暗部の一夏君   作:猫林13世

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試合まで行ってないですが……


最後の試合

 卒業イベントのメインとなる虚とダリルの模擬戦を見るために、在校生全てがアリーナに押しかけ、さすがに全員は入らないという事で大型モニターでライブ中継をすることになった。

 

「さすが一夏君ね。この短時間でライブ中継出来るようにするなんて」

 

「これくらいなら簡単に出来ますよ。それより、何で俺も実況なんですか? 前みたいに刀奈さんと簪の姉妹で実況と解説をすれば良いじゃないですか」

 

「簪ちゃんは今回は遠慮するって言ってたんだから仕方ないでしょ? 一夏君も覚悟を決めてよね」

 

「はぁ……まぁいいですけど」

 

「ところで、さっきまでの闘いで、目ぼしい人材はいたのかしら?」

 

 

 メインの前には、更識傘下に就職出来るかもという希望を抱いた卒業生たちがバトルロワイヤルを繰り広げていたのだ。そのメンバ-の実力を確認する為、一夏は目を光らせていたのだった。

 

「数人、使えそうなのがいましたね。後程簪と相談して正式に採用するつもりです」

 

「何で簪ちゃんと?」

 

「経理は簪が担当していますからね。どれほど採用出来るか相談しないといけませんので」

 

「人事権は一夏君にあるんでしょ? 今の更識の業績から考えれば、全員雇ったからって傾くとは思えないけど」

 

「余裕があるからといって、無駄遣いは良くありませんから」

 

「一夏君って、そういうところもしっかりしてるよね」

 

「何ですか、いきなり」

 

「だって、普通ならお金があるからって無駄遣いしそうだけど、一夏君って結構倹約家じゃない? だから更識の利益も高いのかなって」

 

「利益云々は兎も角、総資産を増やしておくのは大切ですからね。またいつ企業を買収するか分かりませんし」

 

 

 敵対組織の傘下企業を秘密裡に買収したりも、当分は無いだろうと思っているが、一夏は来るべき時の為に資金を増やしておくべきだろうと考えているのだ。

 

「とにかく今は、アメリカの復興と組織の立て直し、その他諸々で忙しくなるでしょうから、使えそうな人材はなるべく確保するべきだと考えているんですが、独断ではいずれ反乱がおきるかもしれませんからね。正当なる更識の血脈を受け継いでいる簪に相談して決めた事なら、後々文句も言えないでしょうしね」

 

「一夏君に文句を言う輩がいるなら、私が直々に処断するけど?」

 

「物騒な事はしないでください。いずれ結婚すれば文句も出なくなるでしょうが、今の俺はただの養子でしかないんですから。代々更識家に仕えてきた人間程、俺の決定に文句をつけたくなるんではないでしょうかね」

 

「尊さんが一夏君に忠誠を誓ってるんだから、他の人も大人しく従ってくれればいいのに」

 

「それじゃあ独裁ですよ。俺はそんなことをしたいわけではありませんので」

 

「まぁ、一夏君がそれでいいなら私ももう文句は言わないけどね」

 

 

 イマイチ納得出来ない感じではあるが、刀奈はそれ以上何も言わなかった。一夏は自分の考えを受け入れてくれた刀奈の頭を撫でながら、小さく頷いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まさかの一騎打ちとなったことで、虚は一人ピットで集中力を高めていた。

 

「ダリル・ケイシーとは一年の時から言い争ったりしましたが、まさか最後の最後で一騎打ちをすることになるとは思いませんでしたね……相手は元亡国機業の主力、実戦経験豊富ですが、更識の人間として負けられません」

 

 

 一夏はそこまで気負う必要は無いと言っていたが、虚のプライドが負ける事を許せないのだった。

 

「他の誰かに負けるのは良いですが、彼女には負けたくありません。一夏さんにちょっかいを出すような相手に負けるなど、私は受け入れられないですね」

 

『さっきから独り言が大きすぎませんか? もう少し冷静さを取り戻してほしいのですが』

 

「丙だって、私とダリル・ケイシーの関係は知っているでしょ? そして、彼女が一夏さんにちょっかいを出していたことも」

 

『まぁ、ずっと側で見てたわけですし、知らないわけではありませんが、それでも少し落ち着いた方が良いと思いますよ。激高して負けたなんて、一夏さんに思われたくないでしょうし』

 

「……そうですね。少し興奮し過ぎてたみたいです」

 

 

 丙に諭され、虚は少し頭を冷やす事にした。普段冷静な分、ダリル相手だと必要以上に興奮してしまうようだと、虚は自分の精神がダリルに掻き乱されている感覚に陥っていた。

 

「何故私はここまでダリル・ケイシーの事が嫌いなのでしょう」

 

『性格が正反対という事もあるのでしょうが、基本的に虚が好く感じではないように思えますからね、彼女は』

 

「とにかく、今日は一騎打ちという事ですし、冷静さを欠いたら負けるかもしれませんね」

 

『一夏さんが見てますから、必要以上に熱くなることは無いと思いますが、冷静さを欠いていると判断したら、強制的にでも落ち着かせるのでそのつもりで』

 

「丙にそんなことさせないよう、気を付けて試合に臨みます」

 

『そうしてくれると私もありがたいですが、虚と彼女はどうしてもぶつかり合う感じですしね……期待しないでおきます』

 

 

 丙がため息を吐いた気がして、虚は少し恥ずかしげに視線を逸らし、開始時刻を待つのだった。




丙が久しぶりに喋った気がします……

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