よくある転生モノを書きたかった!   作:卯月ゆう

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代表候補生をフルボッコにするよ!

 私達のもとに日本の候補生と管理官が来ていたのは他の国にもあっという間に伝わり、テントの前に行列を作ることになったが、一貫して私と束は無視し続けた。

 だが、そこで思わぬ来客がある。我らが担任、織田先生である。

 

 

「上坂、篠ノ之、この騒ぎは?」

「世界中からのラブコールですよ。全く、うざったいったらありゃしない」

「束さんモテモテ~」

 

 出血大サービスと言わんばかりに黒騎士をメンテナンススタンドに掛けているんだからそれだけで満足して帰ってもらいたいものだが、そうは問屋が卸さない様で、日本の候補生との勝負を受けたんだからウチも受けろとやかましいのだ。

 

 

「そういうことか…… どうして日本だけ受けたんだ? こうなるのは予想できるだろ?」

「だって自分が生まれた国ですし、少しくらい、ねぇ?」

「それにちーちゃんいるしね~」

 

 あえて視線を各国の使者達に向けながらそう言ってやるとすごく悔しそうな顔をしている。ざまぁ!

 織田先生もすこし呆れた目で見ているが、まぁ、わからんでもないようだ。

 

 

「人間時には八方美人になることも大切だぞ? まぁ、そういう国際社会での生き方を学ぶのもいいことだ。特に篠ノ之、お前はな」

「束さんはちーちゃんとあーちゃん、いっくんと箒ちゃんがいればいいもん」

「篠ノ之、お前はそう言ってられない立場にあることくらいわかるだろう? 織斑と上坂がお前のためにやっていることを理解することだ」

「……はい」

 

 ちらりと時計を見ると約束の時間が近づいていたので日本のテントに行くことを告げると束も行くと言い出し、織田先生は他生徒の監督に戻ると言って反対に向かった。

 人だかりがモーセの伝説ではないが、見事に割れて道ができる。そこを進むと空井さんが入り口で待っていた。彼女は文官らしく、階級はないそうだ。候補生は武官なので階級ができるそうで、全員特務3尉という扱いだそうだ。後で聞いた。

 

 

「それでは5分後に坂本から順番に行う。篠ノ之博士、上坂さん、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします。クラスメートにこうして改って挨拶するのも気恥ずかしいですね」

 

 軽く冗談も飛ばせば緊張もほぐれるだろう。彼女たちには黒騎士のデータ収集を言い渡されてそれなりに緊張しているのだろうから。

 1組からは千冬と坂本さんの2人、それ以外の3人は2組の子だ。名前はしらない。坂本さんは実技でもかなり上位の成績なのでここにいるのも納得できる。

 2分前になって束を千冬に預けて砂浜に出ると撃鉄を纏った坂本さんも出てきた。

 

 

「こうして模擬戦するのは初めてだね」

「そういえばそうだね。織田先生が千冬以外と当ててくれないからなぁ」

「だって杏音ちゃんと千冬ちゃんは次元が違うんだもん」

 

 おしゃべりをしながらも機体は地面を離れて海の上を進む。手を伸ばせば水面をなぞれそうなほどに高度を下げても坂本さんはついてきた。これだけ水面に近づいても落ち着いていられるのは実力の証でもあるだろう。

 目標地点に近づくとすこし見せつけるように背面飛行してから背部ブースターで瞬時加速。大きな水しぶきを上げて高度をとった。

 

 

 《杏音ちゃん酷い! びしょびしょだよ~》

 《フッフッフッ。どんな状態でも戦えないとダメだよ~?》

 《2人共、準備はいいですか?》

 

 坂本さんと改めて向き合うと2人共笑みを消した。目元が見えなくてもわかる。授業以上に真剣だ。

 

 

 《《大丈夫です》》

 《それでは、始めてください》

 

 坂本さんが一瞬で撃鉄のプリセットの長刀を展開すると横薙ぎに切りかかってくる。

 私はまだ武器を展開せずにそれを躱すと軽く背中を蹴飛ばす。

 

 

 《一つ》

 

 上手いこと脚部ブースターを吹かして転換した坂本さんはまた全速力で向かってきた。ただし今度はきっちりとした構えをしないことで手を読ませないつもりだ。

 彼女が下から切り上げた刀が機体に当たる寸前で後ろ方向にブースターを吹かしてから上に飛び上がって背中を取るとさっき完成したばかりのエネルギーライフルを展開し、がら空きの背中に数発打ち込んだ。

 

 

 《二つ》

 

 初めて撃ったが悪くない。少しエネルギーの収束率が悪くて距離を置くと空気に負けてどこかにそれてしまうがこんな距離なら十二分だ。

 背中からの衝撃で姿勢を崩した坂本さんに瞬時加速で迫ると刀を2振り両手に展開し、そのまま背中を斬りつけてエネルギーを削りきった。

 想像以上に少ないが、第1世代だからか? あっけなさすぎる。

 

 

 《終わり》

 《そこまで。戻って来てください。坂本、飛べますか?》

 《大丈夫です》

 

 一発でケリを付けるために装甲の薄いところを狙って絶対防御を発動させたから機体へのダメージは無くても操縦者へはそれなりにあるはずだ。

 

 

 《坂本さん、大丈夫? 薄い所狙ったから怪我はなくても痛かったでしょ?》

 《正直すっごく痛い。痛いっていうか衝撃を受けた感じ? でも、杏音ちゃんと千冬ちゃんはいつもこういう事やってるのかな、って思うといい経験かなって》

 

 テントに戻るまでの数分で口頭で瞬時加速のポイントを教えたりしてテントに戻ると次の子がすでにスタンバって居て、エネルギーも大して減っていなかったのでそのまま2戦目。特に記すこともないくらいのストレート勝ち。エネルギーチャージ無しで4連戦して完勝してきた。

 空井さんは4戦目を終えて戻った時には私のことをバケモノを見るような顔で見ていたけど、実際に戦った4人は私と千冬が学園でやっていることを知っているので「あぁ、さすがだわ~」みたいな事を言いながらわいわいとやっていた。

 

 

「あーちゃんお疲れ~。気持ちいいくらいに完勝だね」

「機体の差だよ。撃鉄は重すぎる」

「重いというより鈍いんだ。まぁ、それは第1世代の機体すべてに言えるみたいだがな」

 

 3人であれやこれやと話しているところに空井さんが来た。後ろには他の候補生も並んでいる。

 

 

「篠ノ之博士、上坂さん、ありがとうございました。彼女たちにもいい経験になったようです」

「いえ、こちらも機体のウォームアップにもなりましたし、一次移行(ファーストシフト)が楽しみです」

 

 適当な事を言ってごまかしておけば機体の形を大きく変える改造をしても「ファーストシフトです」と言い張れる。

 束と目を合わせてから笑うと束もいい笑顔を浮かべた。私に向かって。

 自分たちのテントへと戻る道。私と束は黒騎士の次の改装計画を練るのだった。

 


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