よくある転生モノを書きたかった!   作:卯月ゆう

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就職活動と初仕事だよ!

 メールから1週間ちょっと経った週末。モノレールに乗り再開発の進む駅前に出るとロータリーに1台のスポーツカーとそれにより掛かるスーツの女性が居た。事前に見た写真のとおりだったのですぐに解った。

 一方の私は若干着られ気味のダークスーツで「スタイル大事」と改めて自分自身のちんちくりんっぷりにため息を付いた。

 そそくさと彼女の方に近づくと千冬から学んだ気配を隠す術を使って気配を薄めるとしれっと彼女の隣りに立った。

 

 

「おはようございます」

「えっ、あぁ。上坂さん。いえ、上坂博士、とお呼びしましょうか?」

「どちらでも結構です、舟田さん。私はただの学生ですしね」

「そう言わずに。あなたの書いた論文、読みましたよ。ISの未来を変えかねない提案だと思いました」

「あくまでも可能性を示しただけです。それが可能なだけの技術はありません」

「そう言ってしまうとほとんどの研究なりなんなりを全否定してしまいますけど…… とりあえず乗ってください。チームが待っていますから」

 

 そう言って開けられたドアから少し乗りにくいバケットシートの縁をまたいで身体を滑りこませると隣りに彼女が乗り込むとエンジンを掛けた。

 駅前を出た車は高速道路に乗ると内陸に向かった。道中は無言で、1時間ほど走って郊外のインターで降りると大通りを進み、途中の自衛隊基地に車を入れた。ゲートで守衛にIDを見せ、私は学生証を見せると敬礼をしてから通してくれた。

 広い基地の中を更に進んで滑走路がちらりと見えたところを曲がるとそれほど大きくない建物の前の駐車場に車を止めた。私が降りるのに難儀していると小さく笑ってから「乗りにくくてすみません」と言って手を貸してくれた。

 そして目の前の建物に入るとそのまま廊下を抜けて会議室1と書かれた部屋に入った。

 

 

「上坂博士をお連れしました」

「ご苦労」

 

 てっきり私は舟田さんがトップだと思っていたがさすがお役所、そんな一筋縄で行くようなところではなかったようだ。

 広い部屋に不釣り合いなほどに少ないもの。長机が1つと椅子が2つ。この部屋にはそれしかない。入社試験の面接でももっとマシだろうにと思う雰囲気のなか、わたしはただドアの前に突っ立っていた。

 

 

「そんなに緊張しなくていい。私はこの国でISの管理をやっている航空自衛隊の佐々野だ。掛けてくれ」

 

 長机とセットになった椅子には壮年の男性が居て、机の上で組んでいた手をほどいて私に座るよう促した。

 おとなしく佐々野さんの向かいにポツンと置かれた椅子に座ると膝の上に置いた手を握った。

 

 

「流石にこの雰囲気はまずかったか。まずは来てくれてありがとう、博士。君がどう考えているかはさておき、こうして話ができて嬉しいよ」

「いえ、こちらこそ誘いを断っておいてこうしてまたお話を聞いてもらえて光栄です。それと、私のことは博士なんて呼ばないでください。まだ学生ですから」

「そうか、それは失礼した。最初に私のもとに話が来た時は驚いたよ。舟田が上坂さんから連絡が、と言ってメールのコピーを持ってきてね」

「文面と内容のギャップに驚かれましたか?」

「ふふっ、とてもね。私たちは君の想像通り、篠ノ之束とのパイプとして見ていたが、それがご不満と見受けられたよ。だが、それが嫌だと喚くわけでもなく、自身の手で力をつけてきたのは素晴らしい」

「ええ、ですから。私を"ただの科学者の端くれ"として参加させていただけないかと」

 

 目の前の彼は穏やかな口調とは裏腹に話の奥底からプレッシャーを感じる。

 頑張って飲み込まれないように、とっても怖いけど! 泣きそうなのを頑張ってこらえて食らいつく。

 

 

「確かに、君は自身に篠ノ之束や織斑千冬に頼らない価値を付けた。IS学園でもトップの成績だ。操縦者としても、技術者としても。そして、今度は科学者としての才能すらも見せてくれた。これ以上の逸材は居ないと思うよ」

 

 ひたすらに私を褒める文句を並べる。どれも事実だが、少し恥ずかしいな、なんて思う間も無く言葉並びからコレはすぐに上げて落とすやつだ、と思った。

 

 

「だけどね、そうなると今度は君は高すぎるんだ。それこそ"ただの科学者の端くれ"にしておくにはね」

 

