暗部の一夏君   作:猫林13世

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あれ、あの人意外と……


タイムリミット

 IS学園に差出人不明のメールが届いてから数日、再び同じようなメールがIS学園に届いた。

 

「碧さん、またあのメールです」

 

「また? 今度はなんて書いてあるの?」

 

「えっとですね……『織斑一夏はISを動かす事が出来る』ですって」

 

「ふーん……今度は名前を出して来たんだ……でも、織斑一夏はもう存在してないはずよ。既に更識家と養子縁組してるんだから」

 

 

 一夏の事を旧姓で呼ぶのはただ一人。だが碧はその人と親しい間柄では無いので、何故このような事をするのか理解に苦しんだ。

 

「一度検査の為に、その一夏君をIS学園に呼べないんですか?」

 

「前に一夏さんに確認した時も、ISを動かす事は出来ないと答えてるんだから、呼んだって来ないわよ」

 

「そうですか……ん? 織斑って、千冬さんと千夏さんの関係者ですか?」

 

「あれ? 真耶は知らなかったんだっけ」

 

「何をです?」

 

 

 キョトンとする真耶を見て、碧はあの事件は世間ではもう忘れられているのかと理解した。

 

「千冬さんと千夏さんの弟である一夏さんは、白騎士事件のすぐ後に誘拐され、そして記憶を失ったのよ。それを救出したのが更識家。それで今は一夏さんは更識姓を名乗ってるの」

 

「そうだったんですか……でも、千冬さんと千夏さんの関係者なら、男の子でもISを使えそうですよねー」

 

 

 無邪気に言い放つ真耶に、碧は内心ドキドキしていた。実際、一夏はISを動かす事も、一から造り出す事も出来るのだ。その事を知られれば、一夏に自由は無くなってしまうのだから。

 

「差出人は、更識家でも特定出来なかったんですよね?」

 

「え、えぇ……そう報告を受けているけど」

 

「もし一夏君が本当にISを動かせるのだとしたら、それを隠そうとするのでは?」

 

「真耶は更識が嘘を吐いていると言いたいのかしら?」

 

「そ、そんな意図はありませんよ!? でも、一夏君がISを動かせるのなら、世間に知られると半強制的にIS学園へと進学させられるじゃないですか……その一夏君が今何歳なのかは知りませんが」

 

「一夏さんは今年中学生になったばかりよ。今は更識でISの資料とかを纏める仕事を手伝っているの」

 

 

 事実を言うわけにはいかないので、碧はそれっぽい嘘で真耶をやり過ごす事にした。

 

「そうなんですか。じゃあISの開発にも携わってるんですか?」

 

「それは更識企業のシークレットよ。開発に携わってる人間は、誰一人公表出来ないわ。企業代表である虚さんと、企業のトップである楯無様以外は」

 

「ガード固いですよねー、更識企業は」

 

「そうね(言えない。そのガードは全て一夏さんを守る為だなんて……)」

 

 

 一人で内心焦りを覚えながら、碧は篠ノ之束からのメールを削除したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏休みも終わり、中学に登校していた一夏の前に、うさ耳が現れた。一夏の隣にいた簪、本音、美紀は首を傾げたが、一夏だけはそのうさ耳に近づき、そして側に落ちていた小石を近くの繁みに投げ込んだ。

 

「いたーい! 何でここにいるって分かったの?」

 

「あからさま過ぎます。それで、何の用ですか、篠ノ之博士?」

 

「「篠ノ之博士ッ!?」」

 

「ほえ~。テレビで見るより美人さんだ~」

 

 

 一人ずれた感想を述べる本音を他所に、束は一夏に近づき、そして簪と美紀に視線を向けた。

 

「こいつらが、ちーちゃんとなっちゃんの後釜候補? 何だかぱっとしないね~」

 

「バーチャルですが、既に他国の代表に訓練機で勝てるくらいにはなってますよ」

 

「でも、それはあくまでも仮想世界での話でしょ? 実際にISを纏って、あの空気の中でどれだけ戦えるかが問題だよ~?」

 

「……それはそうと、何故あのようなメールをIS学園に送り続けてるのでしょうか? 貴女は当分は黙ってると言ったはずですよね?」

 

 

 簪と美紀の実力についての口論をしに来たわけではないと分かっている一夏は、さっさと本題に入れと束を睨みつけ、強引に話題を変えた。

 

「いっくんは強引だな~。まっ、それが良いんだけど。それじゃあ本題だけど、束さんはいっくんに世界を創り変えて欲しいって思ってるんだ~。だからいっくんの秘密を世界に発信しようとしただけだよ」

 

「俺は別に今の世界に興味はありません。創り変えたいとも思いませんし、かといって住み難いとも思ってません。まったくの無関心です」

 

「いっくんはそうだろうね~。自分の周りを守れれば、それで良いんだろうけど、いずれ更識家は危険に曝される。いっくんがひたすら隠している事を暴こうと、実力行使に出る国も少なくないと思うよ」

 

「………」

 

 

 既に一度、ドイツにてイギリス国家にテロまがいな事をされている一夏は、無言で束を見つめる。ただその目は、自信無さげな雰囲気ではなく、束が何をしたいと考えているのかを見透かそうとする雰囲気だった。

 

「いっくんがまだその時期じゃないって考えてるのは分かってるつもり。でも、遅ければ遅いほど、いっくんの大事な場所や人が傷つく可能性が高くなる。だから束さんは動いたんだよ」

 

「そうですか……貴女は織斑姉妹とは違い、純粋に『私』の事を案じてくれているんですね」

 

「別にいっくん以外がどうなろうと束さんには関係ないけど、それがいっくんが悲しむ結果に繋がるのは束さんも不本意だからね」

 

「分かりました。屋敷に戻り次第、発表の時期を話しあいますので、貴女はもうしばらく大人しくしていてください」

 

「ん~どうしよっかな~?」

 

「……何が望みです?」

 

 

 報酬を求めていると、一夏は束の行動から理解し、そして訊ねた。

 

「キスが良いけど、ハグで妥協してあげよう!」

 

「……仕方ないですね」

 

「カムカム……ッ!?」

 

「これはおまけです」

 

 

 束を抱きしめ、おまけとしてほっぺたにキスをする一夏。望み以上の報酬を受け取った束は、満足顔でこの場から消え去った。

 

「さて……いよいよ時間が無くなった来たのか……」

 

 

 何時までも隠し通せるとは一夏も思って無かったので、やれやれと首を振りながら、背後の視線に気づかないふりをして学校に向かうのだった。




束さん、意外と一夏の為を思ってる……

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