暗部の一夏君   作:猫林13世

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まぁ、当然の反応だな……


翌日の騒動

 一夏の発表の翌日、一夏の想像通り中学に到着するや否や一夏の周りには人だかりが出来た。同級生だけではなく、上級生や教員、中には見覚えの無い大人も混じっていた。

 

「特に何も話すつもりはありません。マスコミ関係の方はお帰り下さい」

 

「えっ、マスコミ?」

 

 

 一夏が見覚えの無い大人にそう告げると、周りの生徒や教師たちは一斉にマスコミ関係の人間に視線を向けた。その隙に、一夏は人ごみをスルリと脱け出して教室へと向かう。一夏同様に虚、刀奈、簪、美紀は人ごみを脱け出したが、残念な事に本音は人ごみに呑まれてしまったようだった。

 

「世話の焼ける護衛だ……」

 

「ほ、ほえ~……いっちー、ありがとう。助かったよ~」

 

「護衛される側が、護衛する側を助けるのって、何だかおかしいわよね」

 

「まぁまぁ、お姉ちゃん。本音だから仕方ないよ」

 

 

 これまたスルリと人ごみの中に入り込み、本音を見つけ出してあっという間に戻って来た一夏を見て、刀奈と簪がしみじみと呟いた。

 

「やっぱり今日は休むべきでしたかね」

 

「今日休んだとしても、明日、明後日と問題の先延ばしにしかなりませんよ」

 

「そうですよね……」

 

 

 虚の言いたい事は、一夏にも分かっていた。だからではないが、一夏はガックリと肩を落として教室へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全世界同時中継の影響は、何も一夏の学校だけに起こっているのではない。一夏の友人(悪友)として有名な鈴は、教室につくなり複数の視線を向けられて立ち竦んだ。

 

「よう、鈴」

 

「何やってるんだ?」

 

 

 入口で立ち竦んでいた鈴の背後から、残り二人の悪友が顔を覗かせた。そして同時にその顔を引っ込めた。

 

「なる、一夏の事だな」

 

「俺たちを見ても何も分からないってのに」

 

「理屈じゃないんじゃない? あたしたちが一夏と親しかったってのは、小学校が同じ人からすれば周知の事実だし、何か知ってたんじゃないかって思われても仕方ないだろうしさ」

 

「そんなもんかねー? 爺ちゃんも母ちゃんも何も気にする事は無いって言ってたがな」

 

「厳さんと蓮さんみたいな考え方が出来る方が稀なんでしょうよ。普通は気になるだろうし」

 

 

 各言う鈴も一夏がISを動かせるという事実を聞かされた時、本人に電話して確かめようとしたくらいだ。だが実際に電話をする事は無く、一夏の心境を考えて我慢したくらいだ。それくらい一夏が発表した事実は世間に衝撃を与えているのだ。

 

「もしかしたら、俺たちも動かせたりして」

 

「無理でしょ。一夏なら何でもアリっぽいけど、アンタたちじゃね……万年成績低空飛行組のアンタたちじゃ、仮に動かせたとしても座学で断念せざるを得ないわよ」

 

「……言い返せない自分がなんか嫌だ」

 

「でも、一夏はこれでIS学園進学が確実だろ? 女の園だぜ」

 

「うがー! 俺もIS動かして―!」

 

 

 仮に動かせたとしても、女の園に入れたとしても、この二人はモテないだろうなと、鈴は確信した瞬間だった。

 

「今度一夏も誘って遊びに行こうぜ! それでISに触れるチャンスを……」

 

「やめときなさい。電撃でも流されてこれ以上バカになったら大変でしょ」

 

「確かに……って、誰がバカだ誰が!」

 

「アンタら二人よ」

 

「「俺はコイツよりバカじゃねぇ! っ、真似するな!」」

 

 

 ハモったバカ二人を無視して、鈴は自分の席に着く為に教室へと踏み込んだ。何か聞きたくてたまらないような視線には、一切気づかないふりをして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏の発表を衛星中継を通してリアルタイムで見ていた織斑姉妹は、事実確認の為に日本に帰ろうとした。だが、契約期間に日本へ帰る事は許される事無く、仕方なく織斑姉妹はドイツから事実確認を行う事にした。さしあたっては、事実を知っているであろう悪友に電話をした。

 

『もすもすひねもす~?』

 

「お前は一夏がISを動かせる事を知っていたのか?」

 

『当然でしょ~。なんてったって愛しのいっくんの事だもん』

 

「何故わたしたちに教えなかった!」

 

『だってなっちゃん……いや、ちーちゃんもだけど、いっくんがISを動かせると知ったらどうした?』

 

「「当然自慢した!」」

 

 

 見事にハモった姉妹に、束は呆れたのを隠そうともせずにため息を吐いた。

 

『だからだよ。本当は束さんも知った時に発表しようとも思った。でも、いっくんが苦しむような事をもう束さんはしたくなかったんだよ。それに、いっくんにも口止めされちゃったからね』

 

「貴様! 私たちを差し置いて一夏と会っているのか!」

 

『うん。昨日の発表中継だって、束さんが世界の映像媒体を同時ハッキングして世界同時中継にしたんだもん。その打ち合わせの為に、束さんはいっくんの電話番号とメールアドレスをGETしたのだよ』

 

「「な、なんだって―!?」」

 

『ちーちゃんとなっちゃんはいっくんの番号もアドレスも知らないんだっけ? 実の姉なのに、信用されてないね~』

 

 

 事実、一夏に番号とアドレスを聞こうとした二人は、一夏から拒否の回答をされショックを受けた事がある。その事を知っている束だからこそ、このような追い打ちを掛ける事が出来るのだが。

 

『それとー、手伝った報酬として、いっくんと一日一緒にいられる権利も貰っちゃったもんね~』

 

「貴様! その権利を私に寄越せ!」

 

「いや、わたしにだ!」

 

『ダメだよ~。この権利は、「織斑一夏」が「篠ノ之束」にくれた権利だもん。ちーちゃんやなっちゃんにはあげられないもーん!』

 

「? 今の一夏は『更識一夏』だろ?」

 

『さぁ? いっくんの考えは、ちーちゃんやなっちゃんには分からないんじゃない? それじゃあね』

 

「あっ、おい! ……何が言いたいんだ、束のやつ」

 

 

 一夏が「一夏」ではなく「楯無」だという事を知らない二人は、束が含ませた意味を理解する事無く首を傾げ続けたのだった。




相変わらず本音はぼーっとしてる……

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