暗部の一夏君   作:猫林13世

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合格間違い無しでしょうけどね


刀奈の受験

 現役の国家代表が受験すると言う事で、IS学園は普段より落ち着きが無かった。この時期は特例として実家に戻ってもよいとされているのだが、日本代表更識刀奈を生で見ようと殆どの生徒が帰宅せずに寮に残っていた。

 

「凄い人気ですね、お嬢様は……」

 

『それだけモンド・グロッソ優勝という実績は大きいのでしょう。普段の刀奈さんを知る虚には分からないでしょうが、世間から見れば「更識刀奈」はカリスマと言っても差し支えないくらいの人気なのですから』

 

「実力者ですからね……まぁお陰でこうして丙と普通に会話していても誰も気にしない状況が出来あがったのですがね」

 

 

 見学の為に殆どの生徒はアリーナへと移動しており、普段から来客の少ない生徒会室は完全に虚一人の空間になっているのだ。僅かに残っている生徒も、今日はわざわざ生徒会室に訪れるような事は無いだろう。

 

『どうやら去年は貴女が注目されていたようですよ』

 

「私が? 国家代表でも無ければ候補生でも無い私が何故……」

 

『更識の企業代表、それだけでも注目されるのに十分だと思いますけどね』

 

 

 丙と会話しながら、虚はモニターの電源を入れた。そこに映し出されたのは、山田真耶と戦っている自分の主だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モニター室での観戦を余儀なくされた碧には、今年はもう一つ重大な任務が言い渡されていた。その任務とは――

 

「何故私たちまでここで観戦しなければならないのだ!」

 

「そもそも真耶や紫陽花よりわたしたちが実力を見てやった方が良いと思うぞ」

 

「……貴女たちと戦わなきゃいけないって分かったら、受験生全員落ち込むわよ」

 

 

――同じく元日本代表の織斑姉妹の見張りだった。

 碧相手でも自信喪失を心配されるのだから、織斑姉妹と戦わなければいけないとなればこれはもう確実だろう。碧はまだ手加減や隙を見せたりと言った遊び心を持って挑めるだろうが、織斑姉妹が担当すれば一切の容赦なく叩きのめす未来しか碧には見えなかったのだった。

 

「もし我慢出来ないのなら、来年受験予定の一夏さんに会わせませんよ?」

 

「それは困る! 一夏に会えないなど耐えられない苦痛だ!」

 

「学園の至る物を壊してしまっても仕方ないくらいの苦痛だ!」

 

「……壊していい理由なんて無いわよ」

 

 

 事実、一夏に会えなくて織斑姉妹は訓練機を数機壊しかけた事がある。授業に託けて生徒相手に暴れ、その生徒を再起不能ギリギリまで追い込んだのをフォローしたのは碧なのだ。

 

「あの訓練機だって、更識の技術者が修理してくれたおかげで使えてますけど、下手をすれば貴女たちが弁償しなきゃいけなかったんですからね」

 

「分かってるさ。あの程度なら問題ないという事だろ?」

 

「わたしも千冬も、あの程度で良いならいくらでも出来るからな!」

 

「やるなと言ってるんです!」

 

 

 そう何度も修理させられなきゃいけない一夏の心労を考えると、これ以上織斑姉妹を暴走させるのはマズイと碧は判断した。かといって一夏に会わせるなど簡単に出来るはずもなく、碧は携帯を取り出して一夏に繋いだ。

 

『はい? 何かありましたか?』

 

「一夏さん、少し時間大丈夫?」

 

『問題ありませんが、何か……』

 

「「一夏だと!?」」

 

『納得しました』

 

 

 背後から聞こえてきた姉妹の声に納得した一夏は、詳しい事情を聞く事無く諦めた声を出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 受験している人間からしてみればその一瞬は長く感じるが、その他の人間からしてみればあまり変わらない一瞬だ。刀奈の受験が終わり更識の屋敷では一夏が蛟のメンテナンスを行っていた。

 

「お姉ちゃん、最近メンテナンスしてなかったんだってね?」

 

「ちょっと忙しかったし、蛟と相談しながら使ってたわね」

 

「ダメですよ。ちゃんとメンテナンスしなきゃ。一夏さんだから問題無く修理出来ますけど、余所で異常が見つかっても修理出来ないんですから」

 

 

 更識製のISは、訓練機ならば普通の業者でも修理出来るくらいには技術が発展したが、専用機を修理しようとしても他の人間には手に負えない部分が多く存在しているので、定期的にメンテナンスしておかなければ、いざ実戦という時に異常が見つかっても修理が出来ない代物なのだ。だから更識所属の代表、及び候補生は定期的に実家に帰る事が認められているのだが。

 

「受験と交流会とかで忙しかったのは知ってるけど、ISだって休ませてあげないと」

 

「虚さんも半月に一回のペースで屋敷に戻ってきてますし、刀奈お姉ちゃんもそのくらいのペースでメンテナンスに出さなければマズイんじゃないですか? 虚さん以上にISを動かす機会が多いんだから、それ以上のペースの方が良いとは思うけど」

 

「IS学園に入学すれば、少しくらい余裕が出来ると思うわ。だからそうなったら週一くらいのペースで屋敷に戻ってくるわよ。もちろん、週末に予定が無ければだけどね」

 

 

 モンド・グロッソは行われない代わりに、各国の代表を交流会と称して結構な頻度で集められ戦う事になっている。これはIS戦闘力を競うのではなく、ISの開発技術を競う方向に変わったからなのだが、更識企業を除けば、何処の国も拮抗した技術成長を見せていたのだった。

 

「フランスが少し遅れてるっぽいけどね」

 

「でも、まだ何処の国も安定して第三世代を供給する事は出来ていないんでしょ? フランスにはデュノア社があるし、ラファールの改良に成功したってニュースを見たけど」

 

「あれは、一夏君がラファールの設計図をデュノア社に貸したからよ。それなりの見返りを要求しても良かったと思うんだけど、一夏君はそういった事に興味ないみたいでね」

 

「でも、データは回収したんでしょ?」

 

「コピーも出来ないように加工してたから、もう一度造ろうにも成功例を分解して造るしかないんだけどね」

 

 

 意外としっかり対策していた一夏に、簪と美紀は納得の表情で刀奈の言葉を聞いていたのだった。




漸く、漸く原作が見えてきた……

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