暗部の一夏君   作:猫林13世

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個人では刀奈が上ですが、この世代には力のある人が多くいますからね


最強世代の受験

 IS学園職員室では、受験生の顔ぶれが話題になっている。まず一番話題になるのは、IS学園始まって初の男子受験生となる更識一夏。そして次は日本代表候補生である更識簪と四月一日美紀のペア。その次は更識製の専用機を持ち、二年前に試験官と引き分けた成績を持つ姉が在籍している布仏本音。そして最後の一人は篠ノ之束がテストパイロットとして保護していた少女、記録上は死亡していた事にされていた少女だった。

 

「織斑先生たちの妹さん、ですよね?」

 

「見た目もそっくりですし」

 

「でも一年前に事故で亡くなったとされているはずでは……」

 

「あっでも、篠ノ之博士ならそれくらいの改竄は出来るんでしょうね」

 

 

 様々な憶測が飛び交う中、織斑姉妹は一人の少年の願書を眺めていた。正確には、願書に貼られた写真を眺めていた。

 

「ああ、一夏……ついにお前と同じ空間で生活出来るのか」

 

「お姉ちゃんは嬉しいぞ。まさかお姉ちゃんを追いかけてIS学園に入学したいなんて……」

 

「誰もそんな事は言ってませんし、何時までも一夏さんの願書を眺めてないで仕事してください。千冬さんと千夏さんは筆記試験の試験官ですよ」

 

 

 誰もが恐怖する織斑姉妹に仕事をするように促したのは、この学園で三本の指に入る実力者、小鳥遊碧だった。

 

「お前は今年もモニター室で見学だけだろ」

 

「わたしたちの代わりに試験官をやれ。その間わたしたちは一夏の写真を眺めている」

 

「……確か二人が担当する教室には一夏さんがいたような……後マドカちゃんも」

 

「よし千夏! 急いで教室に向かうぞ」

 

「了解だ、千冬! 最速の歩きで向かうぞ」

 

 

 絶対的な餌をちらつかせる事で、織斑姉妹に試験官としての仕事をさせる事に成功した碧は、二人が抱えていた一夏の願書を元あった場所へと移動させた。

 

「すみません碧さん……私たちでは千冬さんたちを説得出来ませんし」

 

「織斑先生たちもあれが無ければ尊敬出来るんですがね……」

 

「仕方ないわよ。重度のブラコンでありながら長年離れて生活してたんだから……」

 

 

 苦笑いを浮かべながら、碧は後輩二人に事情を説明し始める。世間的にはあまり知られていない織斑家の事情と、あの二人のブラコン具合を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 筆記試験を終え実技試験の順番を待つ部屋で、一夏たちはお喋りに興じていた。受験の真っただ中なのにこれ程緊張感の無い空気を醸し出している一団も珍しいだろう。

 

「それじゃあマドマドはいっちーの妹さんなんだね~」

 

「はい。歳は一つ下ですが、兄さまと束様が色々と手を尽くしてくれましたのでこうして同じ学年としてIS学園の受験に挑む事が出来ました」

 

「その女の子がマドカの専用機の白式?」

 

「普段はブレスレットなんですけど、ご挨拶をと思いまして人の姿になってもらいました」

 

 

 マドカの横に現れた少女を見て、簪が真っ先に興味を示した。それにつられるように、美紀と本音も白式に視線を向けた。

 

「はじめまして、織斑マドカの専用機で、束さんが製造・一夏様が改良を施した第三世代型IS、白式って言います。以後よろしくお願いしますね」

 

「おー! 見た目は子供っぽいのに、意外としっかりしてるんだね~」

 

「本音ちゃんよりしっかりしてるかもね」

 

「それ言えてるかも」

 

 

 美紀と簪が呆れた表情で本音を眺めていたが、残念な事に本音は皮肉に気づかず、また視線にも気づかなかった。

 

「モニターで試験内容を見学出来るようだが、お前たちは見ないのか?」

 

「いっちーは見てるの?」

 

「ああ。たった今イギリスの代表候補生が山田真耶先生と戦闘を終えたところだ」

 

「結果は?」

 

「明らかに山田真耶先生が手を抜いている。これで勝っても何の自慢にもならないだろうな」

 

 

 記録していた映像を再生して、一夏が四人に説明を始める。だが本音以外の三人は、一夏の説明が無くても手加減されているという事を理解していた。

 

「ほえ~、手加減してるのにこの強さはさすがだよね~。刀奈様がいたから仕方ないけど、この人って代表になれたかもしれない人なんでしょ~?」

 

「そうだね。お姉ちゃんに負けて現役を引退したけど、実力的には国家代表レベルはあると思う」

 

「この映像を見る限り、イギリス代表の人って全力ですよね?」

 

「そうだな。おそらくは全力だろう。まだ武装を隠してるようだがな」

 

「「「「?」」」」

 

 

 一夏が断言した理由は、簪にも美紀にもマドカにも分からなかったようだった。

 

「さすがに受験生のデータを見る事は出来ないか……」

 

「一夏、それってハッキング?」

 

「いや、受験生なら見る事が出来るデータだ。……面倒にならなければいいがな」

 

 

 今のイギリス代表候補生のデータを見ていた一夏がそんな事を呟いたのを、簪と美紀は心配そうに眺めていた。表示されていたデータには、彼女は自尊心が高く男性を見下す傾向があると書かれていたのだった。

 

「次、織斑マドカ、第一アリーナへ移動してください。布仏本音は第二アリーナで試験です」

 

 

 自分たちの順番が近づいてきたという事で、一夏は開いていたモニターを閉じて目を閉じ精神を落ち着かせる事にした。それに倣うように、簪と美紀も気持ちを落ち着かせる事に集中したのだった。

 そして結果は、マドカと本音は引き分け、簪と美紀は試験官を完封する強さを見せつけ、一夏は時間内に相手の攻撃を一撃も喰らわないという動きを見せたのだった。もちろん、全員合格基準を軽々と越え、無事IS学園入学が決定したのだった。

 

「セシリア=オルコットか……少し調べておく必要がありそうだ」

 

 

 更識家に戻った一夏は、実技試験前に見ていたイギリス代表候補生の少女について、調べておく必要があると思っていたのだった。そしてもう一つ、悪友の名前が見当たらなかった事も、一夏は引っかかっていたのだった。




セシリア、高飛車発言の準備完了……

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