暗部の一夏君   作:猫林13世

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何処の世界もマスコミなんて……


マスコミの対応

 IS学園で指導している碧に、一夏から暗号メールが届いた。普段は何気ない内容のメールも来るのだが、こういった暗号メールの時は一夏からでは無く『楯無』からのメールだという事だ。

 

「相変わらず大変なんですね、一夏さんは……」

 

 

 暗号を読み解き、内容を理解した碧はそんな事を呟いた。メールの内容はハッキングに対する各国の言い訳と、それに対する制裁の内容が書き記されていた。

 

『これは、暗号メールにする意味があったのでしょうか?』

 

「更識だけの事情じゃないけど、罰を決めたのは更識だからね。他の人に見られる可能性だってゼロじゃないんだし、一応は伏せておくべき事だからね」

 

『しかし、随分と罰が軽いような気もしますが』

 

「先に一夏さんと簪ちゃんが組み上げたプログラムで情報流失を起こしてるからだって書いてあるけどね」

 

『首脳たちはとりあえず更迭されるでしょうね。あんな趣味を露呈したんですから』

 

 

 今各国の首脳の色々な趣味を取り上げてジャーナリストたちが騒いでいるのだ。モンド・グロッソが開幕してる間は大人しくしていたが、それも終わったので再び熱を帯びる事間違いなしだと木霊は思っていた。

 

『マスコミは民間人の代弁者だ、とか騒いでますが、ようは自分たちが騒いで楽しみたいだけでしょうに』

 

「意外と辛辣ね……そもそも、何処からそんな情報を得てるのよ……」

 

『本音ちゃんの専用機、土竜からコアネットワークを通じて情報を得てるのです。本音ちゃんは護衛としてドイツに行ってるようですし、情報には事欠かないです』

 

「仕事しなさいよね、本音ちゃん……まぁ、今は虚さんや刀奈ちゃんと一緒みたいだし、一夏さんに万が一があってもすぐに対応出来る状況なんだろうけどね」

 

 

 メールからその事も知らされている碧は、木霊が本音の状況をバラしてもすぐに納得した。だが、一夏の護衛はそんな生半可は覚悟で務まるものではないという事は、誰を差し置いても碧が一番知っている事でもあった。

 

「今は篠ノ之箒もいないけど、一夏さんの周りには危険が付きまとってるのに……」

 

『あの時よりも、一夏さん自身も強くなってますし、なにより虚さんと刀奈さんが一緒にいるんですから、さすがに一夏さんを狙おうとする輩もいませんよ』

 

「そうだと良いんだけどね……」

 

 

 日本代表である刀奈と、更識企業の代表である虚のIS操縦技術は、他国の代表より二枚も三枚も上手である事は碧も理解している。だが、何事も油断は禁物であるという事も、碧は忘れていなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 制裁金の話も終え、一夏は用意された部屋で寛いでいた。楯無に用意されていた部屋なので、一夏には結構豪華な感じがしていたのだった。

 

「さすがに更識のトップを招くのに、そこら辺の部屋を用意するわけにはいかなかったのか」

 

「何を呑気な事を言ってるのよ、一夏君。こんなに広い部屋に一人でいたら、どうぞ襲ってくださいと言ってるようなものよ」

 

「……別に襲われる心配は無いと思いますけど。それこそ、楯無さんが来ていて、そんな事が起こったらドイツ政府は顔面蒼白で済みませんよ?」

 

「他国の要人を自国で襲わせた、なんて噂が飛び交うでしょうね」

 

 

 ただでさえマスコミの報道は日に日に過熱しているのだ。モンド・グロッソという枷が無くなった今、新たな燃料を投下する事は何処の国も避けたいはずだ。だから刀奈の心配は考え過ぎなのだが、一夏の事情を全て知っている刀奈にとっては、考え過ぎなどと思えないのだ。

 

「それに、どうやら本音や虚さんも同じ部屋らしいですし、もう一人くらい余裕がありますから、刀奈さんも一緒にどうです?」

 

「泊まる! 一夏君と同じ部屋だもの!」

 

「……即答ですね」

 

 

 広さ的にも問題無く、一夏とも別のベッドなので倫理的にも問題は無い。これが尊だったらさすがに遠慮しただろうが、一夏と同部屋と言う事なので本音も虚も既に了承済みなのだ。

 

「それにしても、あの程度の罰で本当に良かったのでしょうか? これから先、同じような事が起こってもこの程度で済むとか思われるのでは?」

 

「国としてはそうでしょうが、その都度首脳を変えなければならない事を考えれば、少しは自重するんじゃないですかね? 選挙だってタダで出来るわけじゃないんですし」

 

「殆ど税金でしょ?」

 

「だからですよ。余計な事をして制裁金を払わされ、その上選挙で税金を使われたらその国の国民たちは黙ってませんよ」

 

「確かに……暴動でも起きそうな感じがするわね」

 

 

 制裁金も、突き詰めれば税金から出されるのだ。国の威信を掛けた大会に勝とうとして余計な事をした政府に、国民たちが不信感を抱いても何も不思議ではない。その上あっさりと敗北したのだからなおさらだろう。

 

「これで少しは平和になれば良いんですが……」

 

「一夏君の場合は、簪ちゃんと美紀ちゃんの専用機問題があるから、当分は平和にならないんじゃない?」

 

「……その事は別に問題じゃないが、IS学園からの要請が面倒だ」

 

「例のバーチャル戦闘の事ですよね? まだ調整がつかないんですか?」

 

「明日くらいには終わる予定だったんだが、国が余計な事をしてくれたからな……」

 

「あはは……中学生のセリフじゃないわね、それ」

 

 

 一夏のこぼした言葉に、刀奈は乾いた笑い声で返した。ちなみに、この場に本音もいるのだが、話が難し過ぎてそうそうにベッドに倒れ込み、そのまま寝てしまっているのだった。

 

「とりあえず、明日日本に帰って速攻で終わらせますよ」

 

「私も、微力ながらお手伝いしますよ」

 

「わ、私も! 私も手伝う!」

 

 

 張りあうように手伝いを申し出た二人に、一夏は笑みを返し頷いたのだった。




やっぱり子供っぽくない一夏……

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