よくある転生モノを書きたかった!   作:卯月ゆう

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あけましておめでとうございます。
と書いているのはまだ12月の8日です。

何はともあれ。今年も卯月ゆうと、その作品たちをよろしくお願いします。


第二回モンドグロッソの裏側だよ

 第2回モンドグロッソ。第1回と同じように千冬の独壇場で進む展開の中、それに食らいつく選手が居た。

 イタリア代表のアリーシャ・ジョセスターフ。千冬と同じ高速度の近接格闘を得意とする選手で、今までの各部門で千冬と同じように射撃系は切り捨て、刀で立ち回れる部門では必ず千冬に次ぐ位置に有り、現在2番手につけている。

 30分後に迫った決勝に向け、事実上チームの責任者でもある私は画面とにらめっこだ。

 佐々野さんや舟田さんはVIPラウンジ的な場所でテーブルの上の戦争を繰り広げているだろうから、あっちよりも私はこっちの方がいい。

 舟田さんにはついでに一夏くんのお守りもお願いしてあるし、ラウンジには世界中から集った選りすぐりの軍人さんが睨みを効かせているからいくら亡国機業とは言えあそこでアクションは起こせないだろう。

 まぁ、たぶん一夏くんがトイレに行った隙とかで拐われてしまうんだろうけど、そこは私の知ったところではない。

 

 

「豊田さん、雪片は」

「表面研磨終了、重量バランスの補正データ入力済みです。零落白夜、エネルギー変換効率も80%を超えています」

「おっけ。本田さん、ブースター関連は」

「背部ブースター左右で推力差なし。脚部も同じく。シミュレーションでは通常の99%以上の出力を確保」

「こっちもいいね。最後、松田さん。メインフレーム」

「メインフレーム歪み撓み、ともに規格値内。エネルギー系統異常なし。コア機能も問題ありません。量子変換効率99%以上出てます」

「オールオッケー! 千冬、いい?」

 

 機体の準備は万端。おそらく一夏くんが拐われたと連絡が入るまであと15分位だろう。ある意味、千冬より私のほうが緊張しているかもしれない。

 

 

「ああ、もちろんだ。今年はみんなに加え、一夏も見てるからな。無様な姿は見せないさ」

 

 紺色の中に白や桜色の差し色が入ったISスーツをまとう千冬がコートを脱ぎ、暮桜を撫でながら周囲をぐるりと回る。

 その目は厳しく、絶対的な冷たさ、圧倒的な闘志、いろいろなものを混ぜあわせて濃縮した視線であった。

 試合開始まで残り20分。千冬が暮桜に身を預けると操縦者自らの目でシステムチェックを行う。今、千冬の目元を覆う桜色のバイザーにはおびただしい量のシステムインフォメーションが滝のように流れている。

 同じものを私はオーグレンズで見ながら異常がない事を改めて確認する。機体は大丈夫。操縦者も。今のところは……

 試合開始まで15分。エネルギーを供給しながらブースターを動かして暖機運転を始める。ここでもISの各センサーが表示するデータを視界に入れながら私は黙って機体を眺め続ける。

 機体を視界に納めればあちこちから出る吹き出しに現在のスロットル開度、温度、発生推力、エネルギー変換効率、その他がスライドショーのように入れ替わる。

 ヤバい値が出れば赤く染まるはずだから今のところ問題ない。

 試合開始まで10分。ブースターも十分に暖まったところで武装の確認を行う。

 

 

「千冬、聞こえる?」

『ああ。プライベートチャンネル、問題なしだ』

「じゃ、手順に則って残りを終わらせちゃお。雪片展開」

 

 私がいうが早いか、次の瞬間には千冬の手元には一振りの刀が現れていた。先程まで丹念に磨かれていたソレは鏡のように周りの風景すら反射して映し出している。

 

 

「零落白夜発動。エネルギーは供給しっぱなしだから気にしないで」

『分かった』

 

 鏡面仕上げの刀が中央から割れたかと思えば次の瞬間には桜色の光を放つエネルギーブレードへと変化。これに触れればシールドエネルギーをガリガリ削るチート能力、零落白夜。

 原作の一夏くんとは色が違うが、機体が違うし操縦者の違うんだからそういうものだと考えることは諦めた。今までコレで他国の代表を切り捨てて来た。一番ひどかったのは中国代表と当たった時だ。零落白夜が装甲のない腹部に直撃。試合開始から30秒で蹴りがついて会場が静まり返った。

 話を戻そう。起動テストだったね。

 

 

「83%、いいね。コードが切れない程度に動いてみて問題なければ終わり」

 

 雪片を量子化して戻すとラジオ体操のような動きをしてから何も持たずに袈裟をやったり軽く動かして、千冬が頷いたのを見てから私は時計を見た。

 あと3分。ちょうどいい頃合いだろう。

 

 

「ピットオープン! まだ機体は出さないで」

 

