暗部の一夏君   作:猫林13世

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やっぱり駄目人間だな……


掃除出来ない姉たち

 自分の過去を思わぬ形で視た箒は、自室で頭を悩ませていた。

 

「あれが過去の私だなんて……一夏様に手を挙げ、追いかけまわし周りを排除しようとする……そんな人間を幼馴染だと認めるはずがないではありませんか……何故それを理解出来なかったのでしょうか、過去の私は……」

 

「なにかあったのですか?」

 

「クロエさん……いえ、ちょっと自己嫌悪中です」

 

 

 戦争が終わってもこの寮で生活を続けているクロエに、箒は記憶のフラッシュバックがあった事を説明する。

 

「なるほど……束様からお聞きしていましたが、確かに最低な人間だったようですね、過去の箒さんは」

 

「一夏様に危害を加えようとするだなんて、何も考えていない証拠です」

 

「一夏さんを独占しようだなんて、束様でも考えない事ですからね」

 

 

 束は出来る事ならしたいとは考えたことがあるが、千冬と千夏がそれを許さないだろうと分かっているし、更識の人間が自分に一夏を明け渡してくれるはずもないと知っているので、そんな無駄な事を考えるのを止めただけなのだが、クロエはそんな事情を知らないので、束は一夏を独占したいとは思っていないと受け取っていたのだった。

 

「とにかく、これ以上一夏様に迷惑を掛けるわけにはいきませんし、記憶が戻らない事を祈るしかないですね」

 

「良く聞くのは、記憶が戻った時、記憶を失っていた時の事を忘れてしまうらしいですからね。万が一箒さんの記憶が戻り、今の状況を忘れてしまっていたとしたら、その時が箒さんの最期でしょうね」

 

「ただでさえ一夏様に生きる事を許してもらっているんですから、その一夏様に手を挙げたらお仕舞でしょうね」

 

「更識家の人か、織斑姉妹のどちらかが貴女を葬り去るでしょうね」

 

「もしそうなったら、一夏様にしてもらいたいですね……もちろん、死にたくはありませんが」

 

「記憶が戻らない方が、貴女は幸せなんですから、無理に記憶を追い求めないようにするしかありませんね」

 

「分かってます。ところで、クロエさんは何時までこの寮で生活をするのですか? 束様は既に危険な状態を脱したはずですが」

 

 

 一夏から聞かされていたのは、束がアメリカの軍事システムに介入するので、万が一でしかないが自分が危険に曝される可能性を考慮してクロエをIS学園に避難させる、ということだった。その状況が終われば、クロエは束のラボに戻ると思っていたのに、未だにルームメイトを続けている事に、箒は今更ながらに疑問を抱いたのだった。

 

「一夏さんが、束様のラボは人が生活出来る空間ではない、と仰られまして……束様が片付けを済ませられるまで私はこちらでお世話になることになったのです」

 

「そうだったんですか……ところで、私が聞いた話では、束様は片付けようとすればするほど散らかす、織斑姉妹と同レベルの家事スキルだということですが……」

 

「事実です。束様は片付けているつもりで散らかすお方ですから。ですので、まだ当分はここで厄介になりますので、改めてよろしくお願いします」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 

 互いにルームメイトに頭を下げ、同時に笑い出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏からラボの片付けを命じられた束は、片付けたはずの部屋が酷い惨状になっているのを見て首を傾げていた。

 

「おかしいな……さっき片付けたはずなのに、何でこんなに散らかっているんだろう? これは束さんの天才的な頭脳でも理解出来ないなー」

 

 

 束は片付けたつもりでも、一夏が見たら散らかしただけだというであろう作業を終えた束は、これじゃあクロエを呼び戻せないと盛大にため息を吐いた。

 

「いっくんも難しい事言ってくれるよね……片付けなんて、束さんが出来るわけないのに」

 

 

 人には向き不向きがあると分かっているはずなのになぁ、と束は呟きながらどうしたものかと腕組みをしてこの惨状を打破しようと考え込む。そのタイミングで、ラボに人の気配がすることに気が付き、その気配を確かめる為に入口に向かった。

 

「あれ? ちーちゃんになっちゃんじゃん。どうかしたの?」

 

「ちょっと一夏から逃げてるんだ。匿ってくれ」

 

「また何かしたのかなー?」

 

「どうせ見てたんだろ? 寮長室の惨状を一夏に知られてな。片付けろとカミナリを落とされそうになって逃げてきたんだ」

 

「なんだ、ちーちゃんたちもか」

 

「なに?」

 

 

 束は自分だけではなく千冬と千夏も片付けが出来ずに一夏に怒られたとしって、ホッと胸をなでおろした。

 

「実は束さんもいっくんに怒られてねー。ラボが綺麗になるまでクーちゃんをこっちに返してくれないって言うんだよね」

 

「つまり、ここに逃げてきたところで、一夏が追いかけてくる可能性があると?」

 

「てか、既に背後に鬼の形相をしたいっくんがいるんだけど……」

 

「「なにっ!?」」

 

「今日という今日は許しませんよ? この前片付けたばかりなのに、何であんなに散らかってるんですかね?」

 

「あ、あれはだな……芸術的センスによって彩られた寮長室であって、決して散らかってるわけでは……」

 

「遺言はそれで構わないですかね?」

 

「いや……すまなかった」

 

「束さんも、この前より散らかってるように見受けられますが?」

 

「あはは……頑張ったんだけどね~……束さんには片付けなんて出来なかったんだよ!」

 

「威張るな!」

 

 

 一夏のカミナリが駄姉三人衆に落ち、三人は小さくなって頭を下げるのだった。




片付けたつもりが散らかしてる……三人ならありえそうで嫌だな……

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