暗部の一夏君   作:猫林13世

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日本政府には痛い目に遭ってもらいましょう……


永遠に…

 あの卒業式から一気に時が経ったのではないかと錯覚するくらい、一夏たちは忙しい日々を過ごしていた。卒業式が終わってすぐにアメリカの再建に乗り出した一夏は、本音を連れて一ヶ月ほど学園を留守にし、刀奈たちはモンド・グロッソが近づいてきたという理由で日本政府主催の合宿に参加する事になったのだ。その間一人で生徒会業務を賄っていた静寐は、帰ってきた会長と副会長に文句を言っていたと、学園新聞に掲載された。

 そして夏になり、第三回モンド・グロッソが開催され、前評判通りソロでは刀奈が無傷で連覇を達成し、ペアでは簪と美紀が他国を圧倒し初優勝を勝ち取った。その表彰式で刀奈は現役引退を表明し、簪と美紀も今回で代表を辞すことを表明した。もちろん日本政府からは思いとどまるよう要請があったが、元々日本所属ではなく更識所属なのでその要請を三人がまともに相手にする必要は無かったのだ。

 日本政府は更識企業に抗議文書を提出したが、更識からの返事は『本人の意思を尊重した結果であり、今まで散々更識を頼ってきたのだから、これからは自力で何とかするように』との事だった。

 一気に代表の質が落ちる事を恐れた日本政府は、IS学園に目を向けた。あそこはあくまでもどこの国にも属していない事になっているが、生徒の大半は日本国籍を持つ日本人である。その中で実力がある者を発掘出来れば、大会四連覇も夢ではなくなると考えたのだった。

 そこでまず目についたのが、元問題児であるところの篠ノ之箒だった。彼女は過去の記憶を垣間見ながらも順調に更生し、今では更識所属のメンバー以外なら負けないと言われるくらいにまで成長していた。そしてすでに専用機を持っているという事も選考の理由だった。

 

「――というわけだ。ぜひ候補生として来てくれないだろうか」

 

「せっかくのお誘いですが、辞退させていただきます」

 

「……理由を聞かせてもらってもいいだろうか」

 

「私は今更国を背負って戦えるわけがありません。いくら更生したと判断されても、私の過去が消え去ったわけではありませんし、卒業後は更識企業でお世話になることが決まっていますので」

 

 

 またしても更識企業かと、政府要人は舌打ちをしそうになり、ギリギリで堪えた。ここで舌打ちをすれば更識に喧嘩を売ったとも取られかねないのだ。何せ更識ブランドのISは全世界の六割以上を占めており、日本に限って言えば九割を超えているのだ。ここで更識との関係を悪化させれば、日本はIS後進国になりかねない。

 

「そうか……残念だな」

 

「ついでに申し上げますと、IS学園にいる殆どの生徒が国家代表に興味は無いと思いますよ。皆さん、名誉より更識企業に就職出来るように躍起になっていますからね」

 

 

 学園の内情を知らされ、政府要人はいよいよ舌打ちを我慢出来なくなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あのモンド・グロッソからさらに時が流れ、一夏たちもいよいよ卒業となる。刀奈が卒業してから一夏が生徒会長を務めていたが、それもこの前引退して今は蘭が生徒会長を務めている。

 

「何だかあっという間の三年間だったな」

 

「初めの一年はいろいろとありましたけど、残りの二年は穏やかなものでしたしね」

 

「そもそも一年目がいろいろあり過ぎたんだと思うよ。二年になってから一夏も普通に授業に参加できてたし」

 

「ちょこちょこ休んだけどな」

 

 

 その理由として、モンド・グロッソに参加する刀奈、簪、美紀の専用機の整備士として会場に待機しなければいけなかったり、再建中のアメリカでの問題を解決するために赴いたりと、学生らしくないのは相変わらずだった。

 

「てか、その都度私が大変な思いをしてたんだけどね」

 

「悪かったって言ってるだろ」

 

「まぁ、そのお陰で社長秘書という地位を手に入れられたから良いんだけど」

 

「本社の社長秘書はある意味でゴールだからな。いきなりそこからスタートする静寐は周りから凄い目で見られるだろうな」

 

「プレッシャーかけないでよ」

 

 

 卒業後は一夏は今まで通り代表として、簪と美紀は傘下企業の社長として、そして静寐は本社の社長秘書として働くことになっている。

 

「まさか本音たちが教師として残ることになるとはね」

 

「マドカとマナカは兎も角、本音に教師が務まるとは思えないが」

 

「その所為で私が更識の企業代表に……」

 

「香澄なら大丈夫でしょ。例の耳栓が完成してから、メキメキと実力を伸ばしたんだから」

 

「そうだけど……」

 

 

 聞きたくなかった相手の本音が聞こえなくなる耳栓を一夏が開発してくれたお陰で、香澄は授業でも他に意識を取られる事が無くなり一気に成長した。

 

「い、ち、か、くーん!」

 

「何か御用でしょうか、更識先生」

 

「今は教師としてではなくお嫁さんとしてここにいるの。もちろん、虚ちゃんや碧さんも」

 

「人の十八の誕生日に婚姻届けを持ってきましたからね……」

 

「せっかく一夏君と結婚出来るようになったのに、一日でも無駄にしたくなかったから」

 

「意味が分かりませんよ……」

 

「それに、私たちのお腹には――ね」

 

「それに関しては悪ふざけが過ぎたのでは? 仮にも教師が生徒を襲ったわけですし」

 

「合意の上だったでしょ?」

 

「酔っぱらわせてのことでしょうが……まぁ、責任逃れはしませんので」

 

 

 その事は問題になりそうになったが、何故か彼女たちの味方をした織斑姉妹と束が学園を説得してお咎め無しに収まったのだった。

 

「一夏、私も一夏との赤ちゃんが欲しい」

 

「私もです」

 

「就任していきなり休まれるのは困るから、少し経ってからな」

 

「ご馳走様。あーあ、どこかに素敵な男性が落ちてないかしら」

 

「静寐ちゃんなら私たちも歓迎するわよ?」

 

 

 刀奈の発言に、静寐は結構本気にして、かなりの頻度で一夏にアプローチを仕掛けるのだった。

 

「一夏君、これからもよろしくね」

 

「こちらこそ、末永くよろしくお願いします」

 

 

 年に数回しか全員が集まれる事は無かったが、一夏たちは末永く幸せに暮らしたのだった。




酒は匂いだけです。もちろん刀奈も飲酒はしてませんし、飲酒は二十歳になってからです。
というわけで、これで終わりです。長い間お付き合いいただき、誠にありがとうございました。また気が向いたらISを題材にしてやるかもしれませんので、その時またお付き合い頂けたら幸いです。では、本当に長い間ありがとうございました

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