暗部の一夏君   作:猫林13世

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主だった出来事は、鈴の帰国くらいかな?


受験の準備

 IS学園の入試というのは、筆記試験の他に実技試験もある。割合的に言えば、実技試験重視なのだが、IS学園は一応高校扱いなので筆記試験もやらなければならないと政府から通達されていたのだった。

 

「IS乗りを目指す子は、最低限の知識と教養は持ち合わせてると思うんですけどね」

 

「そうね……私たちみたいに専門機関や参考書が無かった時ならまだしも、今はISの専門機関も参考書もあるんだからね」

 

「ですが、やっぱり高校生なんですから、勉強は大事だと思いますよ?」

 

「真耶は真面目ねぇ……」

 

 

 高校時代、勉学が嫌いだった碧は真耶に感心したような眼差しを向けた。嫌い=苦手ではない所が、碧の凄いところなのかもしれないが……

 

「そう言えば、更識関係者が試験を受けるという噂を耳にしたのですが、本当何ですか小鳥遊先生」

 

「ああ、虚ちゃんね……布仏虚ちゃん。更識家に仕える布仏家の長女で、更識企業の企業代表を務めてる子よ」

 

「そうなんですかー。企業代表って事は、相当強いんでしょうねー」

 

「そうねぇ……日本代表の刀奈ちゃんには敵わないっぽいけど、それに準ずる強さは持ち合わせてるわ。それに、ISの知識もね」

 

 

 ここで虚に知識を教えているのが一夏だとバラさない辺り、碧は弁えていると言えるだろう。もし本音だったら、あっさりと一夏の方が知識量が豊富だとバラしたかもしれないが……

 

「更識家は優秀な人が多いんですねー。代表の更識さんも、もちろんですが候補生の妹さんと四月一日さんもなかなか強いと聞きましたよ。それに、男の子でISが動かせる一夏君もいますし、更識は世界中から注目されてますよね」

 

「前にも言ったけど、あんまり表の世界で注目されちゃマズイんだけどね」

 

「まぁまぁ、小鳥遊先生。細かい事は気にしちゃダメですよ」

 

「細かくないわよ、紫陽花……」

 

「実技試験の担当は私と五月七日先生で受け持ちますので、小鳥遊先生は試験官をお願いします」

 

「私も実技担当が良いんだけど」

 

「小鳥遊先生相手だと、受験生が自信喪失しますので」

 

「あっそ……加減くらい出来るんですけど?」

 

 

 何だか織斑姉妹と同列にみられた気がして、碧は機嫌を損ねた。もちろん、真耶にそんな意図は無く、純粋に碧相手だと加減されても勝てないと知っているからこその発言だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園入試当日、虚は朝から緊張していた――などと言う事は無く、むしろ周りの刀奈の方が緊張していた。

 

「準備出来てるわよね? 受験票は持った? 筆記用具は? それから――」

 

「お嬢様、私は本音ではありませんので」

 

「ほえ?」

 

 

 引き合いに出された本音には伝わらなかったが、その一言で刀奈は冷静さを取り戻したのだった。

 

「ISの勉強もだけど、普通教科もあるんですよね? 虚さんなら大丈夫だとは思いますが」

 

「中学でも上位だもんね、虚さん。企業代表であちこち飛び回って学校休みがちなのに、何時勉強してるんだって愚痴ってる先輩がいるって聞いたけど」

 

「時間がある時に家で勉強してるんですよ。分からない個所があったら先生に聞いたり、一夏さんが分かる場合は一夏さんに聞きますし」

 

「一夏君、一年生なのに三年生の範囲が分かるの?」

 

「少しは、ですけどね。全部は分かりませんよ」

 

 

 実にリラックスした空気が流れているが、何時までもグダグダでは虚も気合いが入らないだろうと考慮し、一夏が無理矢理真面目な空気を纏った。

 

「虚さん、落ち着いて受ければ間違いなく合格出来るでしょうし、無駄に力まず、適度にリラックスして頑張ってください」

 

「ありがとうございます。更識の名に恥じぬよう頑張ります」

 

 

 笑顔でIS学園に向かう虚を見送り、一夏たちも学校の用意を始める。ちなみに、本音は途中から居眠りをしてたので、一夏に叩き起こされた。

 

「ほえっ!?」

 

「静かだと思ったらまったく……俺たちも普通に学校なんだからさっさと支度しろ。何時まで寝間着なんだよ……」

 

「一夏、本音のお兄ちゃんみたいだね」

 

「言えてますね」

 

「勘弁してくれ……」

 

 

 冗談で言った簪と美紀だったが、あまりにも的を射ている表現だと刀奈は思っていた。自分より年下だが、刀奈も一夏の事を兄だと思わされる場面が多々ある事を自覚しており、自分より子供っぽい本音に対しても兄っぽいところが見て取れてもおかしくないと思ってしまったのだった。

 

「そういえば、来年から織斑姉妹がIS学園に赴任するんじゃ……」

 

「ああ、あの人たち……ドイツで好き勝手やってるってこの間報告がありました」

 

「誰から?」

 

「篠ノ之博士」

 

 

 一夏と束は情報を共有する為に、割と頻繁に連絡を取り合っていた。束からはドイツにいる織斑姉妹の情報や、怪しい動きをしている国が無いかの報告。一方の一夏からの情報は、束を探そうとしている集団がいる事や、その集団が何処にいるかなどを報告している。

 互いに自分でしようと思えば出来るだけの技術力を有しているのだが、何分互いに互いがもたらしてくる情報、ならびにその相手に興味が持てないのだ。だからそれを互いが補っているのだ。

 

「ドイツって言えば、この間模擬戦をしたドイツ代表、かなり強かったわよ」

 

「織斑姉妹が指導した相手なら、お姉ちゃん相手でも結構戦えるんだね」

 

「まぁ、一夏君が造ってくれたこの蛟を使って、負けるわけにはいかないんだけどね」

 

 

 盛り上がっている刀奈・簪姉妹を他所に、一夏はIS学園の方角に視線を向けた。いずれ自分も通う事になるであろう場所に、実の姉が赴任するとなると「一夏分」なる物を補給させろと迫り寄ってくるのではないかと、今から不安に思うのだった。




鈴の転校、刀奈の受験とやって一夏たちの受験ですかね。100話までには本編に入れれば良いな……

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