よくある転生モノを書きたかった!   作:卯月ゆう

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原作介入? タイミングを間違えたよ!

 まず自己紹介をしよう。死ぬ前の名前は坂下絵美、独身会社員(25)。中学高校と美術部と吹奏楽部を兼部し(根っからのインドア派)大学では機械工学を専攻(これってリケジョ?)、だけれど就活で大手企業にことごとく落ち、地元の中小企業に努めていた。と言うのは転生した今はあまり関係ないだろう。

 転生した今は上坂さん家の杏音(あんね)ちゃんだ。父は大手家電メーカー勤務、母はパートタイマー。家は住宅街の庭付き一戸建て。一般的な中流家庭ってやつだろう。

 両親は一人娘の私は十分に愛してくれているのは良いけれど、若干親バカの嫌いがある。まぁ、ここまではいい。

 その後の私は普通に家の中で落書きをしたり絵本の挿絵を少し印象派っぽくしたりして充実した幼少期を過ごす、はずだったのだが、近所の子がまずかった。まさかの織斑さん家である。もう一度言う、織斑さん家である。

 それに家から20分も歩いたところに篠ノ之神社の存在も確認した(ちなみに我が家の初詣はここだった)。というわけで私は「あー、一夏や箒と同い年かな~」と漠然と考えていたのだが、これもまた裏切られることになる。

 そう、私は千冬や束と同年代だったのだ。当時2歳の私はリビングで談笑する母と織斑さん(母)の影で頭を抱えたものだ。となりでは千冬が寝かしつけられていて、こんな可愛い子がどうして世界最強(ブリュンヒルデ)なんかに……と少しばかり遠い目をしていたのを覚えている。

 そしてもう一人の天災との出会いは幼稚園だった。私が一人、園庭をラインカーを引いて爆走し、(このあと千冬に怒られ)ナスカの地上絵を書いていた(先生には呆れられた)ところに声をかけてきたのが束だった。束は昔からあんなきちg……じゃなくてコミュsy……でもなくて人見知りではなかった。私とのファーストコンタクトはこんな感じだ。

 

 

「ねーねー、何やってるの?」

「"ちじょうえ"書いてるの!」

「あ! テレビで見たことあるよ! 宇宙人呼ぶんでしょ! 私も入れて!」

「良いよ!」

 

 このあとめちゃくちゃ地上絵書いた。

 とまぁ、ごく普通の幼稚園児らしいコミュニケーションを取っていたのだ。正直、ワザと束の目を引きたかったというのもあるのだが、その目論見はしっかりと成功したわけだ。グヒヒ

 束が原作のような性格になったのは大体中学校くらいだったように思う。その頃にはすでに人並み外れた知識量、想像力、創造力を持っていたのだからどうなったのか分からない。ただ、妹の箒ちゃんが物心ついていくうちに彼女の中でも何か変化があったのかもしれない。

 私はそんな束を"常識"や"世間"につなぎとめておく鎖のようなものだったらしく、束に取っては数少ない友人(理解者)だったのだと思う。正直、小学校高学年の頃には私が大学で得た知識を総動員しても時々理解が追いつかなくなるレベルの話をしていたので彼女はもともと"天才"になることを運命づけられていたのではないんじゃないかな?

 地域の図書館でひたすら工学書を読み漁る小学生というのもさぞ滑稽に映っただろう。ただ、私は至って真剣だった。女神様がくれた3つのギフトの内の一つをずっと使い続けてきたのだから。

 

 3つのギフトの1つ、《絶対記憶能力》

 転生モノだけじゃなく、その他能力モノでも定番の能力だろうが、知識があることが重要になる理工学の世界でこれは必須の能力だった。小学生に入ってすぐさま広辞苑を流し読みし、頭のなかに叩き込んだのは私の人生で数少ない大成功と言えると思ってる。

 今では毎週末に図書館で様々な本を読み漁り、束と話を合わせるのに必死になっているのだ。カオス理論とかなんなんだよ!

