暗部の一夏君   作:猫林13世

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これぐらい考えられなきゃ、当主は務まらないんでしょうね……


一夏の黒い考え

 自分の出番より先に、織斑姉妹の試合が行われるので、刀奈は控室のモニターでその様子を観戦していた。

 

「やっぱりあの二人は別格中の別格ね……対戦国が可哀想に思えるくらいに……」

 

『それは刀奈、貴女も大して変わらないと思いますけどね』

 

「何でよ?」

 

 

 独り言に対して蛟の返しが思ってもみなかった事だったので、刀奈は少し頬を膨らませて問いかける。

 

『第三世代型ISである私を使い、元世界最強の碧さんの指導を受け、一夏さんに最も有効だと思われる作戦を教えてもらっている貴女と戦うんです。しかも貴女はバーチャルでどの国の代表とも戦った経験がある。それは明らかに反則じみてますよ』

 

「一夏君の口癖じゃないけど、それも含めて実力よ。世代差や技術力の差は、操縦者より国に大きく関係してる事で、私には関係ないもの」

 

『……まぁ、私もとやかく言うつもりは無いですが』

 

「そうそう。それに優勝すれば、一夏君が言う事を一つ聞いてくれるって言ってたから、私は誰にも負けるつもりは無いわよ」

 

『……何ともまぁ、現金な事で』

 

 

 呆れたのを隠そうともしない蛟の態度に、刀奈は少し不満を覚えたが、モニターに映る織斑姉妹の動きを見てそんな事を考えている余裕は無いと覚った。

 

「これはすぐに私の出番になるわね」

 

『可哀想なくらいフルボッコですね……これはさっさと引退させるべき、と各国が騒ぐのも無理は無いですね』

 

「この大会が終われば、そのまま引退で千冬さんと千夏さんはドイツで一年間教鞭を振ってからIS学園の教師になる事が決定してるんだけどね」

 

 

 何故ドイツかと言うと、織斑姉妹がモンド・グロッソの後で移動するのがめんどくさいと言い放った結果だ。そこで各国の首脳が話し合った結果、モンド・グロッソの開催国で教鞭を振ってもらう事にしたのだ。だから開催直前まで開催国が決定しなかったのだが……

 

『しかし良くあの織斑姉妹を説得しましたよね。あの人たちの性格なら、もう一回くらい大会で暴れ回るかと思ったのですが……』

 

「非難を浴びたくない日本政府が、裏技を使って説得したのよ」

 

『裏技?』

 

「一夏君を使って、織斑姉妹にIS学園の教師になる事を承諾させたの。その代わりに一年間はドイツで好き放題していいって条件でね」

 

『指導するんですよね?』

 

「だから、指導内容は口を出さないから、織斑姉妹の思うように指導して良いって事よ」

 

『それは……何ともご愁傷様としか……』

 

 

 織斑姉妹の指導を間近で見てきた蛟としてみれば、あの姉妹が自由気ままに指導したら大半の人間は死んでしまうのではないかと思うのだ。それは刀奈も同じようで、まだ見ぬドイツのIS乗り候補たちに同情している表情を浮かべていた。

 

「さて、もう出番になるし、移動しなきゃね」

 

『刀奈は落ち着けば世界一になれるだけの実力はあります。ですので、絶対に勝ちましょう』

 

「当たり前よ!」

 

 

 勢い良く立ち上がり、控室を後にした刀奈。程良い緊張感と、それ以上に昂る気持ちを抑えるのに苦労しながらも、刀奈は平常心を心掛ける余裕を持っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 織斑姉妹の試合を見て、簪と美紀はため息しか出無くなっていた。

 

「はー……やっぱり強いね……」

 

「うん……この人たちが引退するのは、日本としてはもったいないよね……」

 

 

 引退の背景に一役買っている一夏は、二人がこぼした言葉に苦笑いを浮かべていた。もちろん、誰にも気づかれる事無く普段の表情を取り戻したので、誰も一夏の事を不審がる人間はいなかった。

 

「そんな呑気な事言ってて良いのか? この二人の後釜の最有力候補は簪と美紀だろ」

 

「まだ候補生でも無いし、後釜とか言われてもね……」

 

「全然実感湧きませんし、本当にそうなるとも思えないですし」

 

「既に日本政府に二人のIS適性のデータは渡してあるし、この大会が終わればおそらく、選考合宿への招待が来るだろう」

 

 

 悪い笑みを浮かべながらあっさりと言い放つ一夏に、簪と美紀は揃って驚きの声を上げた。

 

「ほえ? かんちゃんに美紀ちゃんはどうしたのかな~?」

 

「急展開についてこられなかったんだろ。それより、本音はどう思う?」

 

「ほえ? かんちゃんと美紀ちゃんなら、世界を取れると思うけどな~」

 

「だそうだ。後はやる気次第だろ」

 

 

 驚き固まった二人から視線を逸らし、一夏は再びテレビに焦点を合わせる。

 

「ドイツ代表の人、明らかに顔が引きつってるような気が……」

 

「事前のデータで、お嬢様の相手をするのを嫌がったんじゃないですかね?」

 

「あり得そうですが、敵前逃亡なんてしたら、一生笑われ者になるから仕方なく、ってところでしょうか」

 

 

 モンド・グロッソは国の威信をかけての大会でもある、と一部で言われている。その大会で敵前逃亡でもしようものならば、何処の国でも指を差され笑われる事になるだろう。

 

「ですが、ドイツは更識にハッキングを掛けて無いはずですが?」

 

「データ流用した国にハッキングしたんでしょう。少しくらいなら情報をくれてやろうと、簪とどうでも良いデータだけは抜きとれるように仕組んでましたし」

 

「……ほんと、悪い人ですね」

 

 

 そのどうでも良いデータの中には、刀奈の実力の一端が分かるデータも含まれていたのだ。それを見たのであれば、ドイツ代表の選手が相手をしたがらないのにも納得がいくものだと一夏は思っていた。

 

「まぁ、バーチャルで対策を練られてるとか、蛟の能力とかは教えてませんし、彼女が思ってる以上に完敗するでしょうね」

 

「一夏さん、黒過ぎますよ……」

 

「そうですかね?」

 

 

 特に気にした様子の無い一夏に、虚はため息を吐きたくなったのだった。




しかし、中学生が考えるような事では無かったな……

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