 ちょうど向こうもピットを開けた様で、真っ白な化粧板にトリコローレのラインが1本真横に伸びるのが見える。

 出てくる機体もまた白く、関節の差し色に赤や緑が入っていてオシャレだ。

 試合開始2分前のアナウンスが聞こえたところで私は千冬を見ると黙って頷いて答えたのを確認してからただ一言、いってらっしゃい、と言った。

 ここからの試合展開なんて語るひつようもないだろう。と言うか、いつも通り、千冬が得意の手業でジョセスターフさんを押していた。

私は予備機の撃鉄改・真ver5.37(いじりすぎて名前をつけるのが面倒になったから3回めのアップデートからver○.○○表記になった、と言うのは余談だ)に目を移し、これまた特に異常個所が無いことを確認し、ディレクターチェアに座ろうとしたところで千冬が大きくジョセスターフさんの剣を切り上げて上空に飛び出すのが見えた。

 

 

「千冬!」

 

 わかっていたとは言え、とっさに叫んでしまったのは当然の反応かも知れない。

 次の瞬間には私は即座に頭を切り替えて指示を出し始めた。

 

 

「豊田! 千冬に停止命令を! 川崎! 暮桜レーダーで追い続けて! 松田! 現場の指揮を委譲! 私は予備機で追います!」

 

 作業着のまま予備機としてピットの奥に佇む撃鉄(ryに飛び乗ると緊急起動させてバススロットから私のISスーツを呼び出した。

 

 

「全員対ブラスト姿勢!」

 

 私はそう叫ぶと広いとは言えないピットの中でリボルバーイグニッションブーストをして一気に速度を上げ、高度を取るとハイパーセンサーで千冬を補足してから再び瞬時加速でスピードをあげる。

 旧式になりつつあるフレームがあまりの推力に悲鳴を上げて大量の警告メッセージを出すがお構い無しで千冬の後を追った。距離はさほどない。千冬も私が追ってきていることはわかっているだろう。

 

 

『千冬! 止まりなさい!』

『一夏が、一夏が!』

『コレは命令よ、千冬、止まりなさい! 撃墜も辞さないわよ!』

『杏音! 一夏が拐われた、拐われたんだよ! 頼む、お願いだ! 私にはこれしか方法が無いんだ!』

 

 無情ではあるが私はアサルトライフルを呼び出すと数百メートル先を飛ぶ千冬に向けて数発撃った。

 

 

『杏音、わかってくれ……私には、私には……!』

『ごめんね、ちーちゃん』

 

 私は更に銃撃を続ける。一発でも推進系に当てればこっちのものだ。だから撃つ。容赦なく撃つ。

 そして煙を上げた暮桜とともに、撃鉄も限界に達した様で、機体維持限界で強制的に解除。私は上空3000フィートでフリーフォールだ。

 

 

『杏音?!』

 

 そんな千冬の声が聞こえた気がしたが私はここまで温存してきた奥の手、ファウスト(知識と幸福の追求)を展開。地面ギリギリから再び舞い上がると低空で千冬を追い越し、倉庫などが並ぶ港湾地帯に到着した。

 熱源探知で人の姿を探せば見事に柱に繋がれた子供くらいの大きさの熱源とそれを囲む数人の大人。手には銃。後方から千冬。約30秒で到着。

 私はバレないように気配を消し、とりあえずハイパーセンサーで全周警戒しながらハンドガンを手に持ち、一夏くんが監禁されている倉庫の裏手側、150メートルくらいのコンテナの影から様子を覗いている。

 

 爆音とともに倉庫に突っ込んでいく千冬を見てから私は表に回ると機体維持限界に達した撃鉄を再度展開、ファウストでメイン系を制御しながら見た目はボロボロの撃鉄というトリックを使いながら千冬の後ろに立った。

 

 

「一夏、無事だったか……」

「千冬、姉……」

「感動の再開のさなかに申し訳ないけれど、織斑二尉、直ちに両手を上げてISを解除しなさい」

「杏音、ふっ……」

 

 千冬は気を失った一夏くんを地面に寝かせると両手を上げて暮桜を解除した。

 それから振り返り、涙でぐしょぐしょになった顔で私を見た。

 

 

「杏音、私は間違っていたか?」

「間違ってないと思うよ、姉としては。でも、自衛官としては、間違ってる」

「そうか…… 私はどのみち除隊だな。もうISに触れることもないだろう。学園に入ってから、姉らしいことができなかったんだ。姉として正しい選択ができたことが今は、嬉しいよ」

 

 私はISを解除するとISスーツのまま千冬の上官として、言った。

 

 

「ごめん。織斑二尉、あなたを特殊強化外装運用規定違反で拘束します」

 

 私は手を上げたままうつむく千冬の手を後ろで結束バンドで止めると一夏くんを抱き上げてから遅れてやってきた自衛隊の人間に引き渡した。その後ろにはドイツ軍の人も見える。

 現場には真っ二つになった死体がいくつも転がり、コンクリートの地面を赤く染めていた。

 私は知っている。あの中で千冬が行ったことを。すべて記録して、ファウストのメモリーの中に保存し、束にも送った。物心ついた頃から20年以上過ごしてきた千冬が鬼気迫る表情で銃を向ける男達をひたすらに一刀両断する姿は、とてもとても恐ろしかった。


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