生徒会役員になってからというもの、静寐はめまぐるしい毎日を送っていた。普段からこのように忙しい思いをしながら平然と過ごしていた一夏たちの事を更に尊敬したのと同時に、自分がどれだけ面倒な事を引き受けてしまったのかと後悔しているのだった。
「生徒会ってこんなに忙しかったのね」
「シズシズだって知ってるでしょ? いっちーがしょっちゅうHRにいなかったこと。あれは生徒会の仕事や、更識の仕事で来られなかったんだよ~」
「知ってたけど、あれは本音がサボってばかりだからだと思ってた……でも、違ったんだね」
「まぁ、あの時は刀奈様もサボり気味だったから仕方なかったかもしれないけど、おね~ちゃんが抜けたのも忙しい要因だと思うよ」
「虚ちゃんは優秀だったものね。ところで静寐ちゃん、例の書類は何処に行ったのかしら?」
「例の……? あぁ、それでしたら一夏君に持っていきましたよ」
静寐に名前を呼ばれた一夏は、刀奈にその書類を手渡す。
「さて、それじゃあ後は本番を待つだけかしらね」
「本番って、明日ですけどね」
「いよいよ虚ちゃんも高校を卒業するのね……なんだか感慨深いわね」
「そのまま教師として学園に残るので、あまり卒業するって感じではないと言ってましたけどね」
一夏が虚から聞いたことをそのまま告げると、刀奈は驚いた表情を浮かべた。
「なにか?」
「一夏君、それいつ聞いたの?」
「いつって、ついこの前ですよ? 丙のメンテナンスの際にそんなことを話しただけです」
「そうなんだ……最近虚ちゃんと会う機会も減っちゃったから、私も後で会いに行こうかしら」
「刀奈さんはモンド・グロッソに向けての訓練があるんじゃなかったですか? 本音も手伝いに行くって言ってたし」
「かんちゃんも美紀ちゃんも人遣いが荒いんだよね~」
「散々楽してきてたんだから、少しくらいは苦労しなさいよね。本音だって来年度からは更識の企業代表として働くんだから」
「いっちーに任せておけば大丈夫なんじゃないの~?」
「少しは働く気を見せろ……虚さんだって忙しそうにしてたのは知ってるだろ」
「おね~ちゃんなら楽勝だっただろうけど、私はちょっと厳しそうだな~」
始まる前から諦めている感じの本音の態度に、一夏と刀奈はため息を吐いた。
「何時までも遊んでいられるわけじゃないんだから、少しはやる気を出しなさい!」
「刀奈様に言われたくないですよ~。遊びまくっておね~ちゃんに怒られてたんですし」
「最近は真面目にやってるわよ! 私だって成長してるんだから」
「ちょっとずつですけどね」
一夏がボソッとツッコミを入れると、刀奈は視線を明後日の方へ逸らすのだった。
暇を持て余して虚は、簪と美紀が訓練しているアリーナに顔を出し、二人の成長を感じていた。
「虚さん、どうかしたんですか?」
「いえ、簪お嬢様も美紀さんも入学時から考えるとかなり成長したんですね。お二人の動きはかなりのものですよ」
「でも、まだ虚さんには勝てませんよ」
「私は元々お嬢様の訓練相手として専用機を持ったわけですから、お嬢様に負けない程度には訓練していましたから」
「お姉ちゃん、ぐうたらしてるけど実力は本物だからね……いつかは勝てるのかなぁ……」
「簪ちゃんが努力すれば、いつかは勝てるようになるんじゃないかな。私だって負けてられないけど」
「お二人はお互いの実力を認めつつも負けたくないと訓練しているのですね。お嬢様にもそのような相手がいれば、もっと真面目に訓練したかもしれませんね」
本気でそんな相手がいればと思っているのか、虚は深々とため息を吐いた。
「お姉ちゃんには虚さんがいたじゃないですか」
「私ですか?」
「刀奈お姉ちゃんは虚さんには負けたくないと思っていたはずですよ」
「ですが、私は選手ではなく更識の企業代表ですから。簪お嬢様や美紀さんみたいに、選手同士の方が良かったのではないかと思ったりするのですよ」
「気にし過ぎじゃないですか? 虚さんはしっかりとお姉ちゃんのライバルとしてやっていたと思いますよ? というか、私や美紀がお姉ちゃんのライバルとしていられればもっと良かったのでしょうけど」
「私や簪ちゃんでは、刀奈お姉ちゃんに歯が立ちませんし」
「今ならかなりいい勝負が出来るのではありませんか? 瞬間加速はもう完全にマスターしているようですし」
「お姉ちゃんは二段階瞬間加速を会得してますし、どうやら三段階に挑戦しているらしいですし」
生徒会の業務の合間を縫って、刀奈もさらに上のレベルを目指しているらしいと聞いている。虚は何故そのやる気をずっと持続できないのだろうと不思議に思っているが、やると決めた時の刀奈の集中力はかなりのものであるのだ。
「簪お嬢様と美紀さんは個々でも高い実力ですが、二人合わさればお嬢様にも勝るのではありませんか? 今度時間を見つけて二対一で戦ってみたら如何でしょうか」
「どうせなら虚さんも一緒に如何ですか? 教師としての初仕事として」
「……考えておきます」
誘われた事は嬉しいが、さすがにこのメンバーの中に混ざる気分にはなれなかった虚なのだった。
静寐がしっかり生徒会に馴染んでる感じがしました