暗部の一夏君   作:猫林13世

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あと何話出来るかな……


ハイレベルな闘い

 レベルの高い戦いを目の当たりにして、一年の専用機持ちたちは自分のレベルを省みてため息を吐いた。

 

「強くなったと思っていましたが、あれが本当の実力者同士の闘いなのですね……」

 

「あたしたちもあのレベルまで行けるのかしら……」

 

「一夏君に専用機を持つ事を許してもらったってだけで、私と香澄は候補生でもないって割り切ってたんだけど、これは凄すぎるわよね……」

 

 

 セシリア、鈴、静寐の呟きに、香澄、エイミィは無言で頷く。だがラウラだけは弱気な事は口にしなかった。

 

「彼女たちは三年生で、我々はまだ一年だ。後二年あるんだぞ!」

 

「でもラウラさん、二年で布仏先輩やダリル先輩のようになれるとお思いですか?」

 

「なれるなれないではなく、なれるように努力すればいい! この学園には優秀な教員が揃っているんだから、なろうと努力すればきっと実力は今まで以上に高いものになるはずだ!」

 

「アンタのその前向きさ、今だけは羨ましいわよ……」

 

 

 鈴の言葉に、他のメンバーも頷く。ある意味考え無しとも言えなくもないラウラの考えを、素直に受け止められるだけの純真さが他のメンバーには無かったのだ。

 

「織斑教官たちや小鳥遊先生、そして布仏先輩も教師として学園に残ると噂されている。更にはハイレベルな国家代表やお兄ちゃんのような人材までいるのだ。我々がレベルアップ出来ないわけがないだろ」

 

「たぶんラウラさんが言っている通りなのでしょうけど、あのレベルまで届くかと問われれば疑問ですわね……」

 

「てか、あれはモンド・グロッソ決勝だって言われても疑わないレベルの闘いだしね」

 

「あたしたち、あそこを目指せって言われてるって事よね……候補生辞めたくなってきたわよ……まぁ、辞めないけどね。あたしたちは静寐や香澄と違って、候補生を辞めたら専用機もなくなるし」

 

「私は一応更識から送られたって事になってるから、候補生を辞めても専用機は残るけどね」

 

「エイミィさんは更識所属ですものね……」

 

「その分、実力者の闘いを間近で見せられてきたけどね……」

 

 

 現役の国家代表である刀奈をはじめとするメンバーと模擬戦をしたりもしたエイミィは、遠くを見つめてそう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合も中盤から終盤に差し掛かってきたはずなのに、虚の動きは一切衰える事はない。それがダリルには不思議でしょうがなかった。

 

「(いくら鍛えているからといって、息の乱れが一切感じられないし、ISの動きも鈍くなってきていないなんておかしいわね……ダメージは与えられてないとはいえ、回避したり攻撃したりするときにSEはちょっとずつ削られるはずなのに……)」

 

 

 少なくとも自分のSEは徐々に減っているのだ。虚の方も多少なりとも削られていて当然であるはずなのに、虚は特にSEを気にした様子もなく瞬間加速を行っている。

 

「(最小限に抑えているとはいえ、あれだけ瞬間加速を繰り返せばそれなりに消費してるはず……なのに布仏の動きは鈍くなるどころか鋭さを増して――そういえば、前にオータムから聞いたことがあったわね)」

 

 

 そこでダリルは、オータムが入手してきた情報の中に、デュノア社が開発に取り組んでいた武装の事を思い出していた。

 

「(布仏は更識の企業代表……試作品を積み込んでいても不思議はないわね……でも、それを使ってる様子は見られないし、単純に布仏の技量の方が私より上だって事……いえ、撃ち合ってみて分かるけど、私と布仏にはそれほど実力差は無い……となると、これが更識製のISの凄さって事になるのかしら……)」

 

 

 先ほどから思考に気を取られて攻撃に集中出来ていないダリルではあるが、虚の攻撃を喰らうまでには至っていない。手数が減ったからといって、回避行動まで疎かにはしていないのだ。

 

「もう降参ですか?」

 

「まさか。このままやられてたまりますか! せっかく私を卒業させてくれた更識君の為にも、無様に負けるわけにはいかないのよ」

 

「一夏さんに手を出そうものなら、一切の容赦なく切り捨てますから」

 

「あら怖い。先輩が後輩に近づくのがそんなにいけない事かしら?」

 

「貴女に限って言わせてもらうのなら、いけない事です」

 

 

 はっきりと言い切られてしまい、ダリルは苦笑いを浮かべるしか出来なかった。

 

「てか、さっきから考え事に気を取られているようですが、そんな余裕がまだあったのですね」

 

「バカ言わないでちょうだい。これでもギリギリのところで躱してるんだからね」

 

「でしたら、無駄な事を考えていないで集中すればいいじゃないですか」

 

「無駄な事、ね……確かに、考えても分からないんなら、考えるだけ無駄よね……終わってから更識君に聞けば済む話だしね!」

 

 

 鋭さが戻ったダリルの攻撃を、虚は躱さずにいなした。体勢を崩すまではいかなくとも、今の行動はダリルにとって予想外のものだった事には変わらない。

 

「(何故避けなかったのかしら……アクシデント? いえ、そんな感じは全くしなかった……分からないわね)」

 

「また無駄な事を考えてますね!」

 

「っ!」

 

 

 虚の攻撃を反射神経だけで躱したダリルは、このままではジリ貧だと感じ取っていた。

 

「(明らかに私の方の動きが鈍くなってきているのは確か……)」

 

 

 ISの性能の差だと割り切り、ダリルはそれ以上考える事を止め闘いに集中するのだった。




実力も性能も虚の方が上かな……

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