 

 なにはともあれ、そうしてなんとか束の友人というポジションを確立した私だったが、中学ということは3年次に束がISを発表することになっている。

 親の蒸発やらなにやらで別の学校に行っている千冬ともまだ神社の剣道場で交流があるし、束にとって千冬は原作通りの存在足りえるようだ。私は篠ノ之道場には時折足を運んで、お茶を柳韻さんと一緒に縁側で飲んでいた程度だったが……

 だから束の話がだんだん量子力学や高エネルギー物理学なんかの原子や粒子の振る舞いのレベルまで来たことに私は内心焦っていた。

 ――ISの基礎理論は既に完成しているのではないかと。

 小学校のうちに機械工学なんかを熱心に喋ってたのは私だった、だが、今は束が私にしゃべり続け、私が相槌を打ったり時折修正しながら話が進んでいくのだ。

 だから中学2年の夏、束にこんなことを言われた私はひどく狼狽してしまった。

 

 

「ねぇ、あーちゃん。あーちゃんって最近、いや。束さんの話が機械工学から外れた瞬間から一気に聞き手に回ったけど、どうしてかな?」

「束ッ。そ、それは――」

「ううん、責めてるんじゃないよ。だってあーちゃんは私がどんな話をしてもそれをちゃんと理解して、新しいことに気づかせてくれるもん。でもおかしいよね。機械工学にはあんなに熱意を向けられる人間がそれ以外に見向きもせずにひたすら聞き手に回るなんて」

「だから、それは私が機械以外は苦手だから――」

「そんなわけないよ。束さんだって私が普通の中学生より遥に上、もしかしたらそこら辺の研究者なんかよりスゴイ話をしてることくらいわかってる。それについてくるあーちゃんも十分おかしいよね? あーちゃん、何を考えてるの? 束さんは知りたいな」

 

 そうだ、既に私たちはおかしかった。"私はやり過ぎてしまったのだ"束の傍に居ることを、原作介入を考えるが余りに。

 だから私は口を滑らせたのかもしれない。これがトリガーになってしまうと心の何処かではわかっていたのに。

 

 

「宇宙進出」

「え?」

「私は、宇宙に行きたい。束と一緒に」

「う、ふふ。くくっ、あはははははははははは!」

 

 束は声を上げて笑った。西日指す教室でソレはとても不気味に、恐ろしく見えた。私より頭半分高い背の束が、天を仰ぎ、目を見開いて笑っている。

 そして言うのだ、「最高だ」と。

 

 

「最高だよあーちゃん。ちょうど束さんもそれを考えてたんだ! やっぱりあーちゃんは束さんの最高のお友達だね。こんど私の部屋に来てよ! 一緒に行こ、宇宙に!」

 

 私は黙って頷くしか無かった。

 

 

 それから半年、私は、と言うよりほぼ束がやったことだが、IS初号機、コアナンバー0「白騎士」が完成した。それまでの間に私がやったことはテストパイロット紛いの事で、ある時は腕を動かし、またある時は足を動かした。単純に私は束の理論についていくのが精一杯だったのだ。

 一番肝を冷やしたのはブースターとPICのテストだ。勿論、未完成どころかただ飛んで回ることが目的のブースターと制御装置に絶対防御なんてついているわけがなく、私は危うく死にかけた。

 どうにかブースターをパージして私は木に引っかかっただけで済んだが、アレに掴まったまま飛んで行ったらどうなっていただろうか、と思うと冷や汗が止まらない。

 3年生の春、束は千冬をラボ(という名の束の自室)に呼び出した。

 

 

「なるほど。それで、杏音。オマエはコイツの飼い主じゃなかったのか? どうしてこんなもの作らせたんだ」

 

 ISの紹介と、これに乗ってよ!言う束に千冬は半ギレ状態である。

 ここで下手に返すとあの壁に刺さっている束のようになりかねないし、逃げるなどもってのほか。さてどうする

 

 

「えっとですね。千冬さん? 束は『みんなで宇宙に行きたい』って純粋な思いからコレを作ったんだよ?」

「全て疑問形だが? まさかオマエも楽しかったなんて言わないよな」

「……ソ、ソンナコトナイデス」

 

 ドゴォと言う音と共に私は壁に突き刺さった。そこからしばらくの記憶はない。束と違って細胞単位でミドルエンドなのだ。

 しばらくしてから束に引きぬかれて連れて行かれた先では千冬が白騎士を纏い空を駆けていた。束、一体どんな魔術を使ったんだい?

