暗部の一夏君   作:猫林13世

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すっ飛ばしたお陰で本編が見えた……


中学卒業

 更識の調査力をフルに使い、一夏はセシリア=オルコットの情報を手にし、その資料に目を通していた。

 

「何か心配な事でもあるのかい?」

 

「ああ、尊さん……いえ、この少女ですが、自尊心が高く、他人を見下す傾向があるようですので……俺だけなら兎も角、簪や美紀、本音やマドカに飛び火しないようにと思いましてね」

 

「その時は我々がその少女の地位、名誉、資産、全てを消し去るから心配しなくても良いだろう」

 

「いえ……そこまで鬼畜な事をするつもりはありませんよ。精々、織斑姉妹との楽しい楽しいレクリエーションでも計画するくらいですよ」

 

「……ひと思いに楽にさせてあげないのか、さすが暗部組織の当主だな」

 

 

 尊もかなり黒い事を計画していたのだが、一夏は更にその上を行っていた。確かに一夏に頼まれたとなれば、あの姉妹が協力するのは確実視出来るだろう。そして尊の計画よりセシリア少女に与える衝撃は強いものになる事も確かだった。

 

「俺はなるべく平和に学園生活を過ごしたいんですよ。これまで波乱万丈だった俺の人生、そろそろ落ち着いても良いと思うんですよ」

 

「高校生になる少年の言葉とは思えないが、君なら仕方ないか……だが、君にはまだまだ長い人生が待ってるんだ。落ち着いた人生程つまらないものは無いぞ?」

 

「さすがに含蓄がありますね。でも、少しくらいは落ち着いてもらいたいと願うのは、尊さんにも分かりますよね?」

 

「まぁな。君の人生を歩んでいれば、私もそう思うかもしれない」

 

 

 一夏の人生を自分が歩んでいたならば、などと妄想を膨らませながら尊は一夏が目を通していた資料に目をやる。

 

「イギリスの代表候補生ね……国の威信を背負ってると言う自覚が欠如しているのかい? 他国の人間を見下すなんて、候補生の振る舞いとは思えないけどね」

 

「だから自尊心が強いと言いましたよね。自分より弱い相手に敬意を払うつもりは無い、と言う事でしょう」

 

「やれやれ……君の安寧はもう暫く先だろうね」

 

「まぁ、彼女だけが不安材料では無いんですけどね」

 

 

 そう言って一夏は、もう一枚の資料を尊に見せた。

 

「篠ノ之箒……そうか、彼女も今年受験だったのか」

 

「一応、元同級生ですからね。被る事は覚悟してましたが……ISを嫌ってる彼女が何故受験を……」

 

「案外、君が受験するからでは無いかな? 彼女は思いこんで君を自分のものだと言っていたからね」

 

「そんな事を……あの二人に殺されたかったんですかね?」

 

 

 あの二人が誰を指しているのか、尊にはしっかり伝わっていた。先ほどとは違う笑みを浮かべながら、尊は資料を一夏に返し部屋から出て行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中学の卒業式を終えた日、一夏の携帯に一本の連絡が入って来た。

 

「これはまた、珍しい相手からだな」

 

 

 ディスプレイに表示された名前を見て、一夏はそんな事を思いながら通話を開始した。

 

「何かあったのか?」

 

『無事に卒業式も終わったんだし、これから一緒にどうだ? IS学園じゃ気軽に外に出れないだろ? だから今の内に遊んでおこうと思ってよ』

 

「別に構わないが、数馬も一緒なんだろ? 何して遊ぶんだ?」

 

『そうだな……一夏もいる事だしこれからナンパでも――』

 

 

 弾がその単語を出した瞬間、一夏は通信を切った。すぐさま着信があったので、一夏はもう一度通話を開始する。

 

『冗談だって! 相変わらず容赦ないな、一夏は……』

 

「笑えない冗談はやめるんだな、弾。俺は色々と有名なんだ、不本意ながら……だからそんな事をすればすぐに騒がれる」

 

『だから悪かったって。ゲーセンでも行って遊ぶか』

 

「それなら問題は無い。ただし、暴走するなよ?」

 

 

 一夏に釘を刺され、弾は降参したような声で返事をし、今度は弾から通信を切った。

 

「さてと、暫く会えなかった悪友たちの顔でも拝みに行くかな」

 

 

 弾と数馬は一般入試で、合格ギリギリのラインだったので遊ぶ機会が減っていたのだ。それに加えて鈴も中国に帰ってしまったので、一層会う機会は無くなっていたのだった。

 

「本音、俺は出かけるが護衛は必要ない」

 

「了解なのだ~! 私もかんちゃんたちと遊んでくるね~」

 

「それでいいの? 一応一夏さんの護衛なんだから……」

 

「でも、一夏がいらないって言う時は大抵安全な時だしね。一夏、何かあったら連絡してね」

 

「分かった。簪たちも今日は女子だけで遊んでくるといい」

 

 

 中学の校門前で簪たちと別れ、一夏は待ち合わせ場所へ向かおうとして――背後を振り返り声を掛けた。

 

「何かご用ですか、篠ノ之博士?」

 

「およ? 今日は完璧に隠れてたんだけどな~。さすがいっくん」

 

「それで、何か問題でもありましたか?」

 

「ううん、いっくんには直接関係ないのかもしれないけど、箒ちゃんがIS学園に入学するでしょ? 多分ほぼ100パーセントの確率でいっくんに絡んでこようとするよ。中学女子剣道大会優勝者の実力を考えずに、本気で竹刀を振るったりね」

 

「さすがにそこまで考え無しでは……」

 

 

 そう言いかけてから、一夏は過去の記憶から篠ノ之箒という少女の成長を想像した。

 

「ありえそうで嫌ですね」

 

「だから一応警告にね。何かあったらこれを箒ちゃんにぶつけてね。そうすれば一瞬で永眠するから」

 

「そんな危険な物を渡さないでください!」

 

 

 束から受け取った危険物を丁重に押し返し、一夏は束を睨みつける。本気を出されれば一夏では束を止める事は出来ないので、出来る限り穏便に事を済ませる事を宣言して、束をラボへと帰したのだった。

 

「まったく……尊さんの言う通りになりそうだな」

 

 

 これから始まる学園生活を想像して、一夏は胃の痛い思いをするのだった……




実の妹に対する用意じゃないな……まぁ、自業自得ではあるが。

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