暗部の一夏君   作:猫林13世

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一緒に行動出来ているので、冷静さを取り戻している……はずです


家族の再会

 本当なら一夏だけと会う予定だったのだが、千冬と千夏も同行すると一夏から言われ、束のテンションは少し下がっていた。だが、別の意味ではテンションが上がっているので、表面上は一夏個人と会う予定だった時と何も変わってはいなかった。

 

「いよいよだね~。偉大な姉二人と天才の兄とのご対面は」

 

「……本当に良いんでしょうか? 私は織斑ですが、貴女を痛めつけようとしたんですよ?」

 

「良いって。君が織斑を恨む理由はあのクズ共の所為だから。ちーちゃんやなっちゃん、いっくんの所為じゃないんでしょ? だから束さんは許したのだ」

 

 

 マドカが束を襲いに来た日、束はマドカを捕獲し自分の研究を手伝わせるテストパイロットとしてマドカを保護した。その事は一夏に伝えており、今日会う理由もその事だと一夏には伝えてある。その事を千冬と千夏に伝えたかどうかは束の知る由には無かった。

 

「まーまー、偉大な姉や兄と比べられてきた君の辛さは束さんには分からないけど、それでも君がちーちゃんやなっちゃん、いっくんの事が好きだって事は束さんには分かってるからね」

 

「……私は姉さまたち、兄さまと比べられる事が嫌でした。早々に離れ離れになったのに、親は三人と私を比べたがった。そして勝手に絶望していました。だから私は亡国機業に拾われ、貴女を殺せと命じられた時、織斑姉妹や天才と言われる兄に近づけるのではないかと思いました」

 

「でも、結局は自分のコンプレックスと向き合わざるを得ない状況になっただけだったんだよねー。まぁ、これから会う三人は、束さんから見ても普通じゃないからね」

 

 

 織斑千冬、千夏姉妹と更識一夏――旧姓織斑一夏は篠ノ之束が認める数少ない人物であり、認識出来る数少ない人間でもある。人外と称される束ですら、この三人は普通ではないと思っているのだった。

 

「それにしても、まさか君がちーちゃんたちの妹だったとはね~。行方不明だって事は知ってたし、名前も聞いた事があったけど、いっくんから報告があった時は驚いたよ。まさかちーちゃんたちの妹が束さんの命を狙ってるだなんてさ」

 

「殺すか捕まえるかして来いと命じられていましたので、とりあえず暴れられないように痛めつけるつもりではいましたが、別に殺すまでは思ってませんでしたよ。それに、貴女を殺すとISのコアを手に入れる事が出来ないとも思ってましたし」

 

「その専用機、白式の具合はどうだい? 君の能力にあった設定にはしてあるけど、機体自体はピーキーだからね~。後でいっくんに再調整してもらうと良いよ」

 

 

 マドカは束から、一夏がISを造れる事も、コアを造れる事も聞かされている。もちろん一夏に確認を取り、マドカが逃げ出さないように束が厳重に監視する事を条件としての打ち明けなのだが。

 

「兄さまに調整してもらえるのでしたら、私はこれ程嬉しい事は無いと思います」

 

「堅いな~もっとフランクに行こうよ! まーちゃんっては堅すぎる! その喋り方はやめるんだね。束さんの事はもう一人のお姉さんとでも思えば良いのだよ」

 

「で、ですが……」

 

 

 マドカが困惑したのと、来客が到着したのは、丁度同じタイミングだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏に会うだけに来たのだが、千冬と千夏は一夏に引き連れられて束のラボを訪れていた。一夏と会う条件としてここに付き合う事を承諾させられたので仕方ないのだが、二人は何故束に会わなければいけないのかと不満を垂れていた。

 

「なぁ一夏。お姉ちゃんたちと何処か遊びに行こう!」

 

「そうだぞ! 束なんかに会わないで、お姉ちゃんたちと一緒に何処かへ……」

 

「約束を反故にするのですか? 貴女方に会う条件として、俺はここに付き合うよう要求したのですが」

 

「「………」」

 

 

 世界最強の姉妹の称号も何処へやら、一夏相手に千冬と千夏は何も反論出来なかったのだった。

 

「さて、到着です。一応警告しておきますが、くれぐれも暴れないようにお願いします」

 

「分かってるさ……」

 

「いくらわたしと千冬が束と会うと暴走する傾向にあるからといって、一夏の前で暴走するわけがないだろ」

 

「いえ、別の理由があるのですが……まぁ言質は頂きましたので」

 

 

 一夏は懐に忍ばせていたボイスレコーダーを見せ、二人の証言は記録されている事を教えた。

 

「束さん、一夏です。織斑姉妹も連れてきました」

 

『はいはーい! 開いてるから入っておいで』

 

 

 ロックが外れる音がしたのを確認して、一夏は扉に手を掛けた。

 

「ほらー、まーちゃんも隠れてないで挨拶しなきゃ!」

 

「で、ですが……」

 

 

 扉を開け、三人の視界に飛び込んできたのは束ともう一人の少女。一夏はその少女の事を知っていたが、千冬と千夏はここにその少女がいる事は聞かされてなかったのだった。

 

「「ま、マドカ……なのか?」」

 

「お、お久しぶりです……千冬姉さま、千夏姉さま。そして、一夏兄さま」

 

「久しぶりなのでしょうが、生憎俺には昔の記憶が無いから、あえてはじめましてと言わせてもらう」

 

「それで構いません。私は織斑マドカ、兄さまの妹です」

 

 

 兄妹は簡単に会話をしているが、姉二人はそうはいかなかった。生き別れになった妹が、悪友のラボにいたのだから受ける衝撃が大きくても仕方ないだろう。

 

「何故マドカがここに……」

 

「束、貴様が誘拐していたのか!」

 

「違うよ~。束さんは、いっくんから情報を貰ってまーちゃんを保護してただけだよ。それに、まーちゃんに専用機を造ってあげてたのさ」

 

 

 ブイブイとポーズを決める束を他所に、千冬と千夏の視線はマドカに向けられていた。生き別れの妹に再会したのは嬉しいのだが、どう表現して良いのか困惑しているように一夏には思えていたのだった。




マドカの専用機は白式で。この後一夏が改良を施します

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