 縁側に腰掛け、空に青い筋を描く白騎士を眺めながら束は言った。

 

「束さんはね、ちーちゃんの為に白騎士を考えたんだ。自分自身やいっくん、私達みんなを守ってくれる騎士サマ、ってことだね」

「千冬はなんて?」

「顔赤くして『オマエがそこまで考えて作ったんだ、ちゃんと使ってやる』ってさ。最後にちっちゃい声で顔赤くして『ありがと、束』ってさ。あーちゃんには秘密だって言われたけどこれを黙ってるなんて共同開発者に失礼だよねぇ?」

「共同開発者、かぁ」

「嫌だった?」

「ううん。でもね、アレを発表するときには束一人のものにして欲しいかな」

「なんで? あーちゃんが居なかったらもっと時間がかかってたよ。それに、あーちゃんがちっちゃい頃から色んな話をしてくれたからISは生まれたんだ。ISの半分、いや、8割はあーちゃんが考えたって言ってもいいんだよ!?」

「でもね、束。私、だんだん束に着いていけなくなってるの。ISを作ってる時にそれをすごく感じちゃった。理解するので精一杯。発展させられないなんて……」

 

 研究者としてはダメなんだ。そう思った私の頬を、束が指で撫でてから抱きしめられた。

 歳不相応な柔らかい暖かさが私を包む。束の胸で私はひっそりと泣いた。理解できないのが悔しくて、束に捨てられるのが怖くて、自分自身が悲しくて。

 束は私の頭を撫でながら、説くように、優しい声色で

 

 

「あーちゃんが今何を考えてるのかわかるよ。目の前にあるものが理解できなくて悔しくて、理解できないから束さんに捨てられるのが怖くて、そう考えちゃう自分がすごく悲しいんでしょ?」

 

 私は黙って聞き続けるしか無かった。

 束の声はまるで転生前に出会った女神様のようで、しっとりと心に染み渡るようで。

 

 

「でもね、あーちゃん。あーちゃんが理解できないなら束さんが教えてあげる。教えてあげたいから束さんはあーちゃんを離さない。それでもそんなふうに考えるなら、ちーちゃんにそんな考え叩き斬って貰えばいいよ。あーちゃんはひとりぼっちじゃないし、させないよ。束さんがいるから。ちーちゃんがいるから」

「束、束ぇ……!」

 

 こんなに泣いたのは何年ぶりだろうか。束は黙って私の頭を撫で続け、私がひとしきり泣くと束は一歩下がってから私の手を取り、リングを一つはめた。

 その時に見えた束も泣いていたようで、目も赤くなり、頬には涙の筋が見えた。

 

 

「あーちゃん、これからもずっとお友達だよ。だって、あーちゃんは私の発想の源だもん。幼稚園の時、あーちゃんに出会ってなかったら多分、もっと普通な女の子だったよ」

「普通な女の子、ねぇ?」

 

 そう言いながら束がつけたリングを見ると、左手の薬指に飾り気の無いシルバーのリングがはまっていた。

 左手薬指? ウソだろ……

 

 

「束、いい感じだった、ぞ? 悪い、もう少し調子を――」

 

 そんなタイミングで戻ってきた千冬はくるりと反転するとブースターを吹かして飛び立とうとしていた。

 私がそれを逃すわけにもいかず、右手を伸ばして縁側からジャンプ。反射的な行動で、届くわけもなかったが――

 

 

「うわっ!」

「ほぇっ!?」

 

 そのまま森の中に突撃し、木に突っ込んで止まっていた。

 あ・・・ありのまま 今 起こった事を話すぜ! 無理だと思いつつ手を伸ばしたら白騎士のブースターを掴んだまま木に突っ込んでた。な…何を言っているのかわからねーと思うがおれもなにをされたのかわからなかった……

 

 

「杏音? どいてくれるとありがたいんだが」

「ん? あぁ、ごめんね」

 

 千冬の上から退くと改めて自分の状態を確認してみる。何故か縁側に座ったままの束が赤らんだ目から涙を流しながら腹を抱えている。そして、それが"顔を向けなくても見える"

 視線を下ろすと真っ白なスク水のようなものに、ささやかな黒い装甲。ごついブーツとブースター。間違いない、ISだ。十中八九、いや、100%束から渡されたリングがISだったのだ。

 原作にこんなのねぇぞ。私の頭をよぎったのは転生者としてのお約束を又一つ踏み抜いたという感覚だった。

 




いやぁ、やっぱり慣れた作品は筆が進みますねぇ!

はい、エースコンバットはちゃんと月末に更新します。GGOの方も少しずつではありますが、書き進めてますので。ハイ、スミマセン。

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