新入生主席としてIS学年に入学を果たした虚は、学園最強の称号である生徒会長の座を一週間で手に入れた。一夏が造った専用機、丙の力も多分にあったが、普段から努力を積み重ね、国家代表である刀奈と渡り合えるだけの実力を有していた為に、それは実にあっさりと手に入れられたのだった。
『刀奈さんが入学するまでは、貴女が生徒会長ですね』
「(お嬢様が大人しく会長職に収まるか分かりませんけどね)」
苦笑いを浮かべながら生徒会長の仕事をこなす虚は、とても新入生には思えないほどの貫録を持ち合わせていた。入学式まで更識の仕事を手伝っていたおかげか、虚の書類整理のスピードは並みの高校生では太刀打ちできないほどに成長していた。
「失礼するわね」
「碧さん、何かありましたか?」
「織斑姉妹が一夏君に会わせろって暴走しかけてるの。停めるの手伝ってくれない?」
「私では織斑姉妹に太刀打ちできませんよ。碧さんだけで頑張ってくださいって」
「それは私に死ねと言ってるの? 私だって二人同時は無理よ!」
入学し、生徒会長の座についてからこのようなやり取りは何度目だろうと、虚はため息を吐きたくなっていた。しかしため息を吐いたところで何かが解決されるわけでもないので、渋々生徒会室から職員室へ向かい、碧と二人で織斑姉妹の暴走を停めるのだった。
二年生に進級しても、一夏は簪と美紀、そして本音と同じクラスだった。偶然で片付けて良いのだろうかと一夏は思っていたが、別に不自由があるわけではないので追及はしなかった。
「一夏、お姉ちゃんが呼んでるよ」
「刀奈さんが? 何か用なのか?」
「受験の事じゃない? お姉ちゃん最近忙しかったし」
第三回モンド・グロッソに向けて世界中が開催国を狙っているので、その国の代表もあちこちと飛び回る日々を送っていた。刀奈もその一人で、つい先日までヨーロッパ各国でその国の代表と模擬戦を行う羽目に陥っていたのだ。
「久しぶり、一夏君。早速だけど今日の夜、勉強教えてくれない?」
「別に構いませんが、髪の毛跳ねてますよ?」
「大急ぎで空港から来たからね。学生のスケジュールを考えて欲しいわよ」
「刀奈さんは学生の前に国家代表ですからね」
「国家代表の前に学生なんだけど?」
中学校は義務教育であり、何においても優先されるべきだと刀奈は主張したのだが、国の威信を背負っているのだから、義務だの何だの言う前に責務を果たせと言われたのだった。これには一夏たちも刀奈に同情したのだった。
「幸いにしてゴールデンウィークは暇ですからね。みっちりと勉強を見てあげますよ」
「……そう言えば私、課題があったんだった。またね、一夏君!」
「逃げても家で会うんですけど?」
一夏の言葉に、刀奈はガックリと肩を落として自分の教室まで戻って行った。その背中は、物凄く哀愁が漂っていたと一夏には見えた。
織斑姉妹が日本に戻って来たのを、篠ノ之束はハッキングした衛星から観察していた。今のところ一夏に害をなす行動はしていないので、束もただただ千冬と千夏を観察するだけにとどめていた。
「ちーちゃんとなっちゃんに会いに行こうかなー? でも、有象無象が騒がしくなりそうだし……およ? いっくんから電話だ」
ここ最近頻繁に電話する事も無くなった相手からの電話に、束は考えていた事を一旦全て放り出して電話に飛びついた。
「もすもすひねもすー? 何かないっくん」
『とある組織が束さんの事を狙っていると報告があったので。それと、織斑姉妹にそっくりな少女がその組織内にいるとの情報も』
「ちーちゃんとなっちゃんにそっくりな少女? 凄く興味があるんだけど、詳しい情報は無いのかな~?」
束が興味を示したのが意外だったのか、一夏は少し間を空けてからその少女の情報を伝え出した。
『名前は織斑マドカ。これが本名なのかは確認出来ていません。所属は「
「写真があるの?」
『送りましょうか?』
一夏からの提案に、束は二つ返事で答えた。千冬と千夏の子供の頃と似ているのかもしれないと思うと、束のテンションはどんどん上がって行った。
「どれどれ~、これが『織斑マドカ』か~。確かにちーちゃんとなっちゃんの子供の頃にそっくりだね~」
『貴女がそう言うなら、おそらくそうなのでしょう。何せ俺にはあの二人の記憶がありませんから。それで、ここからは貴女に頼みたいのですが、織斑姉妹と織斑マドカの関係を調べていただけないでしょうか?』
「何で束さんに? いっくんの方が情報収集能力高いでしょ?」
『何故って、貴女を襲いに来る相手が彼女だからですよ。捕まえて訊問するなり、薬を使って吐かせるなり好きにしてください』
「相変わらず黒い事をさらりと言うね~。そこがいっくんのカッコいいところだと束さんは思うよ」
『……何となくですが、面倒な展開になりそうな予感がしてます。束さん、お気をつけて』
それだけ言って一夏は通信を切った。丁度そのタイミングで、束のラボに不審者が侵入したのだった。
「いっくん、もしかしなくても分かってたね。これはまたデートしてもらわないと割に合わないな~」
何処か楽しそうにモニターをラボの監視カメラに切り替えた束は、少女の姿を確認して発狂した。
「こ、これは……子供版ちーちゃん! この子にあんなことやこんなことをしていいなんて……さすがいっくん!」
既に捕まえた後の事を考えている束、そんな束を探しながら、織斑マドカなる少女は束のラボを破壊していくのだった。
マドカはヒロインになれるのか……