IS学園を卒業してから半年が経った。
学園を卒業してから私は晴れて公務員になり、特殊任務手当とかで我が家の父よりも稼いでしまっていたりで上坂家は一時戦闘状態に陥ったが、私が親孝行だ、と家族で温泉旅行に行ったら丸く収まった。
閑話休題。卒業してからの私は佐々野さんに無理を言って隊内で車や特殊自動車、もっと詳しく言うと大型自動車(大型自動車は自衛隊車両に限る)と大型特殊自動車(大特車はカタピラに限る)を取ったのだ。それから輸送科のフォークリフト運転技能講習とクレーン運転技能講習を受けて今では機材搬入整備なんでもござれの便利屋さんだ。それからバイクの免許もとって通勤にスクーターを使っている。
日本国ISチームはというと、まだ学生である山田真耶を含めて候補生を新たに5人加え、その他人員補充もあって私が配属された時には20人ほどだったが、今となっては100人を超える規模にまでなってしまった。もちろん、百里基地のIS専用の建物はまだ建っておらず、厚木のハンガーを改装したものでワイワイと楽しくやっている。
だが、10月にはモンドグロッソ。そして、チームの選抜部隊(初期から居たメカニック10人と私、佐々野1佐、舟田さん、そして千冬と坂本さん)と暮桜、予備機の撃鉄改(真)をチャーター機に積み込んで第1回モンドグロッソが行われるドイツにやってきた。
さすがの私も転生前含め海外に行った回数は多くない。特に以前からの憧れであったドイツはとても興奮している。
フランクフルト国際空港に到着した機はISなど、機材の積み下ろしの関係でボーディングブリッジのあるスポットではなく、一般駐機場に機体を止め、タラップがつけられるとまずは今回の護衛を勤めてくれる陸上自衛隊の選抜メンバーが機体から降りた。タラップの前には数台のバスと高級車が並び、待遇の良さに少しどころかとても驚いた。
彼らが迎えの人(おそらく現地警備のドイツ軍だろう)と会話をすると私達の降機が許可された。まずタラップを降りるのは今回、チームのトップである佐々野1佐。そして舟田3佐も並んで降りる。続いて花型のパイロット、千冬と坂本さんだ。彼らは大きな拍手に迎えられ、千冬と坂本は少し恥ずかしそうに手を振りながらタラップを降りて黒塗りのベンツに収まった。
そして最後に私達、技術班。まぁ、歓迎されてる感はあるが、どことなく"ついで"な感じが否めない。まぁそりゃ、以前から表舞台に出ることの多いパイロットさんは人気でしょうが、彼女の活躍の裏には私達の仕事もあるってわかってほしいな、と少し思った。
私たちはさっきの4人のように高級車に乗り込み……なんてことはなく、これからドイツで最初のお仕事、機材降ろしがあるのだ。
ISは結構ラフに扱っても問題ないが、それを整備するための道具が精密機器ばかりで非常に気を使う。だから自分たちが監督して作業を行うのだ。
旅客機後部の貨物ハッチが開くとまずはそれぞれの荷物がおさまったコンテナが出てきた。コレは別にどうでもいいので早く流して下ろす。機体の中央付近に固められたコンテナが私達の仕事道具。機内の貨物スペースの中を動かすだけでも気を使う。"ガタガタ"は許されても"ガッチャン"はアウトだ。
そんな神経を使う作業にたっぷり30分も使えば空港の展望エリアで日本の国旗を降っていた人たちの影もなくなり、運搬用トラックの運転席にわたしが収まって隣にドイツ軍の人、そのとなりに松田一曹といった感じで5台のトラックと2台のバンは空港を出て一路、試合が行われるスタジアムに向かった。
初めての左ハンドル、初めての右側通行、初めてのアウトバーンと正直「運転してみていいですか」と言った自分をぶん殴りたくなる経験をしたが、隣でナビをしてくれたドイツ陸軍のアンドレ少尉のおかげで無事故無違反で無事に目的地に到着することができた。
道中の車内では私が英語やら拙いドイツ語やらで頑張ってアンドレ少尉とコミュニケーションを取っていたなか、松田一曹は爆睡していた。その神経の太さが羨ましい。
その後、日本国ピット設営も予定通りに進み、その日の夜には白に赤いライン、桜色のアクセントが効いた日本らしいピットが完成、暮桜と撃鉄改(真)がコンテナに入れられたまま搬入され、その日の仕事は終わった。
