暗部の一夏君   作:猫林13世

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いよいよ彼女が登場します


他国の候補生

 真耶と一緒に教室に戻ると、一夏に向けられる視線は少ないながらも鋭いものがあった。ISが出来てから女尊男卑の風潮が広まっているので、異分子である男子を敵視する女子がいても仕方ないと一夏は理解しているが、二本程それ以外の敵意や害意が含まれている事にも気づいていた。

 

「それでは早速授業を始めたいと思います。皆さん、事前学習の為に贈られた参考書は確認して来ましたよね」

 

「ほえ? そんな物もらってませ~ん」

 

「お前はそれを枕に寝てただろうが……」

 

「あっ! あれって教科書だったんだ~。よく分からない文字の羅列だったから、開いてすぐ枕にしちゃったよ~」

 

「お前は……すみません、山田先生。アイツには後で俺たちが教えておきますので」

 

 

 本音の代わりに頭を下げた一夏に、真耶は慌てて手を振る。背後で織斑姉妹が見ているのだ、一夏に頭を下げさせたなんて死罪に相当するかもしれないと真耶は思っているのだ。

 

「そ、それじゃあ布仏さんの事は更識君たちにお任せします。では授業を始めますので静かにしてくださいね」

 

 

 所々から聞こえていた私語が、真耶の注意でぱったりと無くなった――ように思えたが、一夏と美紀とマドカは、真耶のお願いでは無く織斑姉妹の威圧感で静まり返ったのだと正確に理解していたのだ。

 

「えっと、ここまでで何か分からない事はありますか?」

 

 

 真耶の授業はお世辞にも上手いとは言えないものではあったが、なるべく分かりやすいように言葉をかみ砕いて説明しているので、先行して知識を持ち合わせていない者でも理解出来るようになっていると一夏は感じていた。

 

「更識君も大丈夫ですか?」

 

「問題ありません。山田先生、もう少しご自身に自信を持たれた方が良いですよ」

 

「そ、そうですかね? 褒められると照れちゃいま――ヒィッ!?」

 

 

 一夏に褒められて照れていた真耶だったが、背後から向けられている視線に気づき飛び上がった。そしてゆっくりと振り返ると、そこには無表情ながらも苛立ちをオーラで伝えてきている織斑姉妹がそこにいた。

 

「「山田先生、早く続きをお願いします」」

 

「わ、分かりました! それでは授業を再開します」

 

 

 普段オーラなんて見る事が出来ない真耶だが、織斑姉妹のオーラだけは的確に見る事が出来る。まぁ、真耶以外にも今のオーラが見えた生徒が数人いるようで、その生徒たちは背筋を伸ばして真面目に授業に取り組んでいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 授業間の休憩中、一夏は美紀や本音、マドカと雑談をしていた。更識の屋敷ではこのような時間は取れない事が多くなってきたので、IS学園での休憩時間は一夏や美紀たちにとって絶好の雑談に興じるチャンスなのだ。

 

「ちょっとよろしくて?」

 

 

 気配では分かっていたが、明らかに雑談を楽しんでいる一夏たちに声を掛ける無粋な少女がいた。本音でも分かるくらいに傲慢な雰囲気を纏い、明らかに自分が上だと言わんばかりの声に、一夏は冷静に対応したのだった。

 

「何か用でしょうか? イギリス代表候補生のセシリア=オルコットさん」

 

「あら、私の事を知っているなんて、下賤の輩にしては立派ですわね」

 

「この間候補生同士の合宿に付き添った時に貴女の事を拝見しましたので。それで、何の御用ですか? クラスメイトとの雑談を中断してまで話さなければいけない事なのですよね?」

 

 

 言葉遣いこそは丁寧だが、一夏は明らかに苛立っている。その事を付き合いの長い美紀と、妹であるマドカは感じ取っていた。もちろん、本音は全く気づいていないのだが。

 

「この私に声を掛けられただけでも栄誉な事なのですよ? なんですの、その態度は」

 

「そんな事言われましても……元日本代表である小鳥遊碧さんは昔からの知り合いですし、同じく元代表の織斑姉妹は俺の姉です。そして現日本代表の刀奈さんは義姉に当たる人ですし、候補生の簪と美紀も、このように旧知の仲です。今更候補生に話しかけられたから光栄に思えなどと言われても、正直ピンと来ないんですよ」

 

 

 この場に簪はいないが、そんな細かい事にツッコミを入れる人間はここにはいなかった。それだけ一夏が並べた名前が凄すぎるのと、候補生程度と言わんばかりの一夏の態度に気圧されたのもあった。

 

「それから何か勘違いしているようですので忠告しておきますが、普通は専用機持ちであろうとそれは国から貸し与えられたもの、決して自分の所有物と言うわけではありません。貸し与えられたもので威張り散らすのは、候補生としての態度としてはいただけないのではないでしょうか? まぁ、その辺りは俺より美紀に聞いた方が詳しく分かるでしょうけどもね」

 

「一夏さんの言う通り、例え候補生であろうと、余所の国の人を見下すような態度は心得に反しています。セシリア=オルコットさん、貴女はイギリスの全ての候補生、及び代表の人の品位まで落としかねいない事をしているんですよ? 理解してますか」

 

「お、覚えていなさい! この屈辱、必ず晴らさせていただきますわ!」

 

 

 反論出来なかったセシリアは、大声で宣言し自分の席に戻って行った。何か起こるのではないかとはらはらしていたクラスメイトたちは、何事も無く終わってホッと胸をなでおろしていたのだった。

 

「ねぇねぇいっちー、あの人は何がしたかったの?」

 

「さぁ? 自分が凄いとでもアピールしたかったんじゃないのか?」

 

「でも、あの人の実力は大した感じじゃ無いよね~? 試験の時見たけど」

 

 

 本音の的確な分析に、一夏と美紀は少し驚いた表情を浮かべていたのだが、幸いな事に本音には見られずに済んだのだった。




マイルドに撃退されたセシリア……

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