暗部の一夏君   作:猫林13世

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基準が一夏ですからね


更識関係者の感情

 落ち着きを取り戻した一夏は、美紀に礼を言って美紀から離れた。少し美紀が名残惜しそうな顔をしているのには気づかないフリをして……

 

「やっぱり一夏さんはトラウマを抱えたままだったんですね」

 

「そう簡単に克服出来るようなものをトラウマとは言わないだろう。それに、長い間会わなかったからな。あれほど凶暴になってるなんて思って無かったぞ……全国女子剣道大会優勝者が棒状のものを振るえばどうなるか、分からないのだろうか」

 

「あの人のルームメイトってマドカちゃんですよね? 大丈夫でしょうか……」

 

 

 マドカの事を心配している美紀に、一夏はそれは無用な心配である事を告げる。

 

「マドカは俺より強くなったし、別にトラウマも抱えて無い。だから篠ノ之相手だろうが後れは取らないだろう。それに何かあれば織斑姉妹がすっ飛んで来るだろうしな」

 

「そうでしょうけども……」

 

 

 美紀が何かを言いかけたタイミングで、再びドアがノックされる。今度は一夏も美紀もよく知っている気配だったので、特に警戒する事無くドアを開け来客を部屋に招き入れた。

 

「一夏君、IS学園初日はどうだったかな?」

 

「いきなりトラウマが発動しましたけど、それ以外は普通でしたね。あっ、何故かクラス代表選考の模擬戦に参加する事になってしまいました」

 

「そっか。一夏君は代表とかに興味無いんだよね?」

 

「そもそも、勝てる未来が見えません」

 

 

 例え選考会を勝ち抜いたとしても、四組のクラス代表は間違いなく簪、一夏は簪に勝てる未来が見えないのだ。それ以前に、選考会には美紀もいるので、簪と同程度の実力の美紀に勝てる未来すら一夏には見えないのだ。

 

「一夏さんには生徒会に入っていただきたいのですが、それを理由に辞退する事は出来ないでしょうか?」

 

「碧さんに相談してみないと分かりませんが、生徒会という事情なら大丈夫だと思いますよ」

 

「本当は簪ちゃんも生徒会に欲しいんだけど、クラス代表に内定してるみたいだしね。だから一夏君だけでもと思って来たんだ」

 

「ところで……美紀さん、胸の辺りが濡れていますが、何か零したのですか?」

 

「えっ? あっ、これは……さっきまで一夏さんが泣いていましたので」

 

「美紀がいてくれなかったら、まだ復帰出来て無かったでしょうね」

 

 

 トラウマが発動したという事から想像はしていた刀奈と虚だが、ここでの生活は一夏にとって苦痛になるかもしれないと改めて実感したのだった。

 

「辛かったら何時でもお姉ちゃんの部屋に来て良いからね。ルームメイトには目を瞑ってもらうから」

 

「私も、何時でも呼んでください。一夏さんの為ならすぐに駆けつけますから」

 

「ありがとうございます。でも、自分の意思でIS学園に入ると決めたんです。ある程度は耐えられますし、ここには大人の男はいませんから、それが唯一の救いですかね」

 

 

 更識所属の大人に対する免疫は出来ていても、見ず知らずの大人に対する免疫はほぼゼロなのだ。女性相手は何とか堪えられるのだが、男性相手だと一夏は冷静さを欠いてしまう事が多い。特に一人でいる時に遭遇したら、一夏はすぐさま逃げ出してしまうほどだ。

 

「さしあたっての問題は、篠ノ之箒ですかね」

 

「先ほども織斑千夏先生の前にも関わらず一夏さんに暴行を加えようとして連行されて行きましたし」

 

「分かったわ。生徒会でも何とかする」

 

「お嬢様、あまり職権乱用はいけませんよ。入学式でも力技で一夏さんを助けましたし、あんまり一生徒に肩入れすると問題が発生する可能性が」

 

「分かってるけど、一夏君は色々と問題があるのよ? 生徒会長では無く義姉として、義弟の事を心配するのは当然でしょ! それに、未来の旦那様かもしれないんだから」

 

「それは私も同じですけど。まぁ、篠ノ之箒さんに関しては確かに対策が必要かもしれませんね」

 

 

 クラスが同じなのは仕方ないとしても、部屋まで乗りこまれては困る。刀奈と虚は何か有効な手立ては無いものかと考え始める。その背後から三人の少女が一夏たちの部屋に入って来たのだった。

 

「いっちー! 遊びに来たよ~」

 

「あれ? お姉ちゃんに虚さんも……何かあったの?」

 

「何故私があんな女と同室なのですか! 部屋替えを要求します!」

 

「……早速問題があったようだな、マドカ」

 

 

 三人の内一人は文句があるらしく、一夏はマドカの不満に耳を傾け、そして少し震えだす。

 

「大丈夫ですよ、一夏さん。あの人はここにはいません」

 

「あ、あぁ……分かってる」

 

「兄さま? 何かあったのですか?」

 

「一夏君は昔、篠ノ之箒ちゃんに追いかけ回されてたのよ。記憶を失ってまだ不安でいっぱいの時にね。その所為で篠ノ之箒恐怖症になっちゃってるのよ」

 

「まぁ話を聞く限りでは、完全に彼女が悪いんですがね。何故か被害者を装ってるんですよ」

 

「マドカちゃん、部屋割の事だけど――って、全員いるのね」

 

 

 また来客があり、その人は一夏たちの部屋に来たのに目的はマドカのようだった。

 

「碧さん、別室は用意出来たのですか?」

 

「調整しないと無理ね。誰も篠ノ之さんと同じ部屋になりたがらなかったのよ」

 

「……このままではあの女を殺してしまうかもしれません」

 

「別に個人的には構わないんだけど、学園教師として殺傷沙汰は勘弁してほしいかな」

 

 

 更識関係者が全員一夏たちの部屋に集い、そして話あった事は篠ノ之箒の事について。結論として、篠ノ之箒は問題児で、個人的感情を優先すれば消し去ってもよいが、学園に迷惑がかかるのでなるべく我慢するようにとの事に落ち着いた。篠ノ之箒について話している間、一夏はずっと美紀にしがみついていたのだった。




マドカの不満爆発、碧さんも本音を隠そうともしない……

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