暗部の一夏君   作:猫林13世

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名前が……面倒ですよ、ほんと……


三人の専用機

 三人の専用機を造る為に、一夏は夏休み明け早々中学を休むことにした。さすがに何日も続けて休めないので、土日を利用して四日で専用機を完成させる予定だと聞かされた簪と美紀は、揃って一夏の身体を心配した。

 

「大丈夫なの? 一夏、体力は平均かちょっと高いくらいでしょ?」

 

「あんまり無理しては、元も子もないですよ」

 

「分かってる。だが、あの人が忠告しに来たように、あんまり時間は残されて無いんだ。全部暴かれる前に、自分から秘密の一つを公表した方が安全だというのは的を射ていると思う」

 

 

 ISが動かせる、その事も世間に知られたら大問題だとは思うが、残る秘密である、ISのコアを造れると、更識家の当主楯無である事の方が、世間に知られたら起こるであろう事態は深刻だと一夏も判断したのだ。

 

「幸い、簪と美紀のデータはバーチャル・トレーニング・システムで取れてるし、自分の専用機はその都度調整できるから問題は無い」

 

「問題無いと思ってるのは一夏だけだって……土日は私たちも手伝うから」

 

「簪ちゃん程じゃないですけど、私だって手伝えますよ」

 

「この前はバーチャル・トレーニング・システムを完成させる為に虚さんと刀奈さんが手伝ってくれたし、今度は二人に頼むとするか。本音は当てにならないし」

 

 

 一夏の護衛であるはずの本音だが、今も何処かで遊んでいるのだ。一夏が本音の事を当てにしなくても仕方ないだろう。

 

「お姉ちゃんは候補生選考合宿の準備で忙しそうだし、虚さんも発表に向けての準備で忙しいからね。私たちが手伝うしかないんだよ」

 

「簪ちゃん、何となく刀奈お姉ちゃんっぽかったよ、今の」

 

「そうかな?」

 

 

 簪と美紀がお喋りをしている隣で、一夏は物凄い勢いでデータを打ち込んでいた。

 

「簪は中遠距離、美紀は近距離主体の戦い方だな」

 

「私は近距離でも大丈夫なんだけど、美紀が遠距離を苦手にしてるんだよ」

 

「どうしても距離があると攻撃を当てられなくて……」

 

「ペア候補なんだから、それで問題は無いだろうけど、苦手はなるべく克服しておいた方が良いぞ。一応美紀の機体にも中遠距離武器は積むんだから、使えるとまでは行かなくても、苦手では無くしておいた方が良い」

 

「はい、頑張ります……」

 

 

 自分のデータから苦手をハッキリと見抜かれた美紀は、少し肩を落としてそう返事をした。

 

「美紀は今からバーチャルで遠距離の練習をしてくるといい。そのデータも反映するから」

 

「分かりました。しかし、今は本音ちゃんが遊んでるはずですが……」

 

「当主からの命令って言えば、本音も諦めるだろ」

 

「強権発動……」

 

 

 屋敷内では、一夏が楯無である事は前から知られている事なので、一夏の命令は当主の命令とイコールである事も全員が理解している。つまり本音もそれくらいは理解出来るという事なのだ。

 

「簪はこっちのデータを打ち込んでおいてくれ。その間に俺は専用機の外装を組み立て始める」

 

「分かった。……それで一夏、専用機の名前は考えてるの?」

 

「簪のが光白狐(こうびゃっこ)美紀のが金九尾(きんきゅうび)そして俺のが闇鴉(やみからす)だ。ちなみに、光白狐と金九尾は姉妹機だからな」

 

「三大妖怪、九尾狐?」

 

「さすが簪、良く知ってる」

 

 

 データを打ち込みながら問いかけた簪に、一夏は頷いて返事をした。その間、簪の手も一夏の手も止まっていないのはさすがとしか言いようが無かっただろう。

 

「お姉ちゃんと虚さんの専用機は互いが弱点になってるけど、私と美紀の機体は二機揃って力を発揮するって感じなの?」

 

「別に個々でも力は発揮できるが、ペアを組むと考えて造るからな。相性はいいだろうさ」

 

「一夏って、何時からこんな事考えてたの? 今考えたわけじゃないんでしょ?」

 

「この前、篠ノ之博士に会ってから考えてた。元々簪と美紀の機体は造る予定だったが、俺のはさすがに考えて無かったからな」

 

「でも、自己防衛の為なら仕方ないでしょ」

 

 

 いくら護衛を増やそうと、一夏を狙えばそれが一番簡単に世界を変えられる手段には変わらない。そして一夏は、頭脳こそ人並み外れたものを持っているが、戦闘力や体力は人並みか、それ以下なのだ。だから一夏が専用機を持つのは、一番手っ取り早い抑止力となり、また襲われても簡単に攫われる事は無くなるのだ。

 だが問題としてあった、一夏がISを動かせる事を世間は知らない、という事も、この度一夏が発表すると決意したおかげで問題では無くなったのだ。だから一夏も自分の専用機を作ろうと決心したのだ。

 

「それで、一夏の闇鴉の特性は?」

 

「スピード重視。攻撃力は二の次で、とにかく速さを追求した機体だ。俺は戦う為にISを造るんじゃなくって、逃げの手段としてISを持つんだからな」

 

「でも、一夏なら攻撃手段があれば自分で自分を守れそうだけど……」

 

「それは過大評価だ。俺はおそらく、本音にも負けるだろう」

 

 

 刀奈や虚、簪や美紀の練習相手としてISを動かす事はあっても、一夏はその全てで勝とうとは思っていなかった。練習になれば、相手の経験値になればとしか思っていなかったので、それほど戦闘力が身についているわけでも無いのだ。

 

「でも、武器は少し積むんでしょ?」

 

「丸腰じゃ意味無いからな……剣と銃を少し。後は本当になにも積まない」

 

「一夏は代表になりたいわけじゃないもん。仕方ないよね」

 

 

 一夏の武装内容を聞いた簪が、何処か同情したように呟いた。自分の想い人は、世界を丸ごと造り変える可能性を秘めているからこそ、こうやって大変な思いをしているのだと、簪は改めて『織斑一夏』という人物の現状を把握したのだった。




木火土金水でやろうとしたら、二つ足りない事に途中で気づき、光と闇を追加しました……計画性ゼロが丸分かりだな……

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