暗部の一夏君   作:猫林13世

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彼女の処遇はいったい……


織斑マドカ

 派手に暴れる少女をモニターから確認していた束は、ついついその少女を自分の親友に重ねてしまっていた。

 

「ちっちゃいちーちゃん……なっちゃんにも似てるけどやっぱりちーちゃんの方に似てるなー……いっくんも自由にして良いって言ってたし、あんなことやこんな事も……実際のちーちゃんたちには出来ない事でも、この子になら出来そうだしねー」

 

 

 束から見た少女――織斑マドカの戦闘力は千冬や千夏と比べても数段落ちていると感じられていた。それこそ、一夏でも対抗出来るのではないかと思うくらいに……

 

「まぁ、いっくんは争い事が嫌いだからねー。多分この子に襲われても逃げるだけだろうし……そんな事よりも、そろそろ罠が発動する頃だね!」

 

 

 モニターを見ながら、束はその瞬間を待ちわびていた。自分の研究施設が破壊されているのにニコニコしていたのは、そのような罠が張り巡らされているからだった。

 

『クッ! 何だこれは! クソっ!』

 

「はい、侵入者一名様ごあんなーい! それでは早速ご対面と行こうかな~」

 

 

 あっさりと罠に嵌り、束が操作する機械に連れられて織斑マドカは束のいる部屋へと運ばれていく。その姿を確認しながら、束は扉が開くのを待っていた。

 

『何処へ連れて行くんだ! 私は篠ノ之束に用があるだけだ!』

 

「だからその束さんの前に運んであげてるんだよ~、小さいちーちゃん」

 

 

 モニターから騒がしい声が聞こえ、その声が扉の向こう側へ到着したのを確認して、束は扉を開けるスイッチを押した。

 

「ようこそ、侵入者さん。私が天才束さんだよ~、ハロー!」

 

「貴様が篠ノ之束……お前を殺すのが私の仕事だ」

 

「うーん……ちーちゃんやなっちゃん、そしていっくんの妹とは思えないほどおバカさんだね~。それこそ、箒ちゃんといい勝負が出来るんじゃないかってくらいのおバカさんだよ~」

 

「私をあいつらと同じに思うな! 私は私だ!」

 

「うんうん、小さいころから優秀な姉や兄と比べられて来たんだもんね~。それが嫌であのクズたちについて行ったのに、結局捨てられてまた比較される事になるなんて」

 

 

 一夏から聞くまでも無く、束はマドカの事を知っていた。だが、彼女が亡国機業に属している事や、自分を狙っている事は束は知らなかったのだった。

 

「IS業界において、織斑千冬・千夏姉妹と織斑一夏――今は更識一夏だけど、その三人を知らない人間はいない。世界最強の姉妹と男で唯一ISを動かせる少年、その妹ってだけで過度な期待をされるのは辛いんでしょ?」

 

「……お前がISなんてものを造らなければ、私はあの人たちと比べられる事は無かった。だから私は仕事など関係なく貴女を殺す」

 

「本来の任務は、束さんを捕まえる事。でも君自身の感情では束さんを殺したい……成る程、いっくんが束さんの自由にして良いって言うわけだ」

 

 

 マドカと対面して、束は一夏が処遇を一任してきた理由が分かった。一夏もマドカの事を知っており、そして兄として想っていたのだろうと。

 

「君、束さんの助手にならない? 今なら専用機も用意するよ?」

 

「何をバカな……私はお前を殺しに来たんだぞ」

 

「でも、君じゃ束さんを殺せない」

 

「ば、バカに――ッ!?」

 

「この程度の動きについてこれないんじゃ、束さんはおろかいっくんも殺せないよ。まぁ、いっくんを殺そうとしても、怖いお姉さんたちが現れるだけだけどね。もちろん、束さんも許さないけど」

 

 

 一瞬でマドカの背後に回り込み、そして首筋にナイフを突き付ける束。これ程衝撃的なパフォーマンスも無かっただろう。

 

「……例え私を助手にしたところで、別の亡国機業所属のヤツが来るだけだ。私はあの場所で最弱の存在なんだから」

 

「そこは、束さんの知り合いに頼んで君は死んだとその組織に伝えてもらうのさ~。いくら最弱の存在である君だからと言って、束さんの戦闘力を知らしめる事は出来るだろうしね。君は最弱って言ってたけど世間では結構強い部類だと思うしね」

 

「……だが、何時までも隠し通せるとは思えない」

 

「そんなの、日本政府でも脅してIS学園に入学させればいいのさ! あそこは何処の国も不可侵だからね」

 

「亡国機業は国では無い。不可侵とはいえ関係なく攻め込める」

 

「ほんと、君はおバカだね~。君が入学するのは一年半後。いっくんたちと同学年になるのさ。そうすればいっくんも、ちーちゃんやなっちゃんも君の事を守る事が出来る。亡国機業だろうが国だろうが、武力と知力でいっくんやちーちゃんたちに敵う相手なんていないよ。それに、束さんもバックアップするしね~」

 

 

 頷けば身の安全と専用機が手に入り、首を左右に振れば命を失うと分かっている状況で、後者を選ぶ人間が果たしているだろうか。マドカは一種の諦めを持って頷き、束の庇護下に入る事を承諾した。

 

「よーし! それじゃあまーちゃんの専用機を考えないとね~」

 

「ま、まーちゃん?」

 

「ちーちゃんやなっちゃんの妹なんだし、それで良いでしょ? 束さんが認識出来る五人目の人間だよ~」

 

「……それで、専用機と言うのは?」

 

「う~ん……暮桜と明椛の性能を受け継いだ第三世代型ISを計画してるんだけど、それで良いかな?」

 

「構わない。私はあの二人を超えなければいけないのだから」

 

 

 マドカの覚悟を確認した束は、その後三日間研究部屋に篭った。その間にマドカが逃げ出すなど微塵も思っていなかったようで、マドカはかなり拍子抜けな気分を味わったのだった。

 

「……織斑千冬、織斑千夏、そして更識一夏。私は三人の偉大な姉と兄を超える」

 

 

 一人取り残されたマドカは、そんな事を宣言していたのだった。




専用機の内容は後ほど……

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