いよいよ虚VSダリルの一騎打ちという事で、アリーナの盛り上がりは最高潮に達していた。もちろん、モニター室も相当な盛り上がりを見せており、どれだけ注目されているかが良く分かる光景だ。
「さぁ、いよいよ三年生最後の試合、布仏虚ちゃん対ダリル・ケイシー先輩の試合が始まります! 実況はIS学園生徒会長であり虚ちゃんの主である私、更識刀奈がお送りします。そしてもう一人の実況及び解説はこの人!」
「……何ですか、そのノリは」
「もぅ! 一夏君はノリが悪いわね~。てなわけで、更識一夏君です」
刀奈の挨拶に、盛り上がっていた会場は更なる盛り上がりを見せる。その熱気に一夏は辟易した様子でため息を吐き、刀奈に話しかける。
「随分と盛り上がってますが、賭け事とかしてませんよね?」
「当然でしょ? そんなことしなくたってこれだけ盛り上がるって分かってたもん」
「……つまり、少しはそういう事も考えていたと?」
「そんな事ないわよ! てか、一夏君に隠れてそんなこと出来るわけないじゃない」
「まぁいいですが……盛り上がってる中水を差すようであれなんですが、あまり盛り上がり過ぎて怪我をしても自己責任ですからね。間違っても見舞金などあてにしないように」
「誰もそんなこと思ってないと思うけど?」
「いや、織斑姉妹とかがあり得そうだし、他にも数人心当たりがあるんで」
疲れ切った雰囲気で告げる一夏を見て、刀奈は少し同情的な視線を向けた。
「さてさて、注意事項も済んだところで、さっそく選手に入場してもらいましょうか!」
「何ですか、選手って」
「これくらいの方が盛り上がるかなーって」
「……これ以上熱狂させるつもりなんですか」
「せっかくのイベントだもの。盛り上がってた方が思い出になるでしょ?」
「虚さんは学園に残りますし、ダリル先輩も更識で働いてもらうんですから、そこまで盛り上げなくても良いんじゃないですか?」
「その二人だけじゃなくて、みんなの思い出にもなるでしょ」
楽しそうに笑う刀奈を見て、一夏は小さくため息を吐く。あまり盛り上がり過ぎると自分が疲れるというのを経験上知っているので、それほど盛り上げてほしくないのだ。
「とりあえず、虚ちゃんとダリル先輩の入場でーす!」
「刀奈さんのテンション、どうにかならないんですか……」
ノリノリの刀奈の横でガックリと肩を落とす一夏の姿を見た虚は、ピットでため息を吐いていたのだった。
虚とダリルの試合を客席で見学していた簪と美紀は、二人の動きを見て感嘆のため息を吐いた。
「虚さんは当然だけど、ダリル先輩もレベルが高いよね」
「まぁ、亡国機業の上位戦力だったわけだからね。それにしても、虚さんとほぼ互角っていうのが凄いよね」
「美紀だったらどう攻める?」
「私一人だったらたぶん勝てないと思う。簪ちゃんとペアで挑んでやっとだと思う」
「お姉ちゃんだったらどう攻めるんだろう?」
解説席で楽しそうに実況している刀奈に視線を向け、簪は姉がどう攻めるかを想像する。
「お姉ちゃんの得意としてる残像を使った攻め方をしても、ダリル先輩には効かなさそうだし……」
「刀奈お姉ちゃんは、残像を使わなくても強いけど、力押しじゃ勝てないかもしれないね」
「一夏が認めるだけあるよね……」
「ダリル先輩? 虚さんに一騎打ちを挑むだけあるよね……」
虚の攻撃をギリギリで躱し、鋭い攻撃を繰り出すダリルに、周りの観客が盛り上がりを見せる。
「元亡国機業の人間だって警戒してたのに、やっぱりこういうのを見せられると忘れちゃうんだね」
「一夏さんが大丈夫だって言ってたので、ある程度警戒は解かれてたけどね……でも、やっぱり少しは警戒しちゃうのはしょうがないとは思ってたけど、やっぱりレベルの高い戦いを見ると盛り上がるんだね」
「あのラウラも楽しんでるみたいだしね」
少し離れたところで本音と一緒に見学しているラウラも、ダリルの動きを見て興奮してる様子だった。
「軍人であるラウラが興奮するくらいだから、やっぱりレベルが高いんだろうね」
「何時か私たちもあれくらいの動きが出来るようになるのかな?」
「私たちの努力次第だと思うよ? 一夏さんに指導してもらったり、刀奈お姉ちゃんと一緒に訓練すれば、何時か出来るようになるよ」
「美紀も一緒に訓練していかないとね」
「もちろん。でも、私より簪ちゃんの方が先に出来るようになると思うよ」
「美紀の方が早いと思うけどな……美紀は理解すれば吸収早いし」
「簪ちゃんは理解力が高いし、吸収だって早いじゃん。私なんかよりよっぽど早く出来るようになると思うよ」
「そんな事ないよ。美紀だって……って、何で私たちこんなことで譲り合ってるんだろう」
「お互いに負けたくないって思ってる半面、相手の事を認めてるからじゃないかな」
美紀の言葉に、簪は納得したように頷いた。
「美紀は私のライバルであり、尊敬出来るパートナーだからね」
「何だか恥ずかしいね」
「うん」
互いに恥ずかしそうに視線を逸らして、お互いに笑い出す。そして二人で頷いて、虚とダリルの動きをしっかりと見学して自分のものにしようとしっかりと動きを覚えるために微動だにせずに見入ったのだった。
また戦闘まで行かなかったな……