暗部の一夏君   作:猫林13世

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ついに出てしまった……


禁断症状

 入学して早々、刀奈は虚から生徒会長になるように言われていた。IS学園の生徒会長とは、即ち学園最強の称号。虚は自分より強く、生徒の見本となるべき刀奈にその職を譲ると申し出たのだった。

 

「今年は虚ちゃんがやっててよ。それで来年は一夏君が生徒会長になれば良いじゃない」

 

「一夏さんはあくまで知能最強です。IS学園の生徒会長は武力の面が強いですから一夏さんには不向きですよ。それと、お嬢様がそう言うだろうと言う事は予測済みです」

 

 

 そう言って虚は携帯を取り出し刀奈に手渡した。

 

「何よ?」

 

「話せば分かりますよ」

 

 

 相手が誰かを教えてくれなかった虚に不満を込めた視線を向け、刀奈は電話を取った。

 

「はい」

 

『刀奈さん、生徒会長になればそれなりに自由が利きますし、ISの整備で俺が学園を訪ねる際に会う事が可能です』

 

「なる! 私生徒会長になるわ!」

 

 

 電話の向こう側で一夏が呆れているのが、虚には分かったが刀奈には分からなかった。そもそも、一夏が自分に会う事をプラスだと言っている時点で、誰かがその事を吹き込んだのだと分かるはずなのだ。だが刀奈はその事には気づかず、まんまと生徒会長になると宣言してしまったのだった。

 

『それは良かったですね。生徒会長とは生徒の見本となり、規律をシッカリと守る事を求められます。刀奈さんなら問題なく出来るでしょうが、頑張ってくださいね』

 

「それで、一夏君は次、何時整備に来るのかしら?」

 

『そうですね……二週間後にメンテナンスの予定が入ってますから、それに同行する形でIS学園に伺いますよ。その時にお会いしましょう』

 

「うん! 楽しみに待ってるわね」

 

 

 ISを動かせる事は公表しているが、ISを造れる事は公表していない。整備くらいなら問題ないのかもしれないが、念には念を入れて一夏は整備に訪れる際も数人と一緒に行動している。IS学園は基本的に男子禁制の為、一夏以外は全員女性研究者なので居心地は悪そうだと虚は思っていた。

 

「さーて、一夏君が来るまで何して時間を潰そうかな~」

 

「残念ですがお嬢様、生徒会長に就任されたのですから仕事をしていただきます。このように学園への要望や様々な国や政府からの嘆願書など多くに目を通さなければいけませんので遊んでいる余裕などありませんよ」

 

「な、何よこの量……こんなの聞いてないわよ」

 

「国家代表が入学すると言う事で、各国の候補生も大勢入学したのです。これくらいの量の書類があってもおかしくは無いと思いますが?」

 

「は、ハメられた……」

 

 

 生徒会長に就任すると一夏に宣言してしまった以上、今更前言を撤回する事は不可能だと刀奈にも分かっていた。そして二週間後に一夏に会える事だけを糧に、刀奈は書類の山と格闘する事を決意したのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園での生活は毎日が充実していたのか、気が付けば一学期終了が近づいて来ていた。半月に一回学園で、三週間に一回は屋敷に戻り蛟のメンテナンスで一夏に会う事が出来ていたが、同じ屋敷で生活していた頃と比べれば格段に一夏と会う回数は減っていた。

 そんな悩みを抱えていた刀奈だが、いよいよ夏休みになり、今年は代表として各国を飛び回る事もなさそうなのでテンションが上がっていた。

 

『ウキウキ気分なのは良いですけど、この仕事を片付け無いと帰れないんですよ?』

 

「一夏君に会えると思えば、この程度の仕事なんて簡単よ」

 

 

 そう宣言した通り、刀奈は書類の山をみるみる片付けて行った。普段のスピードからは考えられない程の処理能力に、蛟だけでは無く虚も驚いたようだった。

 

「普段からこれくらい早く片付けてくれれば、私も楽なのですが」

 

「虚ちゃんが早すぎるんでしょ? 私は普段から頑張ってるわよ」

 

「そうですか……ところで、織斑先生が用事があるみたいですので、これが終わり次第職員室に行ってください」

 

「織斑先生が? どっちの?」

 

「両方です」

 

 

 その答えに何となく不安を覚えつつも、一夏に会う為だと言い聞かせて書類をドンドン処理していく。生徒会長として過ごした数ヶ月は、刀奈にとって苦痛以外の何物でも無かったのだが、今だけはその事を忘れ必死になれているように虚には感じられていた。

 

「終わった! じゃあ職員室に行ってくるわね」

 

「まぁまぁお嬢様、一服してからでも遅くはありませんよ。それに、まだ夏休みじゃないんですから」

 

「それもそうね。虚ちゃんが淹れてくれる紅茶は世界一だものね」

 

「これしか出来ませんけど……」

 

 

 一夏に指導してもらったおかげで、一応は家事が出来るようになった虚だが、本人が言うようにハイレベルな事が出来るのは紅茶を淹れるというただ一つだった。それ以外は本音に劣るレベルなのだと……

 

「でも、織斑先生たちの用事って何かしら? 一応半月に一回は遠くから一夏君に会わせてるのよね?」

 

「はい。暴走しないように碧さんを監視につけていますが、一夏さんの姿を見る事は出来ています」

 

「謎の『一夏分』とやらはそれで補給出来ているはずよね……」

 

 

 紅茶を飲み終えて、刀奈は一人で職員室に向かった。虚は刀奈が処理した書類の山を整理する仕事が残っていると言って同行を拒否したのだ。

 

「失礼します。織斑先生は……」

 

「更識! 夏休みは我々も一夏と交流させろ! いや、させてください!」

 

「これ以上生殺し状態は耐えられない! わたしたちも一夏と喋りたい! 触れ合いたい! ペロペロしたい!」

 

「……最後がおかしいですが、一夏君が許可するのでしたら良いですよ」

 

「「本当だな! よし、今すぐ確認しろ!」」

 

「……分かりました」

 

 

 織斑姉妹の勢いに圧倒されながら、刀奈は携帯を取り出して一夏に繋いだ。

 

『何でしょうか』

 

「夏休み、一日でも良いから織斑姉妹と交流出来ないかな? 何だか怖いんだけど……」

 

『でしたら、篠ノ之博士と会って話す機会がありますから、それに同行する形なら良いですよ』

 

「……ですって?」

 

 

 自分の横で聞き耳を立てている織斑姉妹にそう告げると、それでも構わないという返しを受けた。刀奈は一夏にその事を告げ、電話を切ったのだった。




かなり危ない状況に……

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