暗部の一夏君   作:猫林13世

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こんな事が出来るのは彼女だけだ……


全世界同時ハッキング

 発表の準備が全て整い、一夏は束にハッキングを依頼する為に聞いた束直通番号に電話を掛けた。

 

『はいはーい! 天才束さんに何の御用かな~?』

 

「……こちらの準備は整いました。後は貴女の協力が必要です」

 

『分かってるよ~、いっくん。約束、忘れて無いよね?』

 

「覚えていますよ。具体的な日程はそちらで決めて下さい。ただし、前日までに連絡は入れて下さいよ? こちらにも色々とあるんですから」

 

『分かってるって~。それじゃあ、いくよ』  

 

 

 束の声の質が変わったのを受けて、一夏も表情を改めた。これから行われるのは、全世界同時生中継。束が全ての映像媒体をハッキングし、一夏が映像を流すのだ。日本語が分からない相手でも、視覚的に訴える事で何を伝えたいのかが分かるように考えてある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏の発表を、碧はIS学園の職員室で視ていた。丁度休み時間に合わせて流された映像は、碧以外の教師に衝撃を与えた。

 

『言葉で言っても納得出来ないでしょうし、今から実際にISを展開してみせましょう』

 

「(いよいよね……一夏さんが世界に衝撃を与える瞬間が……)」

 

 

 碧の中では、一夏がISを動かせると言うだけでは世界に衝撃を与えるとは思われていなかった。それは碧が「一夏の秘密の全て」を知っているからで、普通の人間は男がISを動かせると聞いた時点で衝撃を受けるのだが……

 

「う、嘘……」

 

「本当に男の子がISを展開して動かしてる……」

 

「この子確か、小鳥遊さんがお仕えしてる家の子ですよね?」

 

 

 事実を知っているだろう碧に、教師からの視線が集まる。その中に当然、真耶と紫陽花の視線もあった。

 

「確かに一夏さんは私が仕えている更識家の人です。旧姓織斑一夏、元日本代表である織斑千冬さん、千夏さんの実弟であり、更識家の養子です。現日本代表である更識刀奈さんのお手伝いでISに携わっている時に、偶然作動させる事が出来たんですが、その時はまだ発表するつもりは無かったんです」

 

「では、何故今回発表したんですか?」

 

 

 真耶の当然ともいえる質問に、碧は一度ため息を吐いてから答える。

 

「例のメール、あの差出人不明の」

 

「ええ」

 

「あれ、篠ノ之博士からのメールなの。本当は更識で突き止めていたんだけど、ご当主様が当分伏せておくようにって仰ったから黙ってたけど」

 

「し、篠ノ之博士!?」

 

 

 衝撃的な事実が重なったからか、教師たちは全員口をポカンと開けて固まっている。

 

「篠ノ之束博士は、一夏さんと旧知らしいのよ。それで一夏さんの事を思って発表した方が良いと促して、今日の発表に至ってるの。ちなみに、映像媒体をハッキングしてるのも篠ノ之博士だから」

 

「つまり、更識一夏君の発表を、篠ノ之博士がお手伝いしてるって事ですか?」

 

「彼女、一夏さんには甘いのよ」

 

「じゃあ、更識家がISのコアを大量に持っているのも、やはり篠ノ之博士が……」

 

 

 真耶は言いかけて碧が凄い顔で自分の事を睨んでいる事に気がついた。自分が踏み込んでは行けない領域に踏み込もうとしたのだと真耶は勝手に解釈して言葉をそこで止めたが、他の教師が真耶の言葉を引き継いでしまった。

 

「篠ノ之博士と懇意である一夏君がいるから、更識家は専用機を大量に所有してるんですか?」

 

「……それは違う、としか答えられないわ。断言出来るけど、じゃあ誰が造ってるのかは答えられない。分かってると思うけど、調べようとかしたら、貴女たち消されるからね」

 

「消される? また冗談を……」

 

「知らないの? それとも忘れてるのかしら」

 

「だから、何を?」

 

 

 碧の纏っている空気の質が変わったのに、真耶と紫陽花は気がついた。碧が戦っている姿を間近で見た事がある二人だからこそ気が付けたのであって、テレビ越しでしか見た事の無い他の教師陣には気づけなかった。彼女が本気で怒っているという事に……

 

「更識家は元々、IS企業じゃないのよ」

 

「そうだったんですか? じゃあ元は何を……」

 

「対暗部用暗部。つまり人一人消す事くらい簡単に出来る組織なのよ」

 

「冗談……では無いの?」

 

 

 笑い飛ばそうとした一人の教師が、碧の表情を見て本気だという事を覚った。つまりそれくらい碧は怖い顔をしているのだが、その事を碧は今気にする余裕が無かった。

 

「忠告じゃ無く警告よ。これ以上更識家の事を知ろうとするのは止める事ね。命が惜しいのなら」

 

 

 碧がそう締めくくったのと同時に、一夏も中継を終わらせていた。画面には何時も通りのバラエティーが流れており、今の中継が嘘だったのではないかと思うくらい何時も通りだったのだ。だが、職員室内の空気は、その勘違いを許さないものとなっていたのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中継を終えた一夏は、束にお礼を言う為に再び束直通番号に電話を掛けた。発表と言っても誰かの前で行うのではなく、カメラを通じて知らせるだけだったのでそれ程疲れては無かったが、さすがに緊張はしていたので手には汗を掻いていた。

 

「珍しい事もあるものだ……」

 

『んー? 何がかな、いっくん』

 

「いえ、緊張で手汗を掻いていまして」

 

『束さんも興奮でびっしょりだけどね~。それじゃあいっくん、今度一日いっくんの時間を貰うから』

 

「構いませんよ。私から言い出した事ですので」

 

『その時は、当主モードのいっくんじゃなくって、ちゃんと「織斑一夏」としてのいっくんでよろしく~。じゃあ、バイビー』

 

 

 一方的に通信を切られた一夏だったが、その事を不快に思う事は無かった。彼が気にしていた事は、それとはまったく異なる事だったから……

 

「明日、学校面倒だな……」

 

 

 間違いなく質問責めに遭うだろと考え、学校に行くのが億劫になっていた一夏であった。




再び世界が動き出す……

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