暗部の一夏君   作:猫林13世

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口は災いの元……


戒め

 一通り遊んでから、今度は簪提案のゲーム大会が行われる事となった。当然、簪にはハンディをという声が多くあがったが、今回は全員平等にと言う事になった。実力差がある時点で平等では無いのだが、そこは気にしない方向で話は進められていた。

 

『一夏さんって苦手があったんですね』

 

「(当たり前だろ? 闇鴉は俺をなんだと思ってるんだ)」

 

『そうですねぇ……完璧超人?』

 

「(そんな人間は存在しない!)」

 

 

 闇鴉の意見に、この部屋にいる全ISが同意を示したが、一夏はそれを力強く否定した。

 

「木霊? 何を言ってるの?」

 

「蛟も……いきなりどうしたのよ?」

 

「丙? 何かあったのですか?」

 

「金九尾も光白孤も……」

 

「何を急に……」

 

「土竜もどうしたの~?」

 

 

 それぞれの専用機の言葉しか聞こえない六人――簪と美紀は互いのISの声も聞こえるが――は、急に同意の言葉を放った専用機に不審の眼差しを向けた。だが、ただ一人全てのISの声が聞こえている一夏は、やれやれと首を左右に振ってから事情を説明する事となった。

 

「ちょっと闇鴉と会話をしていて、その中で出た言葉に他の子たちも同意しただけだ。詳しい内容は専用機に聞くか気にしないでくれ」

 

「一夏君は全てのISの声が聞こえるんだったわね……なるほど、それで一夏君だけ驚かなかったのか……」

 

「それで? 結局なんのゲームをするんだ?」

 

「このまだ封を切っていない新しいゲーム。これなら実力差も対してないでしょ?」

 

「さぁ? 俺や虚ちゃん、碧お姉ちゃんは普段からゲームしないから、その辺りに差が出るんじゃ……って! いい加減普段の呼び方に戻していいよな?」

 

「「「「「「ダメ(です)(だよ~)」」」」」」

 

「……何で息ピッタリなんですか」

 

 

 全員が示し合せたように同じタイミングで答えたので、一夏はとてつもない疲労感に襲われた。迂闊な発言で酷い目に遭ったと、一夏は今日一日の出来事を戒めとし、今後に生かそうと考えていた……現実逃避気味に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏の発表から暫く、鈴たちの周りも騒がしくなったが、知らぬ存ぜぬで押し通した結果少しは静けさを取り戻していた。

 

「しかしよー、鈴もしらねぇんじゃ俺たちだって知らないって分からないもんかね?」

 

「そんなの俺が知るわけ無いだろ。だいたい、弾は女子に話しかけられて鼻の下を伸ばしてただろ」

 

「それはオメェも同じだろうが!」

 

「はいはい、やかましいから黙りなさいよね、ったく。何でアタシにはこいつらのお守をしなきゃいけないって空気が流れてるのよ」

 

「それは、鈴さんに同性の親しい人がいないからではないでしょうか?」

 

「蘭……アンタ言うようになったわね」

 

 

 せっかくの休日だと言うのに、鈴は何時もの二人と蘭を加えた四人で遊んでいた。場所は五反田家だ。当然の如く一夏も誘おうという流れになったのだが、このタイミングで一夏と接触したら、また色々と面倒になると考えて今日は一夏を誘わなかった。それが蘭の不機嫌の理由だと鈴は思っていた。

 

「だいたい、蘭だって友達いないじゃないのよ! アタシ、アンタがアタシたち以外の人と遊んでる場面なんて見た事無いわよ?」

 

「それは鈴さんの前で遊んでいないからですよ。私にはちゃんと同性の友達がいます、沢山」

 

「何故沢山にアクセントを置いた? それはアタシに対する宣戦布告と受け取って良いのね?」

 

「まぁまぁ、落ちつけよお前たち」

 

「「弾(お兄)は黙ってて!」」

 

「あっはい……」

 

 

 仲裁に入った弾だったが、鈴と蘭の迫力に負けてあっさりと引き下がった。そんな弾の姿を見て、数馬が苦笑いを浮かべた。

 

「やっぱり弾はヘタレだな……これが一夏だったらあっさりと仲裁に成功しただろうに」

 

「じゃあオメェがやってみろ! 出来るもんならな」

 

「俺は別に鈴と蘭が騒がしくても問題は無い。厳さんに怒られるのは弾だからな」

 

 

 数馬の言う通り、鈴と蘭が騒がしくても、怒られるのは弾なのだ。理由は多々あるが、一番の理由として厳は蘭を溺愛しており、その友人であると思われている鈴も怒る事が難しくなっている。そこで一番怒り易く、二人に関係している人間を選べば、当然弾と言う事になるのだ。

 

「爺ちゃんも理不尽だよな……騒いでるのは蘭と鈴だって言うのによ……」

 

「お前んちでお前の妹が騒いでるんだ、兄として甘んじて説教されろ」

 

「お前、バカなんだから難しい言葉を使うなよな」

 

「なんだと!」

 

 

 弾と数馬も言い争いを始め、結局弾が厳に怒られるのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから暫く時が経ち、いよいよ虚のIS学園入学試験の日が近づいて来ていた。IS学園の最大のスポンサーである更識の人間で、その更識企業で企業代表を務めている虚は、合格確実と言われているが、本人はその事で油断する事は無かった。

 最近は一夏も忙しくて疎かになっていたIS講座も、受験が近づいてきた事を受け再開するほど、虚は受験に対して本気だった。

 

「――ここまでで何か質問はありますか?」

 

「いえ、問題ありません」

 

「では続きを……っと、もうこんな時間でしたか。今日はこれまでとしましょう」

 

 

 学校から帰ってきて、一夏は当主としての仕事もしている。その仕事を終えてから虚の勉強に付き合っていたら、当然の如く夜遅くまでかかってしまう。その所為で最近一夏は刀奈たちとまともに会話もしていなかった。まぁ、刀奈や簪、美紀は代表合宿で屋敷を空ける事が多いし、本音に至っては次のテストで赤点なら補習というところまで追い込まれているので、今更ながらに必死になって勉強をしているので、一夏が例え暇だったとしても会話をする機会は多く無かっただろう。

 

「いよいよ来週ですね。自信の程はどうです?」

 

「油断はしませんけど、一夏さんのおかげで、合格は間違いないと思えるくらいにはありますよ」

 

「俺が手伝わなくても、虚さんなら合格間違い無しだったと思いますよ」

 

「一夏さんにそう言ってもらえるのなら、大丈夫でしょうね」

 

 

 二人っきりでいても、この二人は変な事をしようなんて思わない。これが刀奈なら、一夏にちょっかいを出そうとか考えるのだろうが、根がまじめな二人は、ただただ勉強をするだけだった。虚が一夏の事を想っている事は、互いに気にしないようにしていたのだ。




次回大分飛ぶ予定です

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