暗部の一夏君   作:猫林13世

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伊達に織斑姉妹の相手をしてきたわけではない……


真耶の成長

 参加者を見て、一夏と刀奈はあまりにも想像通りの結果にため息と苦笑いを浮かべた。

 

「参加者の内、虚さんと戦いたいと思ってる人が一人、残りは進路が決まっていない人たちですね……」

 

「更識の傘下とはいえ、結果次第では本社に異動出来るかも、というフレーズは効果絶大だったみたいね」

 

「まぁ、人手不足を解消するには丁度いいですが、プライドを持って一流企業を選んでたんじゃなかったんですかね……この時期になるとなりふり構っていられなくなった、という事なんでしょうか?」

 

「だと思うわよ? 卒業間近だっていうのに、進路が決まらないってのは焦る要因だと思うし」

 

「とにかく、これでイベントの体裁を保つことが出来ますね」

 

「参加者ゼロじゃ困っちゃうもんね」

 

 

 生徒会主催ではなく学園主催なので、このイベントに一夏たちが尽力する必要は無い。だが卒業生全員参加というふざけたルールのままではせっかく落ち着き始めた自分たちの周りが再び騒がしくなるという事で、一夏たちはルール改変および商品の変更を行ったのだ。

 

「虚ちゃんに勝てれば、そのままIS学園で教鞭を振るう事を許可する、負けても更識の関連企業への転職、もしくは就職が約束される、ね……一夏君だからこそ設定出来るご褒美よね。まぁ、一人だけで、その人は就職先決まってるけど……」

 

「虚さんとまともに戦える戦力を、みすみす手放すなんてもったいないと思ったんですけどね」

 

「まぁ、虚ちゃんとの一騎打ちを望んだのは、ダリル・ケイシーただ一人なんだけどね」

 

「何やら因縁めいたものがあるらしいですからね、あの二人の間には」

 

「性格が真逆で、しょっちゅう衝突してたらしいしね」

 

 

 虚は真面目でダリルは何処かいい加減だったために、互いに気に入らない部分があったのだ。それが積もり積もって因縁のようなものになり、今回のイベントでダリルが一騎打ちを望んだのだった。

 

「見学するだけなら面白そうなんですがね」

 

「それで終わるわけないわよね……一夏君、お願いね」

 

「逃がすと思いましたか? 刀奈さんも解説お願いします」

 

「あぅ……逃げないから襟首掴まないで」

 

「本当ですね? もし逃げたら……さて、どうしましょうか?」

 

「に、逃げないから安心して」

 

 

 普段浴びる事のない一夏からの殺気を浴びて、刀奈は背中に嫌な汗を掻いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒会室から上がってきた草案に、千冬と千夏は満足そうに頷き、そしてどこか誇らしげな表情を浮かべていた。

 

「どうかしたんですか?」

 

「さすが一夏だ、と感心していたんだ」

 

「学長が丸投げしたイベントの企画書が届いたんだが、実に満足のいく結果となっている」

 

「ですが、更識君が立派なのと、千冬さんと千夏さんとはあまり関係ありませんよね?」

 

 

 真耶の一言に、千冬と千夏は怒りを覚え睨みつけるが、真耶は一歩も引かずに言葉を続ける。

 

「更識君は千冬さんと千夏さんの許で育ったわけではなく、更識家で育ったのですから、お二人の手柄だと思うのは更識君に失礼だと思います。それでなくてもお二人は更識君に迷惑をかけまくってきたんですから」

 

「お前、覚悟は出来ているんだろうな?」

 

「確かに私はお二人にいろいろと世話になってきましたけど、その借りは十分返したと思います。というか、最近では私の方がお二人に貸しているような気もしますが」

 

「何だと?」

 

「お二人が仕事もしないでふらふらしている間に、私は期限が迫っていた書類の整理や、政府への対応など、代わりをしてきたんですよ? それでも間に合わない時は、更識君に手伝ってもらいましたが」

 

 

 真耶の言葉に、二人は反論しようとして言葉が見つからず口を開いたまま固まってしまった。まさか真耶に言い負かされる日が来るとは思ってなかったので、受けた衝撃は計り知れない。

 

「あら? 真耶は何をしてるのかしら?」

 

「小鳥遊先生……いえ、日ごろの鬱憤を晴らそうと思いまして、今日は言い返してみました」

 

「なるほど。一夏さんが言っていた事はこれだったのね」

 

「更識君が?」

 

「ええ。真耶にアドバイスしたとは聞いてたから、また仕事の事かと思ったけど、織斑姉妹に対しての事だったのね」

 

「頼り切りもあれなんですが、この二人に関しては更識君に相談した方が確実ですから」

 

「これで真耶も少しは楽が出来るんじゃない? ずっと織斑姉妹の尻拭いをさせられてたんだし」

 

「どうですかね……更識君が本当に学園経営に手を出してくれれば、かなり楽が出来るとは思いますが」

 

 

 一夏が人事権を握れば、まず間違いなく織斑姉妹は降格、もしくはクビとなるだろうと真耶は確信している。そうなれば偉そうにすることも出来ないし、仕事をサボれば即説教となるだろう。もちろん、一夏はIS学園の経営権に興味はないので、そんな事にはならないと分かってはいるのだが、それでも想像してしまうのは、それだけ織斑姉妹に対しての鬱憤が溜まっている証拠だろう。

 

「これからは自分で仕事を片付けるようにするんですね」

 

「一夏さんに怒られたくないのなら、真耶の言う通りにするべきですね」

 

 

 そう言い残して、真耶と碧は職員室から去っていく。残された織斑姉妹は、呆然と見つめ合い、その場に崩れ落ちたのだった。




強気な真耶は違和感が拭えないなぁ……

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