

「目だ。お前に聞こうと思ってたが、黒うさぎの面々には変な目があるだろう?」

「ナノマシン移植によるIS適性及び視覚情報処理能力の向上を目指したものだね。私の知ってる限り、彼女は失敗したはずだけど? さらに言えば、身体も未完成と言っていい」

「かもな。だが、その目が決め手だ」

「なるほど。千冬が言うからにはそうなるんだろうね。っと、本人登場か…」

 

 私が目線だけ向けるとISを片付け、スーツだけを着たラウラがとてとてと走ってきた。ちっちゃかわいい。

 

 

「ISを整備に回してきました。次は何…を…?」

 

 千冬に報告をしてから私を見て表情が変わった。具体的に言えば「どうして?」と言った風に。今まで訓練で当たったことは数回あったはずだし、特に扱いた記憶もない。

 とりあえず笑顔で手を振ってみるとおずおずと手を振り返してくれた。心なしかアニメより小さい。まぁ、原作開始まであと3年もあるのだから当然か。

 

 

「ボーデヴィッヒ……」

 

 千冬が呆れたようにラウラに目を向けるとラウラはハッとした顔をしてから慌てて振っている手を額に持って行った。

 

 

「う、上坂大尉! 今日の訓練を欠席したのはーー」

「いいよ、聞いてるから。千冬に相手してもらってたんでしょ? 前もって私に直接連絡が欲しかったけど、隊の子が知ってたしね」

「はい、次から気をつけます!」

「そうしてね。それで、この際だから質問だけど、どうして君たちはその目を使わないの? 禁止でもされてる?」

 

 私がその目の事を聞いた瞬間にラウラの顔が少し曇った。千冬も興味が無いわけでは無さげだ。隊則や軍則、IS運用規則の中にも彼女らの目に関するルールは無い。だから気になった。

 

 

「そ、その大尉… 私達の目は使用者に大きな脳負担を掛けるので…」

「だから使わないというより使えないが正しいと?」

「その通りです。長いものでも持って数分。私には…」

 

 そこでラウラの言葉が詰まる。私と千冬は無理に言葉を勧めることはしなかったが、少し長い間のあとにつながった。

 

 

「…この目を、使うことはできません」

「そう。よし、次のメニューを決めた」

「杏音、お前また何か企んでないか?」

「なに、ちょっとした脳トレをね」

 

 彼女達の目をただの実験で終わらせないためにも、使えないものを使える環境を作るべく頭を使うのがブレイン担当の私の仕事だろう。なに、変な薬物や手術はしないよ。束じゃないしね。

 

 

 

 

 




iPhoneで全部書いてみました。人力文字下げしたのに反映されないと言うね…ネカフェで多機能フォーム使って下げました。
3000字書くだけで3日掛けるとは思わなかった

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