各国の釈明を受けて、刀奈は呆れを通り越して苛立っていた。
「何が『IS界をもっと発展させるために、更識がひた隠しにしている事を調べようとしただけ』よ! 完全に犯罪行為よ!」
「まぁまぁ、その行為の報いは、各国がもうすでに受けてますから」
「そりゃそうだけどさ……それでも、あの開き直りはムカつくのよ!」
まるで非は更識にあるとでも言いたそうな各国の政治の代表たちに、刀奈は今にも食って掛りそうだったのだ。それを素早く察知した一夏と虚が「楯無にその事を伝え判断を下してもらう」という理由でこの別室に刀奈を連れ出したのだった。
「それで? 『楯無である一夏君』は、あいつらをどうするつもりなの?」
「そうですね……制裁金なんて貰っても意味無いですし、かといってISの開発状況の提示なんてしてもらっても、非常に今更な事しか無いでしょうしね……」
「とても中学生の言葉とは思えませんね……」
「まぁ一夏君だし」
国が支払う制裁金をはした金だと言い切り、各国の開発状況を見てもつまらないと切り捨てる中学生が、一夏以外にいるかと問われれば、全員が否だと答えるだろう。だが、それを言ったのが一夏だから、と言う事でここにいる全員は納得したのだった。
「さっきも言いましたが、ハッキングを仕掛けた国は既にその報いを受けていますし、今回はそれで手を打ちましょう。これ以上恥を曝させるのは、さすがに可哀想ですよ」
流失したデータの中には、政治の代表の個人情報も多分に含まれているのだ。具体的には女性歴や歪んだ性癖など……今の地位を失ってもおかしくない程の情報も流失しているので、一夏が直接手を下さなくても、今回釈明に訪れた人間はそんなに遠くない未来に、今の地位を失う事になるだろう。
「じゃあ、一応制裁金を支払わせる事にしましょう。さすがに、個人だけに罰を与えるのはね」
「個人で仕掛けたのか、それとも国で仕掛けたのかは分かりませんしね。国にも罰を与えておくのが良いでしょう。じゃあそこら辺は虚さんと刀奈さんで決めて下さい。俺はもう興味もありませんので」
「さっすがいっちー。こんなに大きな問題にも興味が無いなんてね~」
一応この場に参加していた本音が、一夏の背後に回って一夏にくっつく。だがその前に刀奈と虚が本音の両脇を抑えて一夏から遠ざけた。
「この件は本音にも考えてもらうから」
「一夏さんに甘える前に、貴女の意見も聞かせてもらいます」
「横暴だ~! 私にはそんなの分かるわけ無いのに~!」
二人に引っ張られていく本音を、一夏は手を振って見送ったのだった。
ドイツに向かった一夏に代わり、一夏の研究は簪が引き継いでいた。引き継ぐ、と大袈裟に言っているが、ようは一夏の手伝いとして簪が資料を纏めているだけなのだが。
「やっぱり一夏さんは別格ですね。この資料なんて、私が見ても理解出来ないよ」
「まぁ、美紀は専門的な知識がまだそれほど豊富じゃないからね。私もだけど」
「簪ちゃんが知識不足なら、私は知識皆無って事になっちゃうよ」
簪の手伝いをする為に研究所に来ていた美紀は、苦笑いを浮かべながら資料の整理をしていた。チラリと見ただけでは何の資料なのか理解出来ないが、何処にどう整理すればいいのかは簪が指示してくれるので、その事で頭を悩ませる事は無かった。
「そう言えば美紀も、あのシステムを使ったんだよね? どうだった?」
「なかなか手ごわいし、テレビで見た織斑姉妹や碧さんの動きを忠実に再現、その上パターン化されて無い動きだから、どんな攻撃が来るのか想像出来ない。実戦に近い雰囲気で経験を積める良いシステムだと思うよ」
「でも、まだ完成してない。一夏は今回のモンド・グロッソを見てもっと改良するつもりだよ」
「例えば?」
好奇心を抑えきれずに美紀は簪に問いかけた。それでも、整理の手を止めない辺りこの二人が真面目だという事が伺える。
「多分お姉ちゃんも感じたと思うけど、今回お姉ちゃんと対戦した全ての相手が、あのシステムで対戦した時よりも弱く感じたはず」
「それは、システムに組み込んだ際に一夏さんがより強力になるようにプログラムしたからじゃないの?」
「ううん、単純に対戦相手が緊張で実力の半分も発揮出来て無かったから」
「ああ、精神面ではどうしようもないもんね、プログラムでは」
「うん。だから一夏は相手の精神面も考慮したプログラムを組めないかと考えている」
簪の発言に、美紀は驚いた表情を浮かべた。まさかそこまで考慮してプログラムを組もうなんて考えているとは思わなかったのだろう。
「それから、ここで作動させる分には問題無いけど、バーチャルで使用出来る機体が殆ど専用機なのも問題。こっちの特性を知られちゃうからね」
「まぁ、更識で使う場合の殆どが、専用機に慣れる為という目的があるからね」
「本音みたいに、自分の専用機以外で遊んでる場合もあるけどね」
そこで二人は揃って苦笑いを浮かべた。
「IS学園に導入する際には、使用者が選べる機体は打鉄がラファール、専用機持ちの場合はその機体をインストール出来るようにする、って一夏は言ってた」
「なるほど。でも、インストールしたら他の人も使えるんじゃ?」
「パスワードを設定するみたい。他の人に使わせないように、指紋認識装置も付けるとか考えてるっぽいけど」
「そこまで行くと、最早やり過ぎと思うけどね」
「でも、ISは個人の能力もだけど性能の能力も大きく戦況を左右するから。特性を知られないためにも、これくらいは必要だって言ってたよ」
「まぁ、専用機を他人が動かしたら色々と知られちゃうもんね。情報が開示されていない隠し武装とか」
お喋りしながら整理を終えた二人は、候補生選考会に備えて一夏が開発を続けているバーチャル・トレーニング・システムを起動し、ISの動きを研究するのだった。
このまま無事に終わるのか……