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「あーちゃん、あーちゃん! IS作ってよ!」
時は遡り1年前。生徒会選挙が終わった後のことだ。突然現れた束は何を言い出したか、私にISを作れと言い出した。
確かに、私が論文を出した時、仕事をお願いすると言っていたがまさかこの事では…… と考えた私の予感は的中。束はまさに、私が考えた"ことになっている"第4世代ISを作らせようとしたのだ。
当然私は渋った。だが、束の出したあまりに魅力的な条件に、思わず私は頷いてしまった。
「もし、束さんが納得できる出来だったらISのコアをあげる。未登録のあーちゃんにしか反応しないあーちゃんだけのコアを」
そして私は卒業制作を兼ねて4ヶ月ほどの時を使い、簡易的ながら展開装甲を用いたプロトタイプを作ったのだ。腕、足、腰の3箇所に回転式のエネルギー放出孔を設け、ある時はブースター、ある時はスラスター、ある時はエネルギーブラスター、ある時はエネルギーシールドを展開させるギミックを盛り込んだ撃鉄を学校で作った。もちろん束はその出来に満足し、私は無事にコアを手に入れた。私だけのコアを。第2回モンドグロッソまでに私の専用機を作り上げ、なんとかして一夏くん誘拐の影を追わねばならない。申し訳ないが、原作の大きな流れを変える気は無いので一夏くんには拐われてもらうし、千冬には決勝を棄権してもらう。だが、それはまだ3年も先の話だ。私と束の知識を合わせれば3.5世代くらいの特殊機ができるだろう。そのために私はIS学園にPh.D上坂杏音として勧告を出したのだから。
『有事に備え、専用機を持ち、即時展開可能な教員を配置するべきだ』と
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時は再び現在。モンドグロッソは各部門で日本はコンスタントに成績を出して千冬がぶっちぎりのトップに立っている。
ヴァルキリーになれたのは近接格闘のみとはいえ、この後の総仕上げ、各国代表とのトーナメントでトップに立てばブリュンヒルデは確実だろう。
その証拠に千冬は今の今までシールドエネルギーを半分以下まで減らさずに勝ち進んできた。そして迎えた決勝。相手はアメリカ代表だ。千冬に対して悪手中の悪手である遠距離射撃中心の重武装重量型。アレでは千冬にとってただの居合に使う竹(名前知らない)にしかならないだろう。
だからアメリカ代表は機関銃をバリバリと撃ちまくっているのにそれより更に近い間合いで千冬が斬りつけているからアメリカの機体はシールドエネルギーがもうレッドゾーンに突入した。対する暮桜は余裕のグリーン。私は内心勝った、と思いつつ、最後までどうなるかわからないなー的な顔で勝負を見続けていた。が、あっさりとその後30秒ほどで決着がついてしまい、初のブリュンヒルデは千冬に決まった。
その後の片付けやらなにやらでとっても忙しかったのは言うまでもないが、千冬の顔はどこか冴えなかった。
「どしたん、ちーちゃん」
「ん、杏音か。いや、勝ったのはいいが、どうもイカサマっぽくて腑に落ちなくてな」
「ま、それは仕方ないよね。搭乗時間が圧倒的に違う。それに、相手はみんな学園で一緒だった子ばかりで相手がどんな手を使ってくるかも粗方わかる。わからない機体データは私が解析してイチコロ。これ以上ないチートっぷりだよね」
「はっきり言うな、お前は。だからこそだ。正々堂々と試合をした、そういうつもりだが、前提が大きく違うんだ、私と彼女たちじゃ……」
そんな世の中が千冬レベルのバケモノばかりだったら世界の軍事バランス崩壊なんてレベルじゃなくなる。なんて言えないが確かに、チートとも言える環境で戦う千冬がそう思ってしまうのもわかる。
大会前のレセプションなんてほぼIS学園1期生同窓会、みたいな感じだったし、その時のみんなの顔は表面では「久しぶりに会えて嬉しいよ」があっても、その裏、国を背負う人間としての顔は「千冬と杏音が相手なら負け確だわ」というのが目に見えたから仕方ない。
だから次回以降のモンドグロッソが肝だ。そうやって帰りの飛行機では千冬をなだめ、暮桜の改装案を考えつつ10時間あまりのフライトを楽しむことにした。