暗部の一夏君   作:猫林13世

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ブラコン全開ですね……


女子高生の会話

 一夏の護衛役を命じられた碧は、一夏を小学校まで送り届けた後自分も学校に向かう。普通に移動したのでは遅刻確定なのだが、一夏を送り届ける際に車移動をしているので、ついでに碧自身も車で学校に向かう。

 

「じゃあね、碧さん」

 

「行ってらっしゃい、一夏君」

 

 

 車から降りて手を振る一夏に手を振り返し、碧は運転手に車を出してもらう。自分で運転出来れば一番いいのだが生憎まだ免許を取れる年齢でも無いし、取れたとしても碧は方向音痴。自分一人では一夏を学校に送り届ける事は出来なかっただろう。

 

「貴女も大変ね」

 

「いえ、これくらいしか出来ませんし、一夏君が他の人を怖がってしまってる以上、私が一夏君の送り迎えに立ち会うのは仕方の無い事です」

 

 

 学校に通うようになって、少しは他人を恐れる事が無くなって来た一夏だが、大人に対してはまだまだ恐怖心が勝ってしまうのだ。男性なら特に……だからこの任務は碧が適任だろうと、楯無は最初から思っていたのだ。

 

「一夏さんは記憶を取り戻そうとはしてない様子ですし、このまま貴女が面倒をみる事になりそうですね」

 

「お嬢様たちもいますし、私だけではなさそうですしね」

 

 

 現在更識家において一夏が怖がらずに接する事が出来るのは、刀奈、簪、虚、本音、美紀、碧の六人。少し怯えながらも楯無と話す事は出来るので、それを含めても七人、他の侍女や従者には怖がって近づこうとはしないのだ。

 

「報告を見る限り、一夏さんの学校生活は順調のようですし、このまま平和に事が進めば一番でしょうけど、まだ予断は許さない状況ですね」

 

「篠ノ之束の動きが分からない以上、一夏君に危害が及ぶ可能性は無くなりません。もちろん、篠ノ之束が動いたら動いたで、一夏君が危険な目に遭う可能性が高まるかもしれないのですが……」

 

「彼女の妹も、一夏君にとっては危険人物ではあるようですね」

 

「復帰初日に一夏君に襲いかかろうとした時には、本気で殺そうかと思いましたよ」

 

 

 一夏が学校に復帰した日、篠ノ之箒は一夏に向かって飛び付いた――本人は抱きついたつもりでも、一夏にとってはタックルしてきたようにしか感じられなかったのだが。

 教師から記憶喪失になり、他人を怖がる傾向があると言われたばかりの行為に、更識の護衛を含む周りの大人から大目玉を喰らわせられたのだが、一向に反省の色は見られない。未だに一夏を見つけては飛びついてこようとするので、碧は半分以上本気で箒に攻撃を仕掛けようとした事もあるのだ。

 

「まぁ彼女の事は織斑姉妹にも報告が行ってますし、どうやら篠ノ之束にもその情報は伝わっているようです」

 

「相手の事を考えないのは、その束って人も妹の箒って子も変わらないんですね」

 

「篠ノ之家の血筋なのでしょうか……詳しい事は分かりませんけど」

 

「そうですか。到着しましたので、後は我々にお任せ下さい」

 

「はい、お願いします。また後ほど、よろしくお願いします」

 

 

 碧の通っている高校に到着し、碧は一礼をして車から降りる。そして車を見送ったところで、背後から強烈な気配を感じ取った。

 

「えっと……おはよう、千冬さんに千夏さん」

 

「挨拶はいい。一夏の様子はどうだ?」

 

「あのバカ箒はまだ一夏にちょっかいを出しているのか?」

 

「教えてあげるから、その殺気はしまってくれない? 別に私が一夏君にちょっかい出してるわけじゃないんだから」

 

 

 女子高生が朝からするような会話内容では無かったが、周りはその事を指摘したりしない。碧が暗部組織に身を置いている事は周知の事実だし、千冬と千夏が重度のブラコンで、その弟が誘拐された事も既に全校生徒に知れ渡っている。そしてこの三人に話しかけるような猛者など、この学校に在籍していなかったのだ。

 

「何故一夏は私たちでは無く小娘たちを選んだのだ……」

 

「お姉ちゃんたちが一日中護ってあげると言うのに……」

 

「貴女たちだって学校があるんだし、一日中は無理よ。それに一夏君は貴女たちの記憶も失ってるんだから、一夏君から見た貴女たちは今、ただの年上の女性でしかないのよ? そんな一夏君を怖がらせずに相手する事が貴女たちに出来るの?」

 

「「当然だ! 一夏は私(わたし)の天使だ! 怖がらせずに接する事など容易い」」

 

「……その息ピッタリなところ、私からしたら怖いわよ」

 

 

 普段は息の合わない事が多い姉妹だが、こと一夏の事に関しては息ピッタリなのだ。ここ数日付き合ってみて、碧はその事を理解させられていた。

 

「うちの屋敷でも、一夏君に怖がられずに接する事が出来る人は少ないの。そこに貴女たちが加われるとは思えないわ、悪いけど」

 

「その数少ない相手の殆どが小娘だろ?」

 

「一夏が記憶を失ってるのを良い事に取り入ろうとは……今度教育する必要がありそうだな」

 

「お嬢様たちに手を上げると言うなら、私だって黙って見過ごす事は出来ないわよ」

 

 

 碧の戦闘力では、千冬や千夏には敵わないだろうが、自分が仕えている家の人間に手を出そうとするのなら、碧は死を覚悟してでも止めに入るつもりなのだ。

 

「まぁそんな事はどうでも良い。バカ箒は反省しているのか?」

 

「昨日の時点では反省してないわね。昨日も一夏君に向かって竹刀を振り回していたって報告が入ってるし、放課後に自分の家に連れて行こうとした事も報告されてるわ」

 

「ほぅ……千冬、今日は篠ノ之道場に寄って行こう」

 

「奇遇だな、千夏。私もそう思っていたところだ」

 

「……ほどほどにしなさいよね」

 

 

 碧は篠ノ之道場がどういった場所かは知らないが、『篠ノ之』という苗字からそこが篠ノ之箒の家だと言う事は理解出来た。そしてこの姉妹が何をしようとしてるのかも、何となくではあるが理解出来てしまったのだった。




内容は全然女子高生らしくなかったな……

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