暗部の一夏君   作:猫林13世

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なんかあっという間だったな……


第二回モンド・グロッソ終結

 圧倒的な強さで勝ち進む日本勢に、他国の代表たちは、日本の代表三人を畏怖の目で見るようになっていた。

 

「何だか、居心地が悪いですね、ここ」

 

「貴様は初めてだからな。前回大会でもこんな感じだったさ」

 

「己の未熟さを棚に上げて、わたしたちを恐れるとはな」

 

「あはは……(二人に関しては、完全に二人の方がおかしいと思うけどね)」

 

 

 刀奈の場合は、一夏と簪が造り上げたトレーニングシステムのおかげで対策が練れているのだが、織斑姉妹の場合は完全に実力差でものを言わせている。

 

『まぁ、人外と言われるだけはありますよね』

 

「(一夏君や簪ちゃんも、別ベクトルで人外っぽいけどね)」

 

『否定できないのが良い事なのでしょうかね……少なくとも、あれが世界に知られれば、一夏さんの自由は更に狭まるでしょうし』

 

「(あれがバレて、そこから芋づる式にドンドンと……なんて事は避けなければならないわよ。一夏君の為にも、私たちの為にも)」

 

「おい、更識。お前はIS学園に通うつもりなのか? それとも高校は行かず、そのまま代表を務めるのか?」

 

「はい? えっと……一応はIS学園志望ですけど」

 

 

 蛟と話していた所為で、織斑姉妹の会話内容が変わっていた事に気付けなかった刀奈は、少し間をおいてから答えた。

 

「なら我々の教え子となるわけか……国家代表だろうが、容赦はせんからな」

 

「むしろ、わたしたちから一夏を奪った一族だ。特別扱いしてやろうじゃないか」

 

「あ、あはは……謹んで、遠慮させていただきます」

 

 

 千冬と千夏から一夏が離れる原因となったのは、厳密に言えば更識の所為では無く誘拐犯の所為だ。だがこの姉妹は、更識家に一夏を盗られたと認識しているのだ。

 

「そもそも、一夏君に言われませんでしたか? 貴女たちの側より、更識で生活した方が安全だって」

 

「言われた……」

 

「あれはショックだったぞ……」

 

「あ、あれ?」

 

 

 急にショックを受けた織斑姉妹を前に、刀奈はどう反応して良いのか悩んだ。ここで同情したのなら、この場で人生が終わっていたかもしれないと、後に刀奈は思い知らされたのだった。

 

「そう言えば、決勝は何処の国の代表だったか?」

 

「ペアマッチはイギリス、私は中国です」

 

「イギリスか……」

 

「あの飯マズの国か……」

 

「(それでも、貴女たちの料理よりはマシだと思いますよ……)」

 

「「なにか言ったか?」」

 

「い、いえ! 何にも言ってません!!」

 

 

 読心術を使われたと勘違いしそうになるくらい、織斑姉妹が刀奈に問いかけたタイミングはバッチリだった。

 

「とりあえず、私たちが先だな。間違っても負けるなんて事の無いようにな。日本勢の連覇が掛かってるのだから」

 

「わたしたちだけ連覇してもつまらないからな。貴様もどうせなら優勝したいだろ」

 

「そうですね。一夏君や簪ちゃん、虚ちゃんたちのサポートがあってここまで来たんですから。どうせなら頂点に立ちたいです」

 

 

 これが織斑姉妹なりの応援だと理解した刀奈は、力強く頷いた。自分より先に、織斑姉妹は連覇を確定させるだろうから、自分もそれに続けるようにと、心の中で強く願ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第二回モンド・グロッソペアマッチ決勝は、瞬殺で織斑姉妹が無傷での連覇を達成した。だがこれまでの戦いでは、少しくらい対戦相手に雰囲気を楽しませる時間を与えていたのに対して、決勝では本当に瞬殺。雰囲気を楽しませる余裕なんて与えない、本気の戦いだった。

 

「何があったのよ……」

 

『あの二人から、物凄い怒りの感情が流れ込んできてると、「暮桜」と「明椛」のコアから事情を聞けました』

 

「怒り? 何に怒ってるのかしら……」

 

 

 決勝前の控室では、和やかとは言えないまでもリラックスした状態だった織斑姉妹だが、刀奈の別れてから何かがあったのだろうと推測する。だが、事情は刀奈には分からなかった。

 

「聞いてみましょうか」

 

『命知らずですね。決勝の後で良いんじゃないでしょうか?』

 

「……そうね」

 

 

 もし織斑姉妹の怒りを浴びたら、刀奈でも耐えられるか分からない。蛟に諭されて、刀奈は決勝が行われるアリーナへと向かう事にした。

 

「まて、更識」

 

「少し時間を寄越せ」

 

「は、はい!?」

 

 

 だが、運悪く鉢合わせしてしまった織斑姉妹に両脇を掴まれ、そのまま控室へと連行されてしまった。

 

「えっと……私、そろそろ試合なんですけど……」

 

「確か貴様の実家は情報操作もお手の物だったよな?」

 

「え、ええ……専門の人がいますが」

 

「なら協力しろ。世界地図からイギリスを消し去る」

 

「えぇ!? 何があったんですか、いったい……」

 

 

 穏やかではない発言に、刀奈は思わず聞いてしまった。

 

「イギリスがIS学園や貴様の実家にハッキングを仕掛けようとしたのはしってるよな?」

 

「え、えぇ……担当者から聞いてます(本当は一夏君から、なんだけどね)」

 

「そのバカ共が、『弟さんは貴女たちの許を離れて正解でしたね』だの、『貴女たちの料理を食べさせられるなんて、可哀想でしかありませんわ』とかふざけた事をぬかしたからな。その報いを……」

 

「そんなデータ、更識では管理してませんけど?」

 

 

 イギリスが盗んだと聞かされたデータは、一夏がわざと盗ませたデータとは一致していなかったので、刀奈は首を傾げた。すると、織斑姉妹も不思議そうな顔をしていた。

 

「ではなぜ、やつらはそんな事を知っていたんだ?」

 

「一夏が誘拐された事は有名だが、それ以降の事は知られて無いはずだろ」

 

「篠ノ之博士が、色々と暗躍してるみたいだと、一夏君から聞かされましたが、それが関係してるのではないでしょうか?」

 

「束か……」

 

「今度会ったらとっちめるか」

 

 

 織斑姉妹の雰囲気に中てられて、刀奈は普段の実力が発揮できるか不安になってしまったが、それ以上に対戦相手が緊張していたおかげで、刀奈も無傷でモンド・グロッソを制したのだった。




イギリス代表は自殺志願者でしたとさ……

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