 ほら来た。コレはあなたはバケモノなのでお帰りください。ってやつだろ。わかってるよ。小学校の頃から先生に言われたわアホ。もう、くそったれぇ

 プレッシャーとココに来てのお断りフラグに半ば自棄っぱちになりつつある脳内を美味いこと切り離して佐々野さんに向かう。

 

 

「それで、だ。何れチームの主任研究技術員を任せようと思う。言うなればメカニカル面のトップだ」

「そうですか、残念…… え?」

「君にチームのナンバー3の座についていただきたい」

「…………?」

「そんな顔をするんじゃない。君は今までどんな扱いを受けてきたんだ? さぁ、案内しよう。君のこれからの職場をね」

 

 

 今までのプレッシャーはどこへやら、そっと私の斜め前に経つと手を差し伸べてきた。その手をとって立ち上がるとこっちだ、と言って机と椅子がポツンと置かれた部屋を後にした。

 建物を出て正面の駐車場に止められた黒いセダンに乗ると佐々野さんは笑いながら舟田くんのような車で無くてすまないね。と言ったので私もこっちのほうがいいです。とだけ答えた。

 車内では佐々野さんが改めて自己紹介をしてくれて、防衛省に配備されたISを陸海空の自衛隊に割り振って、それらを一元的に管理するような立場にいると説明してくれた。彼の所属は今いる航空自衛隊の基地で、階級は1佐だそうだ。大分口調も砕けて、実際はそんなに怖いおじさんではないと分かったのが伝わったようで、あれは作っていたんだよ、と言われてしまった。

 

 

「見えてきたね。あのハンガーだ」

 

 傍から見るとただの航空機用ハンガーだが、扉の脇に『特殊強化外装試験隊』と書かれた大きなプレートが下げられ、翼を広げた女性のシルエットがモチーフのエンブレムがその下に書かれていた。

 滑走路脇をぐるりと回ってハンガーの横に車を停めると荷物を持って中に向かった。正面の大きな扉ではなく、車を止めた場所の近くにある人間サイズのドアから普通に入るとビルの5階ほどの高さがある天井と全力で走っても端から端まで30秒はかかるんじゃないかと言うほどの奥行き。とにかくISにはもったいない広さの建物だった。

 

 

「広すぎると思っているだろう? もともと戦闘機を入れていた所だからね。奥半分は候補生達の生活スペースになっているんだ。と言ってもここに泊まってもらったことは無いがね」

「すごいですね…… ブースターテストなども室内でできますか?」

「いや、まだベンチが届いていないそうだ。だが、近々設備を入れる予定だよ。こんな鉄板で囲われたハンガーが日本のISの最先端だ」

 

 自虐混じりに佐々野さんが言うのを軽く笑ってやり過ごすと私たちはそのまま生活スペースと言われた区画に入った。生活スペースなんて言ったはいいが、要はちょっと豪華なプレハブで、3階建てのプレハブの1階に道場などの多目的スペース、2階に作戦司令室を兼ねる会議室などの事務スペース、3階に候補生に割り当てられた部屋があるという。佐々野さん曰く急ごしらえだからこんななりだが、数年後にIS関連の施設をひとまとめにしたものが百里基地に建つそうだ。

 そのまま少し急な階段を登って会議室に入ると航空自衛隊の常装(スカイブルーのシャツに紺色のスカート)と略帽を被った候補生5人と同じ服の舟田さんが居た。佐々野さんが部屋に入るなり揃って敬礼。佐々野さんが返すと手をおろして後ろに組んだ。

 

 

「事前に連絡したとおり、上坂博士を部隊にお迎えすることになった。諸君らの学友でもあると思うが、しっかりと態度を切り替えて望むように」

 

 コレはなにか言わないといけない流れ…… そう感じ取った私はまだ自衛官でもなんでもない(はず)なので普通にクラスメートに一礼すると生徒会長のスピーチをするように話し始めた。

 

 

「皆さん、こんにちは。改めて言うのも恥ずかしいですが上坂杏音です。この度、研究員兼技術員として"チーム"に入ることになりました。できるだけ早くみなさんの力に成れるよう精一杯努めさせていただきます」

 

 そしてもう一度礼。こんなの生徒会の仕事でなれたものだ。だが、すでに顔見知りどころか普通に話す仲の人達に改めて挨拶をと言うのは非常に恥ずかしい。

 それと私はISを"兵器"だなんて扱いたくないから部隊をあえてチームと言わせてもらった。そもそもこの部隊はモンドグロッソに出るためのものなはずだ。

 

 

「上坂博士には手続きの後、2尉として正式に配属される予定だ。学校では対等であってもこの場では博士が上官になる。何度も言うが、意識の切り替えをしっかりとするように」

 

 私聞いてないです。と少し攻めるような目で佐々野さんを見ればそれに合わせて舟田さんが「あ、この人また何の説明もせずに」と同じような目で佐々野さんを見た。

 その視線に気づいたのか、少しバツの悪い顔をしてから解散、と言って部屋には私と舟田さんが残された。

 

 

「上坂さんをお迎え出来て嬉しいです。改めて、舟田美依です。一応3等海佐って階級をもらっているけど、あんまり好きじゃないのよね」

「舟田くん……。 ごほん。上坂博士――上坂さんには今後の予定を説明しておこう。君からのメールの時点でほとんど採用は決まっていてね、後はいくつかの書類を書いてもらえば1週間ほどで君は公務員だ。自分達の都合のためならばどんな手でも使ってくるのがいやらしいところだね。制服などはその後に用意するが、それほど時間はかからないと思う。それから、一応自衛官としてのマナーやルールなどを覚えてもらいつつ機体整備や装備開発などにあたってもらいたい」

「なるほど、わかりました。ここに来るのはどれくらいの頻度ですか?」

「そうだな……、候補生と一緒に動いて貰いたいから月に数回だ。休日を潰してしまうことになるが、そこは了承してほしい。それか放課後だね」

「放課後……」

 

 その後も何度となく質問を繰り返し、納得したところで書類を書いて今日の予定は全て完了した。太陽も落ちかけていたが、佐々野さんから候補生の夜間飛行訓練を見ていかないか、と誘われたのでハンガーの正面に出た。

 正面の大きな扉を少し開いてカートに載せた撃鉄を5機運びだしていく。気づいたのが、ここにいる人間が殆ど女性であること。ISの発表から少しずつ社会は女尊男卑に傾き始めていたと思っていたが、ここまでとは……

 ISは女性しか扱えないから、という理由を加味しても男性が7割を占める自衛隊(参考:2010時点で女性は5%ほど)では異様に見えた。

 スカイブルーのスーツに着替えた候補生5人がそれぞれ撃鉄を纏うと空に舞い上がった。ハイパーセンサーを使えばたとえ光のない場所であっても様々な方法で周囲を視覚化することができる。今回はその練習ということだろう。確かに学園では教わらないポイントだ。

 

 

「やはり織斑くんはずば抜けているね。本当なら上坂さんもあの中に入っていただきたい位だが、君は操縦者志望には見えないね。だけれど、聞いているよ、織斑くん以上の実力者だと」

「自分が直すものは自分で動かせないといけないので必然的にうまくなっちゃったんですよ。それに、学園の成績がモンドグロッソに繋がるとも限りませんからね」

「それもそうだ。だが何れ、君の飛ぶ姿も見せてもらいたいと思っているよ」

 

 必要なときには自分が飛びますよ、とだけ答えた彼女らよりも一足早く学園への帰路についた。

 

 

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 それから1週間。本当に1週間ピッタリで改めて正式採用の通知が届き、一緒に入っていたIDを学生証と同じパスケースに入れると親友であり、同居人であり、更に同僚にもなった千冬とともに電車とバスで基地に向かう。後から聞いたが、あの基地は空港ではあるが海上自衛隊の管轄らしい。そして機材の輸送などには陸上自衛隊のツテを使うというのだから改めて共同部隊、というのがわかった。まだ制服ができていないので基地について着替えた千冬と違い学園の制服のままハンガー内のプレハブに入る。

 

 

「おはようございます」

「おはようございます。上坂さんは初出勤ですね。後で制服の採寸したいのでその時にはまた呼びますね」

「分かりました。それで、今日もまた質問なんですけど、佐々野さんと舟田さん以外に幹部自衛官って居ないんですか?」

「候補生はみんな3尉扱いですけど、実際に隊運営をしているのは佐々野1佐と私。防衛省内では空井さんが動いてくれています。上坂さんにもその一端をお任せしますよ」

「はぇっ!?」

「あら、この前言いませんでしたか? 部隊長は佐々野1佐、私はその副官と現場指揮。上坂2尉には私が受け持つ仕事のうち、IS関連を担当していただくことになります。そういうこともおいおい佐々野1佐から説明があると思います」

「わ、わかりました」

「あまり堅苦しく考えずに、簡単に言ったらチーフエンジニアってとこですから。そっちに居るメカニックはみんなあなたの部下、ってことですね」

 

 ただの高校生にこんなことさせていいのかと改めて不安になったところで千冬が私も最初は不安だったさ、と言ってフォローしてくれた。さすがちーちゃん。

 そして私にも候補生同様部屋が与えられることになった。ハンガー内プレハブの3階、一番奥が与えられ、基地についたらまずはここで着替えるそうだ。流石に学園の寮と比べるまでもないが、パイプベッドと机と椅子とローテーブル。小さめのクローゼットと簡易キッチン。部屋にはそれしかないが夏休み位ならなんとかなりそうだ。エアコンもあるし。ただ、お風呂とトイレは無いのでトイレはハンガー内、お風呂は隊舎まで行かないとならないのが難点だが……

 ひとまず千冬の着替えを待ってから私の記念すべき初仕事、実際に私の手先となって動いてくれるエンジニアへの挨拶だ。千冬と一緒にプレハブから出て、少し遅れてきた坂本さん始め他の候補生と挨拶をしてからハンガーの整備スペースに出た。

 そこでパンパン、と手を打って注目を集めてから大きな声で言った。

 

 

「本日付で配属になりました、上坂杏音です。皆さんには日本のIS技術を担う一端として大いに期待しています。若輩者はありますが、よろしくお願いします」

 

 流石に年上しか居ない場は緊張する。だが、その中で"お前らより上だぞ"という威圧と"それでも年下として優しくして"という甘えを織り交ぜたずるい言葉で簡単に挨拶ができたと思う。

 私が下げた頭をあげるとすぐさま作業着の女性たちが集まってきて私の目の前で整列、そして一斉に「よろしくお願いします」と揃って一礼してくれた。

 やはりISに携わっている人たちだけあって全員が私の名前を知っていて、さらに数人が出したばかりの論文を読んだという。あんな論文審査に通りたいだけの夢物語をまじめに読んでくれたなんて感動だ。すこし罪悪感もあるが……

 それからすこしばかりのおしゃべりをしてから候補生5人に割り当てられた機体をざっくりと見た。日本にある十数機の内5機がここにあると思うととんでもないことだ。すべて撃鉄だが、個人のクセに合わせてある程度セッティングを変えているようで、特に千冬のは撃鉄の特徴でもある装甲を削ってまで機動性に振っているほどだった。だが、どれも共通して"いい線いってる"止まりなのは否めない。それでも彼女らは学園を出たわけでもなく、独学と自衛隊内での教育でここまでの知識と技術を身に着けたのだからすごい。整備課の3年と同レベルかそれ以上の出来だ。

 

 

「よっし、機体と設備は分かった。千冬はこの後のスケジュールは?」

「基礎トレーニングという名の筋トレだ。機体に乗る予定は無い。他の4人もそのはずだ」

「分かった。なら思う存分いじれるね」

「あまり突飛なことはやるんじゃないぞ。私は時間だから行ってくる」

 

 千冬に釘を差されたものの、私はもう一度メカニック達を呼ぶとこれからの計画を話した。

 大きな柱はメカニックの技術レベル向上。すでに"チューナー"としては十分なレベルにあるのでそれを"マニュファクチャ"として十分なレベルに変化させる。それによって今あるものでどうにかするのではなく、足りないなら作ってしまえを外部に頼ること無く可能にする。

 すでに撃鉄のアップデートプログラムが開発元の倉持技研から発表されているがそんなの数年後には登場する第2世代と比べたらしらすとマグロくらい違う。わかりにくい? 流石に月とすっぽんほどは変わらないからさ。自分たちが"足りない"と思うところを調整以外で何とかする術を身につけさせるのだ。

 それができれば他の国を出しぬいてモンドグロッソでぶっちぎれる。少なくとも今年中に代表を決めるセレクションがあるだろう。その結果次第で代表専用機を開発する。今のところ日本のIS開発は倉持の独壇場だからどうにかして彼らとのコネも作りたいところだが、最悪コアだけ残して皮を自分たちで作れるようになればいい。

 それをメカニックたちに話すと彼女らはその目を一層輝かせた。

 コンコン、とノックされたドアから入ってきたのは舟田さん、いや、舟田3佐。薄暗い部屋で私とエンジニアがニヤニヤしながら話していたのだから彼女も少しは引いた、かと思えば食いついてきた。

 

 

 

「上坂2尉、制服の採寸をしたいので下までお願いします。といいたいところですが何やら楽しそうなお話してますね」

「これから舟田さn……3佐に相談に行こうかと思っていたところです」

「無理して階級つけなくていいんですよ? それで、相談とは?」

「定期的に彼女たちにIS講座を開きたいので機体をもう1機ください」

「それは流石に無理です」

「ですよねぇ……。今あるのをいじる分には……?」

「構いません。楽しそうですね、私も一科学者として気になります。上坂博士のIS講座」

 

 許可はおりた、後は実行に移すのみ……

 私は少しだけ黒い笑みを浮かべて彼女達にサムズアップをした。

 


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