卒業式の準備と並行して、一夏は簪と話し合いながら更識で採用するメンバーを決めていた。そして更に、虚が教師として学園に残る手続きと、企業代表を虚から本音に変更する旨を各企業に通達、虚の代わりの生徒会メンバーの選考と、やっぱり忙しい日々を送っていた。
「美紀ちゃんじゃ駄目なの?」
「美紀は簪と同じ理由で駄目だと思いますよ。刀奈さんみたいに一度世界を制していれば別ですが、モンド・グロッソもある中生徒会の仕事で訓練の時間を奪うのは可哀想です」
「それじゃあマドカちゃんかマナカちゃんは? あの二人なら一夏君のお手伝いが出来るって喜んで引き受けてくれそうだけど」
「あの二人にデスクワークは向かないと思いますが……何せ、姉があの二人なわけですし」
「でも、お兄ちゃんが一夏君なら問題ないんじゃないかしら? 一夏君はデスクワーク得意なんだし」
「俺は幼少期から更識で働いていたから得意なわけでして、それをあの二人に望めるかと言えば……」
一夏の言葉に、刀奈も言葉を失う。一夏の血縁だから大丈夫だろうという考えは、実に浅はかであったと思い知らされたのだ。
「そうなると後は更識所属で候補生じゃない人って事になるわよね……静寐ちゃんが無難かしら」
「別に更識所属でなくてもいいんですが、ここで更識の仕事をすることもあるでしょうからね。外部の人間をこの場所に入れたくないですし」
「まぁ、静寐ちゃんも外部と言えば外部だけどね。巻き込むのが楽ではあるわよね」
「既に更識の専用機を保有していますからね。更識に引き込んでも何処の国からも文句は出ないでしょうし」
「それじゃあ、静寐ちゃんにお願いしましょうか」
「問題は、引き受けてくれるかでしょうがね」
「一夏君なら言葉巧みに誘い込めるんじゃない?」
人の悪い事を平然と言ってのける刀奈に、一夏は盛大にため息を吐いた。確かに刀奈の言う通りなのだが、望んでそういう人間になったわけではない、というのが一夏の主張なのだ。
「そもそも、生徒会メンバーの補充は会長である刀奈さんの仕事ですよね? 刀奈さんが静寐に話すのが普通じゃないですか?」
「お姉ちゃんは一夏君にお願いします」
「また……虚さんが抜けてから甘えすぎじゃないですか?」
「良いじゃない。どうせすぐ忙しくなって一夏君に甘えられない日々が来るんだから」
平然と言ってのける刀奈に対して、一夏はもう一度ため息を吐いてから静寐に連絡するのだった。
一夏から生徒会室に来てほしいとの連絡を受けて、静寐は生徒会室前までやってきた。普段は近づく事すらない場所に、静寐は少し居心地の悪さを感じていた。
「えっと……ここで良いのよね?」
改めてここが生徒会室であるという事を確認してから、静寐は生徒会室のドアをノックする。
『どうぞ』
「し、失礼します」
返事をしたのが一夏ではなく刀奈だったので、静寐はさらに緊張した面持ちで生徒会室の扉を開き、刀奈と一夏に促されてソファに腰を下ろした。
「ゴメンなさいね。わざわざ呼びつけちゃって」
「い、いえ……大丈夫です」
「別にお説教とかじゃないから、もうちょっと気楽にしてくれないかな? 何だか私が静寐ちゃんを苛めてるみたいに見えるじゃない?」
「は、はぁ……」
気楽にしろと言われても、場所と対面している相手を考えれば仕方ないのではないかと静寐は思っているが、一夏や刀奈に普通の女子高生の考えが分かるはずもないと考え、一度大きく息を吐いてから居住まいを正した。
「それで、わざわざ呼び出された理由をお聞きしても?」
「あれ? 一夏君から聞いてないの?」
「一夏君からは『生徒会室に来てほしい』としか……」
「そう。それじゃあ単刀直入に言うわね。鷹月静寐さん、生徒会役員になってくれないかしら?」
「えっと……何故私に白羽の矢が立ったのでしょうか? 私以上に優秀な人など大勢いると思うのですが」
「謙遜だな。静寐程優秀な人材はそうそういない」
はっきりと一夏にいわれ、静寐は顔を真っ赤にする。容姿を褒められるよりも、実力を認められた方が嬉しいと、静寐は理解したのだった。
「理由はいろいろとあるんだけど、まず第一。簪ちゃんと美紀ちゃんはモンド・グロッソの関係で生徒会の業務に時間を割けないのよ。私も一応代表だから、一気に抜けると一夏君に多大なる迷惑を掛ける事になる」
「本音はいても遅いですしね」
今日は訓練の相手に指名されこの場にいないが、最近は少しずつ仕事をするようにはなっている。だが、二人と比べると遅いのだ。
「次にマドカちゃんとマナカちゃんは、一夏君の判断で却下されたの。姉があれだからって」
「なるほど」
「そうなると更識の内情をある程度知っていて、尚且つ優秀な人材は誰だって話になるのね。それで、静寐ちゃんにお願いしようって事になったの。引き受けてくれるかしら?」
「私の実力をそこまで買っていただけたのでしたら、断る理由はありません。生徒会役員の件、謹んでお受けします」
「良かった。それじゃあ詳しい事は一夏君から聞いてね。私も訓練の時間だから」
「分かりました。何かあったら連絡しますので」
一夏に見送られ、刀奈は生徒会室から出ていく。急に一夏と二人きりになった静寐は、再び居心地の悪さを感じたのだった。
突然ですが、後三話で終わりになります。残りわずかですが、お付き合いください