暗部の一夏君   作:猫林13世

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休日の計画

 あっさりと決まったとはいえ、候補生として簪と美紀は経験が浅い。更識の屋敷で訓練を積んでいるとはいえ、候補生の訓練はまた別物だった。

 

「まさかお姉ちゃんと戦うはめになるとは……」

 

「しかも二対一で刀奈お姉ちゃんは涼しい顔してるし……」

 

「ほらほら~。せっかくの第五世代が泣いてるわよ~」

 

 

 光白孤と金九尾は第五世代で蛟は第三世代。世代差だけで言えば圧倒的に簪・美紀ペアの方が有利であるのに、ここはやはりモンド・グロッソ覇者、世代差をものともしない戦いっぷりで二人を圧倒していた。

 

「お姉ちゃん、近接でも遠距離でも有利に立てないなんてどんな戦い方してるの」

 

「これでも織斑姉妹とある程度は戦えたんだから。候補生の二人には遅れは取らないわよ」

 

「なるほど、あの二人と戦った経験があるから、刀奈お姉ちゃんは強いんですね」

 

「だって、強くならないと死んじゃうから……」

 

 

 あまりにも実感のこもった刀奈の言葉に、簪と美紀は思わず顔を見合わせた。それが決定的な隙となり、二機同時にSEをゼロにされてしまった。

 

「油断大敵よ♪」

 

「お姉ちゃん、ズルイ……」

 

「まさか普通に会話してるところを攻撃してくるとは……」

 

「まだ戦闘は終わって無かったんだから、気を抜いた二人が悪いのよ」

 

 

 刀奈が言っている事の方が道理だったので、簪も美紀も何も反論出来なかった。候補生として、ペアとして訓練を積んでいるとはいえ、やはり刀奈の経験の方が圧倒的に多いのだった。

 

「それにしても、一夏君は今日篠ノ之博士とデートか……羨ましいわね」

 

「明日は一夏も一日中屋敷にいるらしいし、私たちも帰れるんだから」

 

「まぁ、一夏さんが一日中屋敷にいたとしても、私たちと会うかどうかは分からないんですけどね……」

 

「今は大丈夫じゃない?」

 

 

 一通りの専用機の製造、及びバージョンアップの為に研究室に篭りっきりだった一夏も、その作業を一段落させている。だからこその束とのデートなのだが、更識家で生活する少女たちにとって、ここ最近一夏との時間が減ってしまっている事には変わりは無かったのだった。

 

「明日は虚ちゃんもいるし、珍しく碧さんも戻ってくるようだしね」

 

「月曜日に研修とかで政府に呼ばれてるらしいからね。学園から向かうより屋敷から向かった方が近いらしいよ」

 

「刀奈お姉ちゃん、何か悪い事考えてる?」

 

「皆がハッピーになれる事よ」

 

「……何となくだけど、一夏は疲れそうな予感がする」

 

「簪ちゃんも? 実は私もそう思ってるんだけど……」

 

 

 刀奈が言った「皆」に、一夏が含まれていないような気がしてならない簪と美紀は、揃ってため息を吐いて一夏の身を案じたのだった。だが、刀奈の計画を止めようとはしなかった辺り、簪と美紀も同罪なのかもしれない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 束とのデート(その実、人気の無い場所での散歩)を終えた一夏は、なるべく人気の無い場所を選び屋敷へ戻って来た。一躍時の人となった一夏は、外出する際には誰かしらの護衛を付け、そしてなるべく人目につかないように目的を果たしてきた。そして今日も、人気の無い場所での歓談を楽しみ、そして無事に更識の屋敷へと戻ってきたのだった。

 

「あら、一夏さん」

 

「碧さん? あぁ、研修って明後日でしたっけ?」

 

「そうなんですよね。何で私なのか疑問なんですよ。代表合宿経験者を呼ぶんなら、別に真耶でも紫陽花でも良いと思うのに」

 

「碧さんは元代表ですからね。しかも織斑姉妹と並んで、無傷で世界の頂点に立った人ですから」

 

「それなら刀奈ちゃんでも良いじゃないのよ……何で私が」

 

「刀奈さんは学校がありますから。碧さんも学校はありますが、教師と生徒の立場から碧さんを呼んだんだと思いますよ」

 

 

 一夏の完璧に近いであろう考えを聞き、碧はガックリと肩を落とした。自分でも薄々感づいていた事だが、一夏に言われるとそれが正しいと認めるしか無くなってしまうと分かっていたのにも関わらず愚痴を言ったので、碧の精神的疲労は倍増している。

 

「面倒なんですよねー。バッくれようかしら」

 

『そんな事をしたら更識とIS学園に迷惑を掛ける事になるんですよ? 分かって言ってます?』

 

「分かってます……冗談なんだから本気で怒らないでよ」

 

「良かった。木霊との関係は良好なようですね」

 

『私は色々と文句を言いたいですが、言っても右から左、ですからね……馬耳東風とでも言えば良いのでしょうか?』

 

「ちゃんと聞いてるじゃない! 偶に聞き流すけど」

 

「聞いて無いじゃないですか……まぁ動作に不備が出ない程度なら俺は注意しませんがね」

 

 

 碧と木霊の会話を聞きながら、一夏は苦笑いを浮かべていた。自分の専用機である闇鴉とは、さほど会話をしない一夏にとって、二人(?)の関係少し羨ましいところなのだろう。

 

『ところで一夏さん、先ほどからコアを通じて闇鴉が文句を言ってきているのですが、何とかしてください』

 

「文句? いったい何が不満なんだ?」

 

 

 木霊から専用機が不満を感じていると聞かされ、一夏は闇鴉に話しかけた。

 

『だって、木霊とばっか話して、私とは全然話してくれないんですもん! 偶には話しかけて下さっても良いじゃないですか! それを一夏さんは……』

 

「あんまり話す事も無いだろ? 不備があれば自分で気づけるし、日常会話の相手に困る程、俺はコミュ症でも無いつもりだ」

 

『そう言う事じゃありません! 少しは私と話して下さい!』

 

「……善処しよう」

 

『約束ですからね!』

 

 

 思わぬところで専用機との溝を感じた一夏は、なるべく闇鴉と会話をしようと思ったのだった。




一夏に気の休まる時間はあるのだろうか……

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