暗部の一夏君   作:猫林13世

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一夏だから出来ること……


参加報酬

 一夏と刀奈が調整したお陰で、卒業イベントである大会の参加者はそれなりに見込める形となった。特に、進学先も就職先も決まらなかった人間は、こぞって参加する運びとなった。

 

「一夏君が『それなりの動きを見せてくれたら更識傘下で雇う』とか言い出すから」

 

「人手不足は更識だって例外ではありません。IS学園卒ならそれなりに期待できますし、傘下で実績を残せば本社に引き抜きも出来ますから」

 

「相変わらず黒い事を平然と言ってのけるわね……」

 

「これでも暗部組織の当主ですからね、それくらいは当然です」

 

 

 表情を変えずに言ってのける一夏に、さすがの刀奈も苦笑いを浮かべる。だが、そんな一夏だからこそ側にいたいと感じるし、自分もその程度の事は考え付いてしまうのだと刀奈は思っている。

 

「まぁ、今回は優勝とか関係ないただのイベントですから、そもそも開催する意味が分からなかったんですが、これはこれで良い企画になりそうですね」

 

「更識企業にとっては、でしょ? 既に就職や進学が決まってる人には参加する意味すらないんだから」

 

「虚さんと戦いたいって人もいるみたいですけどね」

 

「あら、虚ちゃんも人気者なのね」

 

 

 虚の人気が高かったのかと、刀奈は少し意外に思ってしまった。確かに虚は更識の企業代表として有名であり、学力も高く羨む要素は確かにある。だが、同性から見て憧れるかと問われれば、どちらかと言えば自分の方が人気があるのではないかと思っていたのだ。これは自惚れではなく、確かに刀奈の人気は学園内でもかなり高いと言える。既に世界を制しているのだから当然と言えば当然なのだが、それ以外にも人気が出る要素が刀奈にはあったのだ。

 

「どうして女子は大きさを気にして、大きい人を羨むんですかね?」

 

「なんでだろうね。私はそういった事で悩まなくて済んだから分からないけどさ」

 

「簪や虚さんがたまに愚痴ってるのを聞きましたが、なんだか呪詛を撒いてる感じでしたし」

 

「怖いわね、それ……」

 

 

 それも一つの要因であり、『あの』小鳥遊碧の後継者であり雇い主、という事も相まって刀奈の人気は高いものになっているのだ。

 

「刀奈さん個人の力もあり、碧さんの力も混ざったらそりゃ人気も出ますよね」

 

「不特定多数に人気でも、ただ一人に不評だったら意味ないんだけどね」

 

「ちゃんと好きですから心配しなくてもいいですよ」

 

「最近の一夏君、そういう事をさらっというのよね……何か心境の変化でもあったのかしら?」

 

「心境ではなく状況の変化、ですかね。他の事に意識を割かなくてもよくなった分、刀奈さんたちの事を考えられるようになった、という事でしょうか。まぁ、元々ちゃんと考えてはいたのですが、どうしてもそれを最優先にすることが出来なかったものですから」

 

「いろいろとあったからね……あっ、いろいろと言えば、箒ちゃんの様子はどんな感じなのかしら?」

 

 

 アメリカとの戦争の際、過去の記憶がちらついたと報告があった箒の様子が気になったのか、刀奈は一夏にその事を尋ねる。

 

「大人しいものですよ。訓練でも実習でも、暴走する兆候は見られませんし、サイレント・ゼフィルスとの関係も良好です」

 

「このまま大人しくしててくれるのかしら……」

 

「戦争以前は篠ノ之さんの事を避けていた生徒も、今では普通に会話するようになりましたし、過去の篠ノ之を彷彿させる行動も見られませんから、そこまで神経質になる必要は無さそうですけどね。もちろん、監視は続けますが」

 

「一夏君も、箒ちゃんと普通にお話出来るようになったもんね」

 

「まぁ、突っかかってこなければ、それなりの対応はしますよ、昔から」

 

「そうだったかしら? 顔を見ただけで震えてたような気もするけどな~? お姉ちゃんの記憶違いだっけ?」

 

「ここぞというばかりに年上ぶってませんか?」

 

「そんな事ないわよ~? てか、最初から私の方が年上なんだけど?」

 

 

 二人の雰囲気や言動、その他諸々から一夏の方が年上っぽいのだが、刀奈が言った通り刀奈の方が年上なのだ。わざわざ年上ぶった事を言う必要は無いのである。

 

「これからは虚さんがいなくなってさらに大変になるんで、しっかりと仕事してくださいね、義姉さん」

 

「その呼び方は好きじゃないな~。もうちょっと可愛らしい呼び方してくれたら考えなくもないわよ?」

 

「最初から考える気が無い言い方ですね……てか、考えるまでもなく働いてくださいよ」

 

 

 来季も生徒会長は刀奈なのだから、一夏のツッコミは正しいのだが、刀奈はそっぽを向いて一夏の言葉を聞いていない風を装っている。

 

「やれやれ……来年度からもしっかりと働いてくださいね、刀奈お義姉ちゃん」

 

「やっぱり一夏君にお姉ちゃんって呼ばれるとやる気が湧いてくるわね。よし、今すぐ虚ちゃんの部屋に突撃してこの気持ちを分かち合おうっと!」

 

「止めてください。そんなことをしたら虚さんの事もそう呼ばなければいけなくなるじゃないですか」

 

「虚ちゃんは一夏君の『義姉』ではないから、そう呼ばなくても良いんじゃない?」

 

「いろいろとあるんですよ、俺にも」

 

「人気者は大変ね」

 

「どの口が言いますか……」

 

 

 盛大にため息を吐いた一夏を見て、刀奈は楽しそうに笑うのだった。




間違ってないですが、お気に召さない